衝撃波の科学寄稿 高山 和喜 氏
第3回:衝撃波の数値模擬
2005/11中旬
17. 衝撃波を目で見る(その3)
一方通行の雑踏のように老若男女のそぞろ歩きは光源から発する白色光に類似し、レーザー光は軍隊の分列行進に比較できる位相が揃った単色光で、コヒーレントな光と呼ばれる。ガボールはレーザー光の出現以前に顕微鏡の感度を上げるためにホログラフィーの概念を提唱し、水銀灯の光でこれを実証した功績でノーベル物理学賞を授与された。その後レーザー光の出現でホログラフィー法は応用物理に用いられ、1960年代の後半には二重露光ホログラフィー干渉計法(図17-2)が提唱された。東北大学高速力学研究所では、1975年に、従来の影写真の光学系に組み込んで二重露光ホログラフィー干渉計法を衝撃波計測への応用を開始した。特に、暗中模索が続き、初めの頃、衝撃波の干渉計写真を指導教官の本田 睦教授に見て頂いたら、「地獄絵図のようだ。」との評を頂いた。めげずに努力し、1983年、マッハツェンダー干渉計に匹敵する精度で水中衝撃波の計測が可能になり、1983年、初めて成果を世に出し、本田先生は「これはやりすぎだ。」と合格点を付けて下さった。
従来、エマルジョンフィルムは光情報の振幅と位相の中で、振幅情報、言い換えると光の強度、のみを記録した。しかし、ホログラフィー法では、光源の光を物体光と参照光に分けて、現象の情報を含む物体光と参照光を同一フィルム面に記録し、このフィルムを現像したホログラム情報に参照光を照射する再生という過程を通すと、フィルムに潜在的に記録された位相情報を取り出すことができる。エマルジョンフィルムから位相情報を取り出すことは画期的な画像処理技術で、ノーベル賞に値した。
二重露光法では、現象に先立って一回目の露光を、また、現象と同期させて二回目の露光を行う。二回の露光の間にそれぞれ位相情報が記録されるが、再生を通して変化した位相情報は干渉縞となって抽出される。また、衝撃波管実験で、二回の露光の間に光学要素を変化させずに得た干渉写真には、二回露光の間に生じた密度変化に対応する屈折率変化が濃淡の縞分布となって表示され、無限干渉縞写真と呼ばれる。これに対して二回目の露光の間に、フィルムに重ね合わす参照光の照射方向を変化させると、等間隔で平行な縞分布に密度変化に対応する縞の歪みが重なり合った写真となり、有限干渉縞写真と呼ばれる。衝撃波管実験の可視化では、普通、無限干渉縞写真が取られる。
二重露光の間に変化しないレンズや鏡、また、測定部窓ガラスなどは画像の解像に影響しないので、衝撃波管実験では非一様な組成のアクリル樹脂の窓ガラスの利用や、水のようにやや非一様な媒体中の衝撃波計測が可能になった。その結果、大型衝撃波管の180 mm×1,100 mm測定部には、厚さ40mmのアクリル樹脂板を用い、可視化の自由度が広がった。
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