衝撃波の科学寄稿 高山 和喜 氏
第3回:衝撃波の数値模擬
2005/11
14. 衝撃波管(その3)
衝撃波マッハ数を知って、その背後の圧力、密度、温度、粒子速度を求める、ランキン-ユゴニオの関係式がある。比較的簡単な関係式だから衝撃波の専門家を自称すれば、熱心な仏教徒が般若心経を、また、キリスト教徒がニケア信教を諳んじているように、ランキン-ユゴニオの関係式を海馬の生涯記憶に刷り込んでいるはずだ。院生の時、指導教官が助手に「マッハ数2の定常流れの淀み点温度は何度かなあ。」と雑談の内に聞いた。院生にとって助手は権威ある先生だが、返事に窮していい加減なことを言った。指導教官は「専門家というのは、その程度のことは暗算で答えるものだが。」と一言言った。当然のことながら、ランキン-ユゴニオの関係式はその範囲の常識である。
数学者のリーマン(図14-1)は19世紀の人で、もし数学の殿堂があったら殿堂入りしているはずだ。リーマンは微小摂動法で、質量保存と運動方程式に断熱の関係を連立させて弱い衝撃波前後の状態量の変化を求めた。また、レーリー卿も有名な音響理論の中でリーマンの理論を引用している。任意強さの衝撃波背後の状態量を求める関係は、スコットランドの熱力学者ランキンとフランス陸軍の砲兵士官ユゴニオの業績である。ランキンとユゴニオは、それぞれ独立に衝撃波の前後で運動エネルギーとエンタルピーの和が保存されることを指摘し、質量保存と運動方程式にこのエネルギー保存則を連立させて、初めて任意強さの衝撃波背後の状態量を求めることに成功した。ランキン-ユゴニオの関係式である。ランキンは学者でユゴニオ(図14-2)は砲兵士官である。エネルギー保存則の論文がユゴニオによっても書かれ、衝撃波研究に重要な貢献をしたことはすばらしい。軍人が物理の公式に名を残すなど、今の日本の歴史の常識では考えられない。ユゴニオが例外的に優秀な人物だったのか、フランスの個性を認める自由思考の教育制度がこれを励ましたのか、興味を持っている。
局所的に衝撃波管問題を設定して、衝撃波、接触面、膨張波背後の状態を定めることをリーマン問題と呼ぶ。チョーリンはリーマン問題を解いて不連続面の取り扱いに成功し、初めてランダムチョイス法を提唱した。これが契機になって、多次元の双曲型偏微分方程式の差分解法に、リーマン問題の解法が組み込まれ、同時に並列型スーパーコンピューターが広く利用可能になり、計算量の大きさを無視できるようになったので、衝撃波、接触面、膨張波を伴う流れを精度良く模擬する数値解法は飛躍的に発展した。
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