衝撃波の科学寄稿 高山 和喜 氏
第5回:衝撃波と地球惑星物理とのつながり
2006/10
41. 太陽のフレアー爆発と人類の歴史
中国では、麒麟や赤気などの出現は王朝滅亡の印とされた。太陽のフレアー爆発(図41-1)では、電子や水素やヘリウムイオンなどの荷電粒子が秒速400kmで宇宙空間に吹き飛ばされている。荷電粒子の数密度は1立方センチに10個程度と希薄だが、この数は宇宙空間にある粒子密度としては非常に高い。太陽から吹き付ける風、太陽風と呼ばれている。荷電粒子は地球の地磁気場と干渉して、丁度、風洞実験で超音速流れに置かれた球の周りにできる離脱衝撃波のような衝撃波を形成している。この衝撃波は、分子衝突ではなくて荷電粒子が地磁気の磁力線にまとわりついてできるので、無衝突衝撃波と呼ばれている。衝撃波に捕獲された荷電粒子は、地磁気の磁力線に沿って地球の南極と北極から地球の上層に入り込み、上層大気中の酸素や窒素分子と衝突して発光する(図41-2)。これが極地の上空のオーロラになる。
高速の荷電粒子が生体を直撃すると、突然変異源となるなど有害である。一方、月には磁場がないので衝撃波もなく、太陽風の荷電粒子は直接月面に降り注ぐ。その結果、月面の岩石は太陽風の直撃にさらされ、レゴリスとよばれるガラスの砂になる。荷電粒子の直撃は生物の突然変異源となるので生物の進化に太陽風の直撃は有害で、地球上の生命は磁場と無衝突衝撃波で太陽風の直撃から護られていることになる。太陽の大規模なフレアー爆発で、荷電粒子は極地ばかりでなく中緯度上空にも達する。
その結果、中国の歴史書に記述されている赤気、オーロラは中緯度上空にも現れる。火山の大噴火や太陽フレアー大爆発は地球環境を変え、世界の気候に悪い影響を与える。だから、中国の歴史に記述された天変地異は、皇帝の資質には無関係で、人の暮らしが自然界の微小変動に決定的に支配されていることを示し、暗愚な皇帝でも豊作が長年続けばぼろを出さずに君臨できるが、いかに名君でも長く凶作が続く時代をつつがなく乗り切ることは不可能である。旧約聖書の出エジプト記にある、7年間の豊作の後7年間の凶作が起こるという王様の夢判断をして、ついにエジプトの宰相になったヨセフの話は、多分、天変地異に対して人が備えるただ一つの解決策を示しているのかもしれない。
歴史家は、火山噴火など自然界の変動で生活環境が漸近的にあるいは突発的に悪化して、民族の大移動が起こったことを重視していない。歴史家が言うように、ゲルマン人がローマの文化を羨んでローマ帝国に侵略し、ヴァンダル人や蒙古人が征服欲に燃え血に飢えて西進して文明国を滅ばしたとは思えない。正常な機能と文化を持つ国あるいは民族が、このような生物の本能にも備わっていない侵略をあえてするとは思えない。止むに止まれぬ状況があったとしたら、地球規模の気象異変などが、その遠い原因になっていると想像する。すでに古代気象という研究分野があるので、上に述べたことは自明かもしれないが、我々の教育課程では、歴史は政治史であり、科学技術の発展や気象に強く影響されて、冷たい夏をおろおろ歩いて今日に至ったことを強調していない。
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