衝撃波の科学寄稿 高山 和喜 氏
第5回:衝撃波と地球惑星物理とのつながり
2006/10
37. 噴火の数値模擬(その2)
桜島(図37-1)で同様の計測を実施したいが、激しく活動中なので火口付近の立ち入りは禁じられている。また、電源や計測設備を設置できる場所は火口から谷を隔てたところにあり、火口からこの場所までは樹木に覆われている。数値模擬では、地表を固体の境界で置き換えている。この取り扱いでは、岩ばかりの阿蘇や雲仙には有効であるが桜島には不適当である。一方、樹海に沿って伝播する衝撃波や音は著しく減衰することが知られているが、大規模環境で樹木や植生によって衝撃波が減衰することについて、定量的なデーターベースはなく、数値計算の境界条件設定は非現実的である。現在、桜島での爆風計測計画は中断している。
1998年、マントル付近にあるマグマ溜まりが1ヶ月掛けて岩手山の直下に移動して、岩手山に噴火の兆候が現れた。過去にこのような原因で起こった噴火は大規模で、有史前の大噴火では、盛岡に達する岩屑雪崩が起こった痕跡があるという。火山学者は大噴火に備えて、数値シミュレーション法を用い、過去に起こった様々の規模の岩手山噴火を想定して被害予測図を作成することになった。図37-2はその数値模擬の結果である。噴火エネルギーと発生する衝撃波強さの関係が経験的に分かっているので、数値的に想定される爆風の強さと被害をもたらす過剰圧の及ぶ範囲を特定できる。しかし、幸いにもマグマ溜まりは停留して、やがて降下し始め、火山活動は休止した。
1707年、富士山宝永噴火では、推定噴出物8億立方メートル、江戸にも火山灰が降った。今、この規模の噴火があれば、東京の首都機能は停止し新幹線も高速道路も閉鎖されるだろう。富士山の噴火を想定して、国は既に周到な対策を立てていると想像している。もし、富士山噴火の程度を知って、政府が直ちに首都移転、成田空港閉鎖、衛星放送の対策、交通路の確保など対策をとれば、外から見て日本は頼もしい近代国家に映り、災いを国の威信発揮に転換できるだろう。しかし、宝永噴火では、須走一帯は噴出物に覆われ農民は小田原に対策を迫り、江戸にも火山灰が降り積もり対策に苦慮したという。今、同様なことが起こったら、静岡、神奈川県庁や政府はパニックになり、また、罹災者や一家言を持つ評論家の声や利害関係機関の調整に右往左往し、対策の意志決定に時間を要すれば、外から見て日本は頼りない国に見え、過去の噴火災害から何を学んだのだろうと不思議に思うだろう。
衝撃波研究が火山噴火の被害予測に直結するとは思わない。しかし、過去の噴火被害記録と対比して数値模擬の結果を検証できるから、爆風被害予測と降灰を組み合わせた数値シミュレーション法を確立することは必要である。現在、室蘭工業大学の齋藤務教授は富士山噴火の数値模擬を進めている。
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