衝撃波の科学寄稿 高山 和喜 氏
第1回:衝撃波はどこに現れるか
2005/09
4. 衝撃波はどこに現れるか(その1)
衝撃波はエネルギーが蓄積して瞬間的に解放されるとき現れる。人為的には、火薬の爆発、放電、レーザー光の収束、高圧の解放、高速衝突、水蒸気爆発、高速流れ、超音速飛行などに現れる。火薬の爆発では、化学エネルギーが解放された爆発生成気体は、高速で膨張するピストンとなってその前面に衝撃波を作り、爆発が伴う破壊は衝撃波とその背後の高速流れに起因している。科学技術の発展は火薬の有効利用に負うところが多く、火薬の使用を厳しく制限することは重要であるが、これは火薬を必要以上に危険物視することではない。基本的に火薬はエネルギーの缶詰で、容易にエネルギーを取り出すことができる安全な物質である。
気中あるいは水中の放電では、電気エネルギーの瞬間的な蓄積で媒体中にプラズマが発生し、その急速な膨張が衝撃波を駆動する(図3-1)。レーザー光収束も同様に、光エネルギーを透明な媒体中に蓄積して衝撃波を発生する。また、レーザー光が金属表面など固体面を照射するとき、レーザー光照射とは逆方向にプラズマの高速ジェットが噴出し、その反作用として固体中に衝撃波が発生する。レーザー光の収束は高い時間空間分解能の精密制御が可能で、レーザー光の光化学効果ではなくて、レーザー光照射を利用した衝撃波技術が展開されている。
高速物体が固体あるいは液体に衝突するとき、標的媒体中には衝撃波が発生し、その背後には衝撃波を用いる以外の手段では達成できない極限の高温高圧が実現できる。高温の溶融固体を水中に投下すると、溶融固体は水蒸気膜に包まれる。不規則な形状の蒸気膜は直ちに崩壊し、高速水ジェットを作って溶融固体に貫入する。その結果、溶融固体の表面に瞬間的にまた同時に無数の水のくさびが打ち込まれたように水との接触面積を爆発的に増大し一気に微細化する。これは水蒸気爆発の素過程で、衝撃波は液膜崩壊の駆動力として重要な役割を果たしている。
自動車のガソリンエンジンシリンダーからの排気はまだ比較的高圧、高温で、この圧縮波が排気管を伝播する間に、先頭の波面は切り立って衝撃波に移行する。従来、自動車排気の消音器は、音波を減衰させることを目的に、四端子回路理論を用いて設計されている。複雑管路での音波の反射、回折から減衰量を推定している。しかし、衝撃波は非線形波なので、この線形波減衰の理論で設計した消音器は、排気音の50%を減衰させるに過ぎない。自動車エンジンの排気管をガラス円管で置き換えて、ホログラフィー法で可視化して弱い衝撃波が形成されて伝播することを実証した(図3-2)。この結果に励まされて、自動車会社から派遣された研究者は、複雑形状流路を過ぎる弱い衝撃波の減衰過程を詳細に解明することができた。この結果に基づいて設計製作した消音器を搭載した自動車が市販されている。ここでも衝撃波は音と区別されている。
日本の新幹線は人口密集地帯を縫って走り、また、山間地には長いトンネルが多い。新幹線の列車がトンネルに突入すると、その前面に圧縮波が形成され、圧縮波は伝播と共に切り立って弱い衝撃波を形成する。しかし、トンネル出口から放出される衝撃波は弱く、物を破壊損傷することはないが、トンネル出口付近に住む人には不愉快な爆発音騒音である。近い将来新幹線の営業速度が300 km/hになると、この爆発音は環境騒音で許容できない強さになる。このトンネル衝撃波騒音を減衰する研究は、衝撃波力学を背景に進められるべきである(図3-3)。
超音速飛行する航空機の周りにも衝撃波が現れる。この衝撃波はソニックブームと言われ、トンネル衝撃波騒音と同様に破壊的な作用はない。人口密集地帯上空の飛行制限が唯一の解決法である。
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