衝撃波の科学寄稿 高山 和喜 氏
第3回:衝撃波の数値模擬
2005/11中旬
16. 衝撃波を目で見る(その2)
衝撃波管内を伝播する衝撃波の写真撮影は、衝撃波研究の復活と同時に盛んになった。密度変化のある部分を垂直に透過する平行光束は、密度の変化に比例して屈折するので、屈折量が分かれば密度変化を推定できる。これは湯気を通過した太陽光が壁に揺れ動く縞模様を作る日常の経験である。影写真法(図16-1)はこの原理をより精緻な計測技術に昇華したものである。影写真では衝撃波を通過する光束は波面で急に屈折しフィルム上に露光不足と過剰露光の影となって表示される。衝撃波面に焦点を合わせた影写真では、衝撃波は黒と白の曲線の組み合わせで表示される。影写真法はマッハの時代から知られた技術で、物理研究の最先端では、その時代の先端技術を採用して計測精度を最も高く保とうとしている。
今、光学計測は、微妙な時期、エマルジョンフィルムが記録素子の中心の時代からCCD素子の発達とともに記録素子の変換過渡が始まり、最初フィルム製作会社はこの動向を歯牙にも掛けなかったが、技術改革の進展は目覚ましく一般的な安価なカメラは全てデジタルになった。多分将来、CCD素子は一般的な高解像の記録素子になるが、技術の移行過程は空間解像の精度で鎬を削っている。勝負はあったが移行過程が果てしなく続き、大げさに譬えれば、爬虫類が世界を制覇した時代が終わって、哺乳類が生態系の主導権を握る変革過程を類推させる。しかし、エマルジョンフィルムの重要性はなおもCCD素子の特性を上回り、生物界で爬虫類が存在意義を失わないように永続するであろう。
テプラーは影写真の光学系でフィルム側の焦点の位置にナイフエッジを挿入して焦点に集光した光を部分的に遮断すると、測定部の密度変化で屈折して焦点位置でずれた光束の変化量に応じてフィルム面の光量が変化することに着目して影写真の感度を高めた。この計測法はテプラー法と名付けられたが、今では、シュリーレン法(図16-3)と呼ばれている。影写真での画像の濃淡は密度の二次微分に比例し、シュリーレン法の画像の濃淡は密度の一次微分に比例する。また、ナイフエッジの代わりに色フィルターを挿入し、また、光源側に色フィルターを置く様々のカラーシュリーレン法が普及している。いずれの技法も流れの密度変化や密度勾配を色表示すると言う絵画的な効果は注目に値する。基本的にカラーフィルムが白黒フィルムに置き換わったような時代の好みで、今後コンピュータグラッフィクスの発達を背景に、カラーシュリーレン法はますます普及すると思われる。 |
密度変化に伴う屈折率変化が光の光路長の変化を作るのでこれを検出して密度変化の絶対値を求める方法がある。この原理で光学素子の一様性の精度を検査するジャマン干渉計を改良して、マッハ親子とツェンダーは後にマッハ-ツェンダー干渉計(図16-5)を発明している。マッハは科学技術史に名を残した偉人であるが、多少奇妙な振る舞いも記録されている。多分、親子で干渉計を発明したときと思われるが、研究室にしていた自宅の納屋に、発明が盗まれないよう息子と泊まり込んだと言う。特許の概念がこの時代にあったかどうか分からないが、あったとしてもこの種の発明には適用されなかったのかも知れない。学問の世界でもアイデアを盗用したとか盗用されたとか話題は尽きない。盗用した人は笑いをこらえ多くを語らないが、盗用された人は悔し涙を流し、マッハが聞いたら、だから息子と不寝番をしたのだと言うかも知れない。
マッハ-ツェンダー干渉計は密度変化を直接計測できる唯一の方法だった。しかし、この方法では測定系と参照系の二つの光を比べて光路差から密度変化を検出するので、光学素子のひずみやガラスの脈璃は干渉縞を作る。だから、光学素子や衝撃波管の窓ガラスには高い精度が要求される。
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