衝撃波の科学寄稿 高山 和喜 氏
第4回:衝撃波の医療応用
2006/04
25. 水中衝撃波の医療応用(その3)
研究を始めて2ヶ月後、短径100mmの半切回転楕円体の外部の焦点位置に摘出した腎臓結石を置き、内部の焦点で10mgのアジ化鉛を爆発させて発生した衝撃波を結石に収束させ、破砕されるのを確認することができ、実用装置設計を目指す基礎研究が加速された。図25-1は臨床試験に使った短径約140mmに切り取った回転楕円体容器を用いて拇指等大の腎結石に衝撃波照射したときの高速度写真である。結石は衝撃波の収束で先頭部に亀裂を生じ、非常に僅かだが緩やかな収縮膨張を繰り返して破砕された。結石内部の応力波伝播が破壊の機序に関与している。また、結石の周りに気泡生成が認められるが、気泡の生成と消滅の期間結石の亀裂生成と緩やかな振動過程に比べて短く、気泡の崩壊が結石破砕に中心的な役割を果たしているとは考えられない。
長短径比1.41、短径100mmで第二焦点を外部に置いた長軸に垂直に切り出したアクリル樹脂の回転楕円体容器の内部で水中衝撃波が反射する過程を実時間ホログラフィー法で可視化した。図25-2(1)では、水中衝撃波が水/アクリル樹脂界面で反射し、アクリル樹脂容器内部の干渉縞は透過応力波を示す。直接波は水中で伝播と共に減衰し、反射衝撃波は回転楕円体の内部で伝播方向に凹形に収束する。また、V字型の影はアクリル樹脂容器から放出された圧縮波である。図25-2(2)では、透過応力波はアクリル樹脂/水の界面から水中に応力波として放出され、反射衝撃波は外部の焦点に収束する。このように水中衝撃波と金属容器との波の干渉は複雑であるが、実際の金属のESWL装置では、金属容器の音響インピーダンスは水に比べて十分大きいので、実用上金属容器を透過するエネルギー損失は無視される。長軸に沿って伸びる影は、図25-2(3)でV字型の圧縮波が長軸に沿って収束して一瞬発生した高圧が反射してスポーリング強度を超える引っ張り力として作用してできた気泡群である。また、この可視化結果に対応する数値計算結果を図25-3に示す。x-y平面に回転楕円体断面形状を、z-軸は圧力を示す。直接波は減衰し、反射波は伝播と共に収束して切り立った圧力分布を示している。このことは、体外で発生した直接波は人体中でも伝播と共に減衰するので生体損傷の懸念を最小にし、反射衝撃波は生体中に比較的低圧で入射して伝播と共に切り立って、焦点位置の結石近傍に加速度的に高圧を発生することを示す。
反射衝撃波の収束圧を長軸に沿って計測し、その最高値の分布を図25-4に示す。縦軸は圧力、横軸は焦点からの距離で、回転楕円体方向に正、逆方向を負とする。数値シミュレーションの図25-3からも明らかなように、最高圧は焦点方向に近づくと共に加速度的に上昇し、焦点で最大となり減少する。また、半径方向には切り立った圧力分布を示し、結石破砕に有効と思われる高圧は長軸に沿って約20mm、半径方向に約5mmの紡錘形の領域に現れる。
10mgアジ化鉛の爆発で発生した衝撃波は水中で収束して焦点で50~100MPaの最高圧を発生する。しかし、生体のような非一様媒体中では水中の1/2~1/4に減衰し、減衰率には個体差が著しく普遍性がないと言われている。実験動物の体中での反射衝撃波の収束圧をピエゾ型圧力変換器で生体中に挿入したり臓器に密着させて計測したが、衝撃波照射毎に圧力変換器の出力は大きな電気雑音に覆われた。生体は衝撃波の透過に反応して電場を発生し、要するに発電機の中で微小電圧計測をしていた。接地の工夫程度では、電気雑音を除去できなかった。肉塊など、模擬物質での実験で、減衰率は1/2程度になることが分かった。
結石にその破壊強度を超える過剰圧の衝撃波を負荷すると、結石内部に圧縮波が伝播しその表面に亀裂が発生するし、応力波の背後に現れる剪断応力は亀裂生成を促進し、入射した応力波が伝播して結石の反対側、結石/尿あるいは腎臓界面で反射するとき、界面での音響インピーダンスの違いで反射波は引っ張り応力となり、その圧縮応力との差は結石の破壊強度を超えて、結石でスポーリング破壊が起こる。従って、結石を有効に破砕する過剰圧の半値幅は結石の代表直径よりも短くなければならない。微小爆発でできる水中衝撃波の圧力波形はほぼこの条件を満たしていた。
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