衝撃波の科学寄稿 高山 和喜 氏
第5回:衝撃波と地球惑星物理とのつながり
2006/10
39. 噴煙柱のその場サンプリング
微細化されたマグマの粒径と粒度分布を正確に計測できれば、マグマの微細化過程におよぼす膨張波負荷など非定常過程を明らかにできる。その結果から、火道内の波動を推定できるので、火山学の発展に貢献できる。降り積もった火山噴出物や火山灰からマグマ粒子の粒度分布を推定できるが、化石から恐竜を研究するようなもので、もし噴煙柱(図39-1)の中から微細化されたマグマを直接採取し、また、噴煙柱内の流動、電磁場、温度などを直接計測できれば、生きている恐竜にさわって調べることに相当する。
この直接計測を行う方法としてラジコン飛行機やヘリコプターの利用が考えられるが、噴煙柱の周辺を飛行するに止まり、噴煙柱近傍での電磁場や高温の影響を受けるために接近した計測は期待できない。
1998年、東北大学では工学部新入生を対象に創造工学という科目を開設した。研究の内容を説明した後で、希望者が毎週一回三時間プロジェクトに参加することになった。衝撃波研究の立場から、我々が用意した内容は「火山噴煙柱のその場サンプリング」であった。このプロジェクトは、高速で噴煙柱を横断して火山灰や微粒子をその場サンプリングし、温度と電場分布を計測するための小型ロケットの概念設計だった。
噴煙柱の至近距離では電波障害があり、噴煙柱の中は数百度の高温で微粒子や大小のデブリが高速で上昇しているので、微速で飛行するラジコン機は全く使えない。だから、噴火する火山の立ち入り禁止区域の外から小型ロケットを打ち上げて速度2km/s程度で噴煙柱を1~2秒で横断し、その間に微粒子採取、電磁場や温度を計測記録して、その後安全に着地させて回収しようという概要である(図39-2)。
したがって、小型ロケットには、火山灰、微細化したマグマ微粒子を採取・収納する機能、噴煙柱を横切る際に温度や電磁場変化を計測記録する機能等を持ち、固体微粒子との衝突や数秒間の高温環境下への暴露に耐える強度が要求される。電子計測装置の設計は、オーストラリア クイーンズランド大学に協力を要請し、このプロジェクトでは小型ロケットの概念設計を中心とした。また、ロケットは噴煙柱を通過後、回収のためにスキマーを放出して亜音速に減速し、最終段階ではパラシュートを開いて地上か海上に軟着陸することを想定している。
噴煙柱を横切る際にロケットはどう減速するかという全くデータがないことに気付いた。粉塵の体積が気体体積の5~10%を占める非常に濃密な固気二相媒体中を高速飛行する物体が受ける抗力は推定できないので、ロケットの突入速度の設定はもとより、ロケットの飛行方法も慣性飛行かロケット推進か決められない。
概念設計のロケットは全長2.5m、直径300mm程度で、相当量の推進薬を搭載している。研究費が保証され装置の設計製作が実現しても、打ち上げ花火のように簡単に現地に持ち運んで打ち上げることは許されないことが分かった。ほとんどの火山は国立公園にあり、そこでロケットを使用するには環境省の許可がいる。また、ロケットの運搬などには地元警察、海に落とす場合には漁業組合の許しがいる。
また、高速飛行体を地面に激突させて、地下構造物を破壊する兵器が開発されていると聞く。もし、地上から地下深くまで、無人で制御して孔をあける技術があれば、宮沢賢治の童話「グスコーブドリの物語」にあるように、地下に蓄積した高圧を、いわゆるガス抜きして噴火被害を軽減し、噴火口の位置をずらして人口密集地域をさけるよう設計するなど、夢物語を現実技術に熟成させることができるかもしれない。これを実現するためには、噴火の素過程を解明しなければならない。その第一歩として、噴火中の火山の噴煙柱から火山灰を採取して、その構造を知り、微小固体や噴気を採取し、また、温度や電場の分布などを測定できれば、衝撃波研究や工学が火山学の発展ばかりでなく、火山防災にユニークな貢献を果たすと考えている。
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