衝撃波の科学寄稿 高山 和喜 氏
第4回:衝撃波の医療応用
2006/04
27. 水中衝撃波の医療応用(その5)
東北大学病院等での臨床試験の結果を基礎に厚生省の薬事許可を申請し、長い審議時間の後1987年、微小爆薬を用いる体外衝撃波結石破砕装置は承認された。これは爆薬を用いた初めての結石破砕装置なので、爆薬の取り扱いについて法規制が検討された。日本火薬工業会がこの方式に非常に良い理解を示し、通産省は医療用微小爆薬を、その安全性を確認した上で、火薬取締法の適用除外、玩具の花火と類似の項目に該当すると認めた。実用装置では10mgのアジ化銀粉末をプラスチックのカートリッジに入れアルミ箔で封じ、回転楕円体の内部の焦点位置に置いた。起爆はアルミ箔表面に炭素鋼の探針を接触させて、5ボルトの電圧を負荷し、カートリッジを送り込んで間欠的に行った。探針の接触位置はばらつくので、発生する球状衝撃波の発生位置は焦点位置から2~3mmの範囲に分散し、結石表面に収束する高圧も第二焦点の位置から4~5mmの範囲でばらついた。その結果、結石表面は万遍なく高圧に曝されたので、結石は効果的に破砕された。
ドルニエ社の装置は東北大学の方式に先んじて日本に導入され、当初、保険のきかない治療期間があり、装置が高価だったためか、治療費は些少でなかった。治療費を払える人だけが優れた医療技術の恩恵に浴し、貧乏人は苦痛に耐えて手術で腎臓摘出されることになる。これは公平ではないので、衝撃波の技術で安価で治療効果の高い装置を作って世に役立てようとすることが開発研究の励みだった。東北大学で開発し八千代田工業が実用化した装置は、医薬装置の常識を越えて微小爆薬を使っている。厚生省は判断に時間を掛けた。その間に、フランスエダップ社の装置が導入された。これは皿形の超音波振動子を大振幅で一回加振して、できた進行方向に凹の音波面群を収束させて結石破砕できる高圧を発生する方式だった。ドルニエ社の装置では治療に要した衝撃波照射おおよそ2,000回、フランスのエダップ社の超音波収束装置では衝撃波照射20,000回、一方、東北大の方式では200回だった。当然、治療後の尿の出血は衝撃波照射数によって変わり、われわれの方式ではやや血のにじんだ尿が排出された。
東芝メディカル(株)はピエゾ素子を大振幅加振する強力超音波の医療応用を模索していた。体外衝撃波結石破砕術が実用化されたので、これを結石破砕に応用するエダップ社方式の開発研究が始まった。水中衝撃波の研究者として音波が収束して衝撃波に移行する現象には興味があったので基礎研究を担当することになった。図27-1は24の湾曲した素子からなる直径300mmの浅い凹皿状の超音波振動子を急加振して発生した音波を収束させ、時系列的に可視化した結果である。干渉縞の時間空間分布の変化から、複数の波面が収束して衝撃波に移行する過程が分かる。また、波面群が焦点に収束して最高圧が現れる時から、焦点近傍に気泡が形成され、気泡は微小圧力変動で振動し崩壊して再膨張衝撃波が認められる。
基礎実験中に軟骨中の衝撃波は一般の生体組織とほぼ同じ速度で伝播することを知った。一方、骨は固体の性質を持ち密度、音速も結石同様である。表23-1(第23章)は生体組織の密度、音速、音響インピーダンスを示す。ESWLで腎臓を標的に衝撃波を収束させるとき、収束点近くの部位に肋骨が位置しないように注意した。強い衝撃波を負荷された骨には、結石破砕と同様の破壊効果が現れることを案じた。
1991年、消化器外科への応用として、ESWLを胆嚢結石、胆石への適用が始まった。東北大学消化器外科教室から北山 修博士が派遣され、共同研究は順調に進行した。胆石は中年の太った女性に比較的起こる症例で、代表的な疼痛とされ、Fat, forty years old female, 3Fの病気と教えられた。ESWL装置で胆石は比較的良く破砕できたが、尿路結石症とは異なり自然排泄され難いので、微細化にはさらに工夫が必要だった。また、日本が貧しかったとき、殆どの胆石の主成分は胆汁酸の結晶だったが、国が豊かになって食生活が変化して、胆石主成分はコレステロール結晶に変わった。図27-2は摘出した拇指頭大のコレステロール胆石を寒天で固定して衝撃波を40回収束させ、毎秒6,000コマで高速撮影した結果である。胆石は先端と末端部を中心に砂状に粉砕された。また、高圧の発生と消滅に伴って、寒天の中でもキャビテーション気泡発生が認められた。
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