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衝撃波の科学寄稿 高山 和喜 氏

第3回:衝撃波の数値模擬

2005/11中旬

18. 数値模擬(その1)

図15-3 テプラーのスケッチ 数値解法は様々の要素から評価され、CPU時間で評価するのも一つの方法であるが、我々は、衝撃波の数値計算結果を今まで述べた光学可視化画像と対比して、計算精度を評価している。現在の数値解法では、衝撃波や接触面はそれなりの精度で模擬できて、衝撃波の形が実験結果と異なることは起こらない。しかし、流れ場までが一致するかどうか保証はない。二次元の衝撃波管流れで無限縞ホログラフィー干渉計画像の縞次数と分布は、密度の絶対値と分布を示している。だから、数値解の密度を干渉縞の分布に表示して、可視化画像と一致の程度を比較することは適当である(図18-1)。

 衝撃波管に取り付けたくさびを過ぎる衝撃波の反射は、衝撃波研究のベンチマークテストで1940年代から多くの人が実験を繰り返している。1960年代、ノイマンはそれまでの衝撃波反射の研究をとりまとめ、衝撃波マッハ数とくさび角度の組み合わせで、正常反射とマッハ反射が現れる領域を示す解析解を導いている。大勢の研究者が、実験的に、また、解析的に、現在では数値解析的に正常反射からマッハ反射に遷移するくさび角度を予測しようとした。しかし、実験結果と解析解は微妙に食い違い、弱い衝撃波では、実験と解析解は全く一致しない。アメリカのバーコフ教授は彼の個性的な教科書に、原因が説明できない不一致を大らかにパラドックスと呼び、弱い衝撃波の実験と理論の不一致を「ノイマンパラドックス」と名付けた。「ノイマンパラドックス」は流行言葉になり、衝撃波反射に興味を持つ研究者は言葉の意味を考えた。

図15-3 テプラーのスケッチ 衝撃波管でくさびに沿って伝播する入射衝撃波は、くさび面と衝撃波管壁にそれぞれ垂直に伝播する。だから、入射衝撃波は波面の何処かでくさび傾き角だけ曲がる。ノイマン以来の伝統で、この曲がりは「一点」で起こり、衝撃波三重点に対応すると考えた(図18-2)。くさびを衝撃波面に対する擾乱源と考えて見よう。くさび傾き角が浅いときは衝撃波面の角度の食い違いは小さく衝撃波が十分弱ければ、このくさびは弱い擾乱の発生源となる。棒の両端を掴んで僅かに曲げると棒は撓む。脆性材料ではたわみを大きくすると一点で折れる。マッハ反射は全ての物質中の衝撃波伝播に現れる。気体が最も容易に衝撃波伝播を許すので、マッハ反射の物理が空気力学の専売になっているだけの話である。乱暴な例えであるが、気体は脆性材料の、液体はやや剛性の、金属など固体は極端に剛性のある材料の棒に対応している。だから、後者では相当強い力で大きく曲げても折れない。

図15-3 テプラーのスケッチ 気体力学の仮定では、この例え話に従えば、棒は曲げると直ちに折れると考えていた。しかし、衝撃波面は微小擾乱に曝されると、「一点」で折れずにある部分で曲がることもあるのだ。これが「ノイマンパラドックス」である(図18-3)。弱い衝撃波が浅いくさびに沿って伝播すると、衝撃波三重点ではなくて連続的に湾曲する部分が現れる。衝撃波が強くなり、また、くさび傾き角が大きくなると、言い換えると擾乱が強くなると、連続的に湾曲する部分が収束して衝撃波三重点に移行する。要するに、棒が折れたのだ。この考え方を実証する数値模擬と精緻な衝撃波管実験が進行中で、疑問が解決するのは時間の問題である。

図15-3 テプラーのスケッチ くさび傾き角が大きくなると、マッハステムと入射衝撃波が交差する角度が大きくなる。なおもおおきな傾き角でマッハ反射が保持されるとすれば、くさびに沿うマッハステムの速度は異常に大きくなるので、マッハステムは消滅する。このときのくさび傾き角を遷移臨界角と呼ぶ(図18-4)。くさびがこの角度を越えると、三重点の軌跡はくさび面に重なり、反射形態はV字型になり正常反射が現れる。だから、壁に正面衝突する衝撃波は正常反射に属し、壁に垂直に伝播する衝撃波マッハ反射の極限形態である。

 衝撃波反射の理論では、伝統的に、垂直衝撃波のランキン・ユゴニオの関係を論じ、突然、斜め衝撃波のランキン・ユゴニオの関係に移行し、正常反射を論じ、その解が存在できなくなる限界の斜め衝撃波の傾き角を遷移臨界角と名付けている。伝統的な説明では正常反射でない反射形態がマッハ反射で、両者の特徴を結びつける物理的な必然性はなかった。だから、三重点のないマッハ反射は「ノイマンパラドックス」と鬼子扱いされたのだ。液体や固体中では三重点を持たない「ノイマン反射」(図18-3)とよばれる弱い衝撃波のマッハ反射が一般的な形態である。

図15-3 テプラーのスケッチ 1985年、少し長くドイツに滞在したとき、ネアンデルタールにあるジュイスブルグ大学の爆発実験場を見学する機会を得た。ホレンベック博士がアクリル樹脂中の衝撃波反射は正常反射の存在領域をはるかに離れているのに、三重点は認められないとの写真を見せて下さった。この方はサンディア国立研究所でバーカー博士と速度干渉計(VISAR velocity interferometry from any reflector)の共同研究を終えて帰国した気鋭の研究者だった。ホレンベック博士はアクリル樹脂中では、正常反射の領域が広いと言い、私は正常反射でないからマッハ反射だと主張して見解は平行線だった。今思えば、これはノイマン反射で、固体中ではノイマン反射が一般的な反射形態となる良い例だった(図18-5)。



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