衝撃波の科学寄稿 高山 和喜 氏
第5回:衝撃波と地球惑星物理とのつながり
2006/10
43. 巨大小惑星衝突(その2)
衝撃波研究の見地から、巨大小惑星衝突のアナログ実験(図43-1)を行っている。しかし、現存する二段式軽ガス銃では、小惑星の推定衝突速度30km/sまして70km/sを再現できないから、高々7~8km/sの高速衝突で基礎実験を行い、数値模擬を検証し、実験と数値解の一致の程度から、数値模擬法が信頼できることを実証しようとしている。
大規模で超高速の衝突では、衝撃波背後の温度は容易に数万Kになり、比較的長秒時持続する。想像を超えるエネルギー注入の結果、岩石は溶融する。衝突孔の周辺部から放出された溶融岩石の微粒子は、その自由飛行の間に凝固し結晶化する。一方、気体力学のアナロジーでは非常に強い衝撃波背後で電離が起こるように、高速衝突で岩石や地殻中には強い衝撃波が伝播し、その背後で縦波速度を超える変形が起こり、固体を構成する分子間結合は瞬間的に破断されるので自由電子が放出される。また、瞬間的に衝突孔周辺には強い電磁場が形成される。この磁場を横切って放出される微粒子の溶融磁性体は磁場方向に沿って結晶配列して凝固し、磁気を帯びたスフェルールとなる。大きな隕石衝突孔の周辺から磁気を帯びたスフェルールが発見されている。
アポロ計画では、月面で磁化されたレゴリスが採取された。月には磁場がないから溶融微粒子が固まっても月磁場で磁化されることはないので、これは隕石の高速で瞬間的に発生した電磁場で磁化されたとも考えられる。高速衝突された標的岩石から自由電子が放出される実験は、まだ完了にはほど遠い。また、自由電子放出をも取り込んだ高速破壊の数値模擬モデルはない。二段式軽ガス銃の実験で高分子量ポリエチレン飛行体が金属標的に衝突するとき、強い発光が認められ、飛行体は熱分解した。図43-2に示すように、発光波長の強度分布から、衝突発光温度は7,000Kに達している。このとき、可視光域の電磁波だけが選択的に放出された訳ではない。マイクロ波を含む広い波長域の電磁波が放出されていると考えられる。
大規模地震発生に先立って、魚や鳥など生き物の異常行動が報告されている。地震に先行して、地下で大規模な岩盤のひずみや亀裂生成が進み、膨大体積の岩盤変形から、自由電子放出が起っていると考えても不自然でない。1985年、プラハで開かれた高速現象の可視化に関する学会に出席した。当時のチェコスロバキアの研究者が、切り欠いたアクリル樹脂板を引っ張り試験機にかけて、亀裂発生サブμs後に亀裂先端から発生する応力波を可視化する実験の報告があった。しかし、提示されたのは時間が十分経過した後の応力波の写真で、亀裂生成開始サブμs後の応力波を可視化するのは、当時も今も簡単な技術でない。我々が習熟しているホログラフィー干渉計で、同様に条件下で切り欠き周りの亀裂生成の瞬間を可視化できないかと相談を受けた。その宿題に答えるために、ガラスなどの非晶体、可視化可能な透明な固体中にパルスレーザー光を収束させて、発生する応力波を二重露光ホログラフィー干渉計法で観察する実験を繰り返し準備してきた。しかし、切り欠きを持つアクリル板試片に引っぱり力を負荷させた状態で保持し、レーザー光収束で非常に弱い擾乱を切り欠き部に作用させて、時間制御した状態で亀裂初生の瞬間を可視化する前に、研究者としての持ち時間が尽きてしまった。
一方、二段式軽ガス銃の衝突実験では、様々の素材の高速飛行体が標的素材の音速を超える数km/sの速度で衝突する。標的物体の内部を伝播する衝撃波と変形を、時間分解サブμsで短時間計測する技術が開発されている。この手法は地震研究ではまだ馴染まないが、この計測法を活用して固体の超音速変形に伴う自由電子放出が検出できる。
現在、東北大学理学研究科 21世紀COE「先端地球科学技術による地球の未来像創出」の研究活動の一環として、二段式軽ガス銃を使って直径15 mm の4分割ポリカーボネイトのサボに直径10 mmの岩石球を封じ、花崗岩の標的に6km/sで衝突させて発生する電磁波を計測しようとしている。予備実験を行い、ジルコニウム球を5.7 km/sで花崗岩に衝突させて、磁場の発生を確認している。
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