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CAEと品質工学寄稿 芝野 広志 氏  高木 俊雄 氏  平野 雅康 氏

応用編:CAEと品質工学の融合とは

2005/08/05

4. CAEと品質工学の融合

 QEでCAEを利用するためには、

安定な実物にするためのSN比利用
設計定数間の交互作用があるかどうかの検査のための直交表利用

図2 第3シーンQEにおけるCAE利用のシナリオの2つが必要なことをこれまでに述べた。このことをふまえて第3シーンQEでCAEを利用する場合のシナリオを考えると、図2のようになる。CAEを品質工学(の一部のパラメータ設計)と一緒に使うことによって、実物試作前に(実物がない段階で)実物に通用する安定化情報を得るというシナリオである。無駄な実物試作を防止するシナリオと考えても良い。

 基礎編で説明したように、品質工学は、たくさんの設計定数(制御因子)を研究し、さらにノイズ(誤差因子)を取り上げるパラメータ設計を推奨している。現場の技術者(マネージャも含めて)には、そのデータ数の多さから品質工学を敬遠する向きもある。一発必中の価値観が高い技術者には当然の思いかも知れない。しかし、一発必中だけで事が済めば良いが、そうはいかないことの方が圧倒的に多いのは読者がご存知の通りである。そこで、品質工学をより簡単に実践できるようにすることが必要で、そのために以下のことを考えた。

ノイズを取り入れやすくしたい
実物試作より簡単なモノを利用したい

 安定性に対する設計定数の価値を見極めるためにノイズを考えるのだが、このノイズは実物の場合よりCAEの場合の方が取り入れやすい。実物を使う実験の場合、せいぜい温度や湿度のようなものをノイズとして取り入れるのが普通である。しかしノイズはお客の使用条件と言われるように多様にあり、ノイズを多く取り入れれば取り入れるほどSN比の信頼度は高まるのである。しかし実物では限界がある。しかしCAEを用いると、設計定数の水準値の前後にノイズをとることにより実物よりはるかに多くのノイズを簡単に取り入れることが可能なのである。CAEでのノイズの取り入れ方とその価値を実践編の事例で認識してほしい。

 図1を再びよく見てほしい。CAEと品質工学を融合する理由の一つは、設計定数間の交互作用の検査である。CAE内の設計定数間の交互作用がなければ、CAE外の設計定数とも交互作用がないと考えて良いだろう、ということによる。このことは、CAE内の設計定数間に交互作用がないなら、CAE外の設計定数は何でも良いということを意味している。こう考えると、CAE外の設計定数はより簡単な水準値にして研究する工夫・知恵が浮かぶ。その結果、簡単なモデル(もしくは理論式)で良いことになる。この簡単なモデルや理論式を筆者はテストモデルと呼ぶことにする。これは、実物に対するテストピースに相当するもので、CAEに対するテストモデルである。特に技術開発はテストピースによる開発が理想と言われてきたが、そのことをCAEの場合に応用する考え方がテストモデルである。すべての技術者に図3に示した知恵を働かせてほしいものである。開発生産性向上のために。技術者の価値向上のために。

図3 開発生産性向上のための技術者の知恵 ミノルタ(現コニカミノルタ)では、1989年に品質工学を導入するに当たり、開発生産性向上(当時は開発効率アップと言っていた)を目的に「シミュレーション/理論式によるパラメータ設計」を提唱したのである。その心は図3に示したとおりであった。

  第3シーンQEでCAEと品質工学を融合する価値を論じてきた。CAEにしても品質工学にしても、それを論じるには「言葉」というものはあまりにも貧弱で、理解するには実践が不可欠である。理解を助けるために、実践編では事例を利用してCAEと品質工学の融合の仕方を説明する。




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