衝撃波の科学寄稿 高山 和喜 氏
第3回:衝撃波の数値模擬
2005/11
12. 衝撃波管(その1)
1899年、パリ高等工学院のヴィエイユ教授は隔膜で仕切った直管に高圧気体と空気を封じ、隔膜を破断すると空気中に音速を超える波が伝播することを発見した。日本では明治31年、日本の科学技術の黎明期のことで、この時代に日本に衝撃波という術語が認知されていたのだろうか。ヴィエイユの衝撃波管の発見は、1930年代になるまで忘れられたが、衝撃波管はアメリカやドイツで、高速流れ研究を支援するため、また、戦時研究の一環として爆風挙動の実験装置として復活した。衝撃波管と関連技術は、戦争後から宇宙開発に関連し極超音速流れの実現に必須になった。北アメリカの衝撃波研究の先駆者の1人、トロント大学航空宇宙研究所のグラス教授(図12-1)は「衝撃波管は現代高速空気力学研究の試験管である。」と重要性を強調している。日本では、1960年代に東京大学航空研究所の玉木章夫教授が初めて衝撃波管を導入したと言われている。
衝撃波管の構造(図12-2、図12-3)は比較的単純で、直管を隔膜で高圧室(4)と低圧室(1)に分けてそれぞれ高圧気体と試験気体を封じ、隔膜を破ると高圧気体はジェットとなって低圧室に流れ込み、ジェットは等価的にピストンとして作用し、その前面に圧縮波を作る。隔膜が短時間で全開するとジェットの流量が増して、言い換えると加速中のピストンとして作用して圧縮波を強め、後で発生した強い圧縮波は先行する圧縮波に追いついて、短時間の内に衝撃波Sを形成する。このようにしてできた衝撃波は、ジェットの先端形状が湾曲しているので、進行方向に凸形状であるが、直管内の伝播と共に平面に移行する。直ぐに一定速度で伝播する平面衝撃波になり、その背後に一様状態(2)が出現する。隔膜の材質と厚さにもよるが破断時間は100マイクロ秒程度で、衝撃波管直径の40倍程度の距離を伝播すると平面衝撃波が形成される。これを衝撃波形成距離という。衝撃波管理論では隔膜は直ぐに破れ、衝撃波背後を高圧気体のジェット、接触面Cあるいは接触領域が追いかける。接触面の前後で圧力と粒子速度は変化しないが、密度と温度は変わる。従って、接触面も一種の不連続面となる。衝撃波の議論では、気体の流速を一般的な流速と言う表現と区別して、慣例的に粒子速度と呼んでいる。
高圧気体中には衝撃波伝播と反対方向に膨張波Eが伝播し、膨張波背後で圧力や温度が下がる。膨張波の先頭部は音速で伝わり、その尾部は接触面を追いかけ、先頭部と尾部の間で圧力は高圧室圧力から接触面の圧力まで連続的に変化するので、有心膨張波と呼ばれる非定常膨張過程である。また、膨張波の尾部とCの間の領域(3)は一様で、温度は低下し流速は領域(2)の速度なので、局所的な流れのマッハ数は領域(2)のマッハ数に比べ大きい。これに対して、領域(2)では粒子速度はマッハ数に比例して増大するが、温度もマッハ数の自乗に、従って音速はマッハ数に比例して増大するので、局所流れのマッハ数は一定値に漸近する。衝撃波背後で気体の温度がマッハ数の自乗に比例して増大するので、衝撃圧縮で温度上昇できることを既に述べた。
膨張波が高圧室末端で反射し、反射膨張波REとなって低圧室方向に、また、衝撃波は管端で反射して反射衝撃波RSとなり高圧室方向に伝播する。反射衝撃波RS背後では気体温度はさらに高まり、容易に10,000 Kを超える。従って、衝撃波管は高温発生装置である。衝撃波管内の流れは比較的単純で、その上高速気流にあらわれる全ての波動を含むので、数値計算法の有効性を評価できる格好のベンチマークテスト課題となる。しかし、現実には、衝撃波や接触領域背後の流れには管壁に沿って境界層が発達し、領域(2)、(3)は境界層の排除厚さの影響で必ずしも一様状態ではなく、接触領域の挙動も単純でない。火薬の爆発では、爆発生成気体は衝撃波管の高圧室気体に等価で、急速に膨張する火の玉となって球状衝撃波を駆動する。しかし、爆発生成気体の温度が下がり膨張速度が減少すると球状衝撃波も減衰し、衝撃波背後の一様状態は保持されない。また、火の玉の中を逆行伝播する膨張波は、伝播と共に収束して圧縮波になり、中心で反射して二次衝撃波を形成するなど、波動は単純でない。これに対して、衝撃波管は直管で流れは一次元的に拘束されているので、衝撃波背後の一様状態は、点爆発などに比較すれば、非常に良く保たれる。
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