衝撃波の科学寄稿 高山 和喜 氏
第4回:衝撃波の医療応用
2006/04
24. 水中衝撃波の医療応用(その2)
ドルニエ社のESWL装置(図23-2)は放電で水中衝撃波を発生している。我々はアジ化鉛の微小爆発で整った水中衝撃波を発生し、また、計測法もほぼ確立しているので、今までの研究計画を放棄、進行中の経皮的腎瘻孔での結石破砕実験を全て中止して、取り扱いを習熟したアジ化鉛数mgの水中爆発で発生した球状衝撃波を利用するESWLの基礎研究を開始した。まず、回転楕円体での球状衝撃波収束を可視化した。短径100mm、長径141mm、長短径比1.41の回転楕円体の長径に対して、末端を直径50 mmの浅い皿形に垂直に切断した供試体の遠方の焦点位置でアジ化鉛10mgのレーザー起爆で発生した球状衝撃波の反射を時系列的に可視化した(図24-1)。球状衝撃波が反射して供試体壁に近い焦点に収束する過程が干渉縞分布の変化でよく分かる。焦点位置に干渉縞が集まり、圧力が加速度的に高まっている。干渉縞分布から推定する焦点近傍の高圧は約40MPaだった(図24-2)。また、干渉縞が密集した微小領域は、非常に大きな密度勾配のため物体光は局所的に大屈折して干渉縞はできないので、灰色の領域になる。また、焦点位置近傍で高圧は1~2マイクロ秒間持続し、直ちに大気圧に減圧する。このとき水のスポーリング強度を越える引っ張り力が発生するので、水は引きちぎられて気泡が生成する。
八方手を尽くして、ドルニエ社で取得した衝撃波収束の写真を入手しようとしたができなかった。開発研究で基礎研究のデータを公開するはずはない。だから、衝撃波研究者の誇りを掛けて基礎データを取得して細大漏らさず論文に発表しようとし、実験はますます面白くなった。研究室の仲間は、信じられないような短期間で実験に必要な装置を作った。真鍮厚板から楕円形状を旋盤でくり抜き、この形状をもとに倣い旋盤で回転楕円体容器を作った。外注する資金も時間もなかったが、熱意と創意は十分にあった。
その頃、医学部の研究者が「ESWLはドイツの着想でこれを追試することは物真似で情けない。研究を中止しよう。」と申し出てきた。直ぐに応えた「医療技術は分からないが、重要技術で日本人の独創と胸を張って主張できるものは幾らありますか。自動車、飛行機など、日本人は物真似を発展させて技術を身につけたではありませんか。ドルニエ社は基礎データを公表していないが、我々は少なくともこれはできる。先生がこの研究をお止めになるなら結構です。他所に共同研究者を捜して、我々は基礎研究を続けます。」と。その後、より親密な協力関係ができあがり、腎臓結石症や尿の流れの動力学などの特別講義を受けた。その中で「人間の体の中で最も血流量が多いのは、当然のこと脳で、次は腎臓である」と聞いて感慨を深くした。要するに、腎臓で血中の老廃物を取り除き浄化している。都市計画で脳に相当する中核機能を整備することの重要さは理解できるが、人体では下水道整備に相当する腎機能が二番目に重要になっているとは知らなかった。ローマ人の都市計画では、このことが既に実践されていたのは見事である。
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