アンテナの歴史と未来 寄稿 安達 三郎 氏
第5回:開花
11. 戦後の無線通信・放送
20世紀初頭に始まった無線通信の実用は長波帯から短波帯へと進み、次いで第2次世界大戦中の電波兵器の開発が契機となりマイクロ波帯の研究開発の爆発的な発展をもたらすことになった。戦後になってそれがやがて長距離大容量マイクロ波通信ネットワークの構築を可能にし、また、大戦中から進められていたテレビジョンの研究はマイクロ波技術を駆使することによって戦後間もなくテレビジョン放送の実用化へと花開かせた。
図23は当時マイクロ波回線の中継用送受アンテナとして多用されたパスレングスレンズアンテナを示す。レンズは金属板列からなり、電界は金属板に垂直で金属板に沿って光速で伝搬するために、レンズの等価屈折率はn = 1 / cosで与えられレンズの凸面は双曲面となる。このアンテナの欠点の一つは重量が重くなることである。やがてこれに代わってホーンリフレクタアンテナが多用されるようになったが、これもまた次第に基本形であるパラボラアンテナとその変形に集約されるようになった。
1953年、VHF帯(やがてUHF帯にも拡張)を用いたテレビジョン放送が開始された。当時、放送用テレビアンテナとしてはその広帯域性のためにマスターズ(米国)の発明によるスーパーターンスタイルアンテナ(図24)が広く用いられた。このアンテナはバットウイング(蝙蝠の羽)と呼ばれるアンテナ素子を十字になるように交叉させたアンテナで、それぞれを90度位相差で給電し、水平面で無指向性を得ている。ただし、この場合アンテナを支持する塔は波長に比べて細いことが条件となる。したがって太い塔の場合は他の形式のアンテナを採用しなければならない。これには反射板上のダイポールを4方向に配列する方法などが取られた。
同じような理由で、UHF帯の送信アンテナとしては、反射板上の1波長ループアンテナ(安達・虫明)を複数個並列・直列接続した双ループアンテナ(遠藤・遠藤)がよく用いられた。図25に双ループアンテナ、(a)2Lと(b)4Lを示した。これを複数個テレビ塔の周りに配列して所望の水平面指向性を得ることができる。このアンテナの特徴としては構造が簡単で、比較的広帯域性を持つことである。これらはFM放送アンテナとしても多用されている。最近では、デジタル放送に備えて東京タワーに新しく建設されたアンテナ群にも多用されている。
TV受信アンテナとしてはもっぱら八木・宇田アンテナもしくはその変形が用いられ、ケーブルテレビ(CATV)が始まるまでは世界中の屋根を覆い尽くした。
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