衝撃波の科学寄稿 高山 和喜 氏
第4回:衝撃波の医療応用
2006/08
29. 水中衝撃波の医療応用(その7)
ESWLの基礎研究を通して、結石を破砕する衝撃波照射の過剰圧は必ず生体損傷を伴うことが分り、その機序の解明が重要な基礎研究課題になった。生体組織に瞬間的に大きな剪断力が作用して、生体組織は挫傷する。一方、衝撃波照射で発生する気泡運動は局所的に大きな破壊効果を発現する。図27-2(第27章)で見たように衝撃波照射で、寒天中にも気泡(キャビテーション)が発生し、また、ESWLの超音波診断でも高圧発生領域に瞬間的に気泡が認められ、気泡は比較的長い時間残存した。基礎研究で単一気泡に衝撃波を負荷すると、気泡に沿って伝播する衝撃波は気泡を高圧に包み、気泡は収縮する。
一方、液体は気泡収縮のため体積膨張するから気液界面での衝撃波の反射波は膨張波になる。これは気液界面での音響インピーダンスの違いで、反射波は膨張波になると言う物理の言い換えである。収縮する気泡表面に沿って速度を生じ衝撃波が最初に接触した点は淀み点となり、そこで圧力は局所的に最大になる。その結果、気泡の収縮変形運動と淀み点の高圧に駆動される気泡淀み点の並進運動の合ベクトルは、気泡内部に加速的に突入する気泡界面の変形速度を誘起する。界面の変形は水ジェットを形成するが、この物理は成形爆薬の爆発で高速溶融金属ジェットを発生する原理と一致する。このとき発生する溶融金属ジェット速度は容易に10km/sを超える。一方、気泡変形で誘起される水ジェットの速度は、気泡直径と負荷する衝撃波過剰圧で変わるが、100m/sの範囲にあり、その淀み点圧は容易に140MPaを超える。
図29-1は高速撮影の結果である。寒天に貼り付けた直径2mmの空気泡に水中衝撃波を作用させたとき、気泡は上記の崩壊過程を経て水ジェットが形成され、最終速度約100m/sで細い針を突き刺すように寒天に貫入している。気泡再膨張では、水ジェットは寒天中から針を引き抜くように後退するが、貫入痕が残されている。気泡直径と衝撃波の作用圧で異なるが、気泡直径に2倍程度の貫通深さが観測されている。
ESWL治療では、気泡は、膨張波発生に伴う低圧でなくて、高圧が消滅して大きな引っ張り力発生に伴う、いわゆるスポーリングによって発生する。このことから、気泡と衝撃波干渉を使って生体軟組織損傷を制御できる。一方、気泡内部は水蒸気で満たされ、その音速は水の音速に比べて低いので、水中衝撃波背後の高圧は気泡内部に斜め衝撃波を作る。しかし、気泡中の斜め衝撃波は進行方向に凹面の包絡面を形成するので気泡内部に起こる衝撃波の振る舞いは単純でない。さらに、気泡直径は小さく、内部の波動はさらに短時間現象なので光学可視化法も適用不可で、衝撃波で変形中の気泡内部の流動を知ることは出来ない。
ESWL処置の間に生体近傍で発生した水蒸気気泡は、直ぐに消滅することなく残存し、後続する衝撃波照射で崩壊すると、図29-1のように水ジェットは生体軟組織に貫入する。図29-2は、ESWLの動物実験の結果、衝撃波照射した犬の腎臓を摘出した際の損傷の様子である。弓状動脈を精査気泡崩壊の微小水ジェットが貫いて出血させた痕が確認できる。
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