アンテナの歴史と未来 寄稿 安達 三郎 氏
第5回:開花
12. 衛星通信・放送の誕生
通信容量増大の要求に伴い使用周波数は次第に高周波に移行したが、超高周波無線通信の欠点は通信可能距離に限界があることである。これを一挙に打破する技術が出現した。それは空からやってきた。すなわち衛星通信と衛星放送である。1963年静止衛星が打ち上げられ60年代後半以降全地球的に24時間の大容量通信が実用され始めた。日本では70年代後半以降通信衛星(CS)の研究開発が開始され、実用に供されるようになった。
そのためのアンテナとして、初期には高利得で低雑音大型地上局アンテナの建設が相次いだ。種々の型のアンテナが試されたが、次第にパラボラ反射鏡を主反射鏡とし、回転双曲面を副反射面とするカセグレンアンテナあるいはそのオフセット型が低雑音であることから標準型とみなされるようになった。関連する機器の性能向上と、アンテナ複反射鏡のプロファイルの修整やフィードホーンの改良などによる開口効率の向上、によってアンテナは次第に中型ないしコンパクトなアンテナが多用されるようになった。同一周波数の直交両偏波を同時に通信に利用する目的で、両偏波の間の結合を出来るだけ小さくするための研究も盛んに行われた。
衛星を用いた放送は、放送の広域性、同時性から大きな優位性を持っている。衛星用リフレクタアンテナの研究開発の関心は固定通信用から次第に放送衛星(BS)用の搭載アンテナや移動体用衛星通信、宇宙科学衛星搭載用のアンテナに移っていった。種々の機能を持ったアンテナ、例えば日本列島の形の指向性を持った衛星搭載アンテナ、マルチビームアンテナ(一つのアンテナで独立な複数のビームを持ったアンテナ)によって周波数利用効率を上げるアンテナ、同一の主反射鏡を異なった2周波で共用するために、周波数選択性の副反射鏡を組み合わせた2重ビームリフレクタアンテナなどが開発され、実用に供されるようになった。1989年にはBS(放送衛星)が開始され、CSや科学衛星用として宇宙で展開する大型アンテナなどの開発研究も行われ、一部は実用に供された。
日本におけるミリ波の大型電波天文用アンテナの開発は特筆に値する。天空を走査するためにアンテナを傾けても常時パラボラ面が正確に保持されるような技術(これをホモロジー設計と言う)によって45m径の鏡面精度0.2mmのミリ波アンテナが1982年長野県野辺山に完成し、世界的な注目を集めた。このアンテナの指向性利得は波長2mmで使用したとき、開口効率を50%と仮定すると実に94dBと計算される。
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