HOMEテクニカルレポート衝撃波の科学

衝撃波の科学寄稿 高山 和喜 氏

第5回:衝撃波と地球惑星物理とのつながり

2006/10

38. マグマの微細化

図38-1 セントヘレンズ火山の噴煙柱(Courtesy of the U.S. Geological Survey) 火山学では噴火形態はマグマの動粘性係数によって非常に異なることが知られている。ハワイ島の火山ではマグマは玄武岩からなり低粘性なので噴水のように噴き出して流れ、破壊的な作用を示さない。高粘度のマグマを伴う噴火では、雲仙普賢岳の噴火のように火口から押し出された溶岩が溶岩ドームを形成し、これが崩壊して火砕流になるなど、壊滅的な破壊を示す。阿蘇中岳のように噴火形態は、活動期間を通じて同じではなく異なることも知られている。
 地下から供給される高粘度マグマは微細化されて噴煙柱となって大気中に吹き上げられる(図38-1)。その高さは噴火災害の規模を示している。大規模噴火では、噴煙は容易に成層圏に達し地球を覆う。1883年、クラカトア火山の噴火では、火山灰は北半球の成層圏を覆い、世界各地で美しい日没が続いた。ターナーの美しい日没はその事実を示している。

 高粘度のマグマが微粒化される機序を明らかにすることは、火山学と言うよりも高粘度媒体中の非定常熱流体力学の問題になる。地下のマグマは高圧環境下で過飽和に揮発性物質を溶融している。また、マグマから放出される水蒸気、炭酸ガス、亜硫酸ガスなどは、火道に充満して圧力を高め、マグマ溜まりと地表をつなぐ亀裂、噴気孔を通じて大気中に解放されて、噴火の前兆となる。しかし、さらに圧力が高まって噴気孔の断面積が急に拡大したり、火道が開通すると、マグマ溜まりは短時間に減圧し、発泡する。誇張すればシャンパンのコルクを抜いたときのように、マグマは気泡にみたされる。この状況は、気液二相高圧室と大気圧の低圧室が隔膜で仕切られた衝撃波管の設定に非常に類似している。
 実際の噴火では、火道の開通が隔膜破断に相当して噴火が始まる。噴火の数値模擬モデルのように、まず、火口から衝撃波が放出される。気泡で満たされたマグマは火口方向に加速され、マグマと火道の間に満たされていた空気は衝撃波圧縮され、マグマ界面は接触領域に相当する。また、発泡したマグマの中を膨張波が深部方向に伝播する。もし、マグマ溜まりの深さが有限で固体の底をもつならば、膨張波はマグマ溜まりの底から反射し、反射膨張波はマグマ溜まりを通り抜けて、火道から大気中に放出される。
 マグマ溜まりに底があるか、火道の形状がどのようになっているのか分からないが、もし衝撃波管モデルが妥当ならば、火口から放出される圧力波は反射膨張波の情報を含んでいる。もし、火口近傍で十分な精度と高い時間分解能で圧力計測ができて、火口から計測点までの三次元的な地形効果を数値模擬で補正できれば、反射膨張波の情報を検出できるかもしれない。その波形から衝撃波管モデルの妥当性が検証できるばかりでなく、火道形状などが推定できる。
 接触領域は高亜音速か超音速で火口方向に移動する。接触領域背後で気泡はさらに膨張し、マグマ微細化は促進されるから、気液二相高圧室の流れは単純な衝撃波管理論の予測とは異なると考えられる。気泡成長と液相の微細化は相互に干渉する。気泡成長と液相の分裂微粒化は有限時間を要し、言い換えると、気液二相媒体へのエネルギー配分は熱的に非平衡になる。この複雑系の数理モデルを確立するには、なお種々の素過程を解明しなければならない。
 工業的に価値のある溶融金属を高圧に保ち、ノズルを通して低圧環境下に放出してアモルファス金属微粒子を作る技術が確立されている。この技術ではナノ粒子製造のためではなくて、ミクロンからサブミリ粒子を製造する。最適粒径のアモルファス微粒子を焼結して、工業的に有用な物性値をもつ材料が作られる。溶融金属の微粒化と凝固過程を制御して、鋭い粒度分布をもつ微粒子を作るようノズル流れを制御し、製造工程を最適化する技術が開発されている。最適化には、従来のノズル流れに衝撃波ないし高周波数の圧力擾乱の援用が必須になる。
 溶融マグマが微細化凝固を伴う火山灰を生成する過程は、アモルファス微粒子の製造過程と非常に類似している。金属微粒子の生成過程は短時間なので非晶質構造を示すが、微細化したマグマの凝固過程は比較的長秒時掛かるので、結晶成長を示すマグマ微粒子も報告されている。溶融マグマの温度と圧力を、実験室で再現することは容易でないが、微細化と凝固の動力学を実験室的に再現することは可能で、噴火の素過程の解明と火山防災の研究に重要である。
 マグマの微細化研究のために、高粘度液体として高圧下で窒素を溶解させた水飴を大気圧空気から隔膜で仕切り、それを破断したとき水飴が高速で大気圧空気中に噴出して微細化される過程、また、微細化の破砕面が水飴中を伝播する様子を高速ビデオ撮影した。これは類似実験で、アナログ実験と呼ばれ、高粘度気液二相高圧室と大気圧空気からなる低圧室の衝撃波管実験である。
 このアナログ実験は現在進行中で、波動伝播の様相、マグマ模擬物質が膨張波の負荷で微細化された際の粒径と粒度分布との関係を解明しようとしている。ビデオ画像は、膨張波負荷でマグマ模擬物質の微細化などの数値モデルを確立するために、噴火素過程解明に重要な情報である。



前へ
目次    
第1回 01 02 03 04 05
第2回 06 07 08 09 10
第3回 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20
第4回 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32
第5回 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44
第6回 45 46
     
次へ