衝撃波の科学寄稿 高山 和喜 氏
第1回:衝撃波はどこに現れるか
2005/09
5. 衝撃波はどこに現れるか(その2)
宇宙船の打ち上げでは、膨大量の化学エネルギーを消費して、宇宙船は宇宙空間に位置エネルギーを獲得する。一方、大気圏再突入では、獲得した位置エネルギーを運動エネルギーに変換して、突入速度は容易に7km/sを超える。その際に運動エネルギーは熱エネルギーに変換、宇宙船の前面には非常に強い衝撃波が現れ、宇宙船全体は非常に高い高温に曝される。特に前部淀み点温度は容易に一万度を超える。この現象は空力加熱を呼ばれ、この熱の壁を乗り越えることが宇宙計画の最後の重大関門である。しかし、人類は未だ空力加熱を克服する技術を取得していない。スペースシャトルコロンビア号の悲劇は大気圏再突入の難しさを物語っている。将来、日本の独自技術での有人宇宙飛行、月面あるいは火星からの帰還が実施されるとき、宇宙機の究極の熱防禦設計が重要な開発技術となる。スペースシャトルの耐熱タイル設計は信頼性を欠き、アポロ司令船の熱防禦は重すぎる。従来の再突入の空気力学を基本から見直した独自技術が開発されなければならない。1970年以前のデーターベースは信用できないし、スペースシャトル設計のデータも見直さなければならない。このとき、強い衝撃波の挙動を高い信頼性で解明することが最重要研究課題になる。
鞭をふるうと先端から炸裂音が聞こえる。このとき鞭の先端は超音速で動きその周りに衝撃波が現れる(図3-4)。だから、鞭はすさまじい破壊力を発揮し、猛獣は猛獣使いに服従する。一般に、空気中で乾いた炸裂音を聞くとき、音は衝撃波が減衰した結果なので源には衝撃波があり、衝撃波は高速現象に伴って起こっている。
水中爆発は様々の強さの衝撃波を発生するが、水は空気とは異なり相変化を伴うので、気泡と衝撃波の干渉は水中衝撃波研究の重要な課題となっている(図3-5)。固体壁近傍で気泡に衝撃波が作用すると、衝撃波に曝された気泡は収縮し部分的に高圧を発生して、これが二次的な衝撃波ないし圧縮波を発生し、同時に、微視的な高速水ジェットを駆動する。この水ジェットは固体壁に激突して鑽孔する。これは比較的複雑な衝撃波作用の結果で、気泡を伴う舶用推進器、水力機械要素に起こるキャビテーション損傷の素過程である。水中衝撃波研究と気泡力学とは、相互補完の関係にある。水を満たしたコップの泡がはじけるコップに耳を近づけるとピチピチという小さな炸裂音を聞く。これは気泡崩壊で起こった微視的な衝撃波が減衰した音である。従って、私達の身の回りには、至ところ衝撃波が現れている。
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