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CAEと品質工学寄稿 芝野 広志 氏  高木 俊雄 氏  平野 雅康 氏

基礎編:品質工学の考え方と活用のポイント

2005/07/19

6.温度上昇対策の事例

図7 ランプと冷却システム部分 材料の微粉砕事例は、研究用とはいえ実際に生産するシステムを使って実験した。品質工学の適用初期の取り組みであったので、現物で実験した方が理解しやすかったこともあるが、実際の機械を利用すると、実験に時間とコスト(材料費や試作費用)が結構必要となる。
  この問題を解決するべく、実物での実験からテストピースによる基本機能の改善に取り組んだ研究が、次に紹介するOA機器の温度上昇対策に取り組んだ研究事例である。
  複写機やプリンターをはじめとするOA機器には、画像の投影や読み込むための光源(ランプ)が存在する。近年、OA機器はその大きさが著しく小型化され、それに伴って、光源付近の温度上昇が問題となってきた。温度上昇を防ぐには、発光効率の高いランプの使用や、冷陰極管のような発熱しないランプの使用も考えられるが、コストや光の波長、光量などの問題から活用できない部分も多い。
  その結果として、ランプの発熱には、ファンを使った空冷などのシステムで対策することが一般的である。
  また、機内の温度上昇値は法律で規制があるため(電気用品取締法等)、測定部分の材料や寸法などが実際に市販される製品の状態と同じでないと測定する意味がなくなる。開発初期の試作機や手作りの機械では隙間があったり、材料が量産品と異なっていたりする場合があって温度上昇値があてにならない。したがって、技術担当者が温度を計測する場合、金型物で部品がそろった設計の最終段階で実施することが多くなる。
  しかし、設計の最終段階での温度上昇値が規格をクリアできなかったらどうなるのか?担当技術者にとっては大変な図面変更作業が待っており、金型の変更となればコストアップも半端ではない。技術者は、温度計測結果を、かたずを飲んで見守るのである。
  その問題は、品質工学によるテストピースでの実験で見事に解決した。図7は実験対象となった光源と冷却システム部分の模式図である。冷却ファンからの送風で、ランプ付近の温度を下げている。通常は高温になると予想される個所を熱伝対などで温度を計測している。

図8 冷却システムの基本機能 品質工学による実験では温度は計測せず、温度を下げるための技術手段である送風のシステムに着目し、送風ファンに投入される電力と、風速の関係を評価した(図8)。効率よく風が送られてくれば、温度は必ず下がると考えたのである。
  風速を計測するのであれば、材料や寸法が多少違っていても問題はない。実験の担当者は厚紙に設計図を書いて、手作りの部品をいくつか作成し、ファンに印加する電圧を変えながら風速の変化を計測した。誤差条件があっても、風速がばらつかず、しかも傾きの大きな設計が望ましい。グラフの傾きβは、ファンに投入された電力が風速に変換される効率である。
  この厚紙による風速測定実験で最適となった設計を採用し、実物の試作を行って温度を計測した結果、ランプ付近の温度は見事に目標値をクリアしたのである。
  設計初期の段階でも風速なら精度よく、簡単に測定できる。少ない投資で効率よく設計に生かせる情報が得られる工夫が必要である。品質ではなく、基本機能を評価し、テストピースの実験を採用すれば、有効な設計情報を効率的に獲得できる。



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