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CAEと品質工学寄稿 芝野 広志 氏  高木 俊雄 氏  平野 雅康 氏

基礎編:品質工学の考え方と活用のポイント

2005/07/19

5.材料の微粉砕事例

図3 システム概略図 この研究事例は、我々が品質工学の導入直後に取り組んだ初期のものであり、品質工学を理解する上で、重要な示唆を受けた事例である。
 図3のシステムは10μmから100μmの微小な粒子(トナー)を製造する装置である。高圧の空気を使って細かく粉砕する部分と、製品として使用できる大きさの粒子に選別する分級と呼ばれる部分から構成されており、粒子の大きさ(粒子径)を目標値に合わせ込みながら製品化する装置である。

  我々はこのシステムに求められている目的を製品として必要な粒子径の微粒子を効率よく回収する事と考えていたので、回収された粒子の大きさ(粒子径分布)と回収量を測定して実験していた。実験には直交表は用いず、装置条件を一つずつ変化させながらデータをとり、その傾向を見て判断し、次の実験を考える。

図4 粒子径分布と特性値 この方法で様々な現像剤を開発してきた我々にとって、粒子径と回収量以外の特性は考えられなかった。粒子径分布の形状から様々な特徴を拾い出し、現像材の種類毎に一因子実験を繰り返していた。
 たとえば、目標とする粒子径より小さい粒子(微粉と呼ぶ)や大きい粒子(粗粉と呼ぶ)の含有率を減らす実験や、目標とする粒子径に平均値を合わせ込む実験である。図4に粒子径分布のデータを示す。

 この様な特性(品質)を使った解析でも、開発期間や投資に余裕のある時には問題は無かったし、うまく改善できる場合もあった。しかし、ある時、解決の目処が立たない課題にぶつかった。
 それは様々な種類(大きさや硬さ)の現像剤を一台の製造装置で作り出すための技術開発の課題で、投資効率や製品開発の速度を向上させるためには、早急に解決しなければならない技術課題であった。
 この課題に対し、これまで蓄積された固有技術をフルに活用して実験を繰り返したが、特性値同士のもぐらたたき状態に陥り、結局行き詰まってしまった。
 つまり、このような実験は単独では良い条件が見つかるのであるが、平均値の合う条件では微粉が増えたり、微粉の少ない条件では処理量(単位時間に流せる材料の量)が減少したりして、総合的な最適条件を見出すのは困難で時間がかかるのである。

 そこで、職場内で実験の進め方を再検討した結果、基本機能の改善による品質工学の実験を推進することが提案された。これには、社内で品質工学の活用を強力に推進していた事業部長や推進担当者の存在、更には、課題を持った技術者が品質工学の専門家と課題解決についての議論を交わす実践的な研究会が開催されていたことが大きい。
 具体的な議論の内容は割愛するが、基本的なステップとしては以下のようである。

  1. システムの基本機能は、粉砕エネルギーに対する粒子径の変化と考える。(図56
  2. 特性値は、粒子径分布全体を使う。(解析方法は田口先生からの御指導による。)
  3. 誤差因子として、将来の製品を考えて材料の硬さと比重を採用する。
  4. 直交表L18で実験する。(表1
  5. 製品収率や加工速度などの品質特性は、実験終了後に確認する 。

 このステップで実験した結果、当初の目標であった、粒子径の調整性と製品収率の向上を両立する安定な技術を約2ヶ月の期間で確立できた。更に驚いたことに、硬さや比重の違う資料が、ほぼ同じ粒子径に加工できる条件が見出され、品質工学のパワーを認識させられた取り組みであった。
  この実験が成功して以後、品質工学による製品開発や技術開発が活発に行われるようになった。

図5 エネルギーの流れ方と粒子の状態

図6 粉砕の基本機能の定義

図5 エネルギーの流れ方と粒子の状態
 

 

 

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