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アンテナの歴史と未来 寄稿 安達 三郎 氏

第6回:波及

13. 実現されなかった長距離ミリ波通信

 衛星通信の一つの欠点は、静止衛星の高度が約36,000kmと遠く、電波が地上から衛星を経て再び地上に戻って来るだけで約0.25秒を要しリアルタイムの電話には不向きである。そのため、国内の大容量有線通信回線の必要が叫ばれた。そこに現れたのがミリ波の導波管伝送による長距離通信の計画であった。ミリ波技術の研究は米国のベル研究所をはじめ、日本では電電公社の研究所を中心にして戦後間もなく始められ60年初頭ころまでには基礎的な設計・製造技術は確立されていた。 そこでミリ波による長距離通信方式の実用化に向けて総合的な研究計画が立てられると共に、大学や企業もこれに加わって60年後半から70年代に入って実用化のための研究が活発に行われた。伝送路としては直径51mmの多モード円形導波管を用いた。使用するTE01モードの伝送損失は周波数の増加と共に小さくなる特長があるが、問題は導波管の曲がりや不完全性によってTE01モードからTM11やその他の高次モードへ容易に変換することであった。そのために導波管の壁面に誘電体皮膜を施したり、導波管壁面を螺旋状導体にしたりする方法などが考案されたが開発は困難を極めた。 それでも70年半ばまでには実用化試験や商用化試験を経てW-40G方式(30万回線)の実用化の一歩手前までに到達した。

 ところが、突如として米国ベル研のミリ波長距離伝送計画の打ち切りが発表されや、日本もこれに追随し電電公社は実用化計画を断念した。この計画打ち切りの影には実は光ファイバによる長距離通信の可能性が次第に明らかになってきたことがあったのである。


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