建設系エンジニアのための地下構造物三次元FEM事始め伊藤忠テクノソリューションズ(株) 野口 利雄
第1講 ボックス地中構造物の3次元設計アプローチ
三次元解析での剛域の影響(Step3)
はじめに
二次元のフレーム解析では、部材の隅角部を剛な構造部位として扱い、剛性を高くすることが一般的です。三次元解析でも剛域を評価すべきでしょうが、現状では統一的な設定方法はありません。 ここでは三次元解析における剛域の種類による影響を調べるために以下の三つのケースを考え結果を比較検討してみたいと思います。
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曲げ方向へ補剛版を設置 | 二次元から拡張した要素の剛域 | 剛域を考慮しない |
モデリング及び条件設定
解析対象は図1のような地中構造物で、設計条件を表1のように設定しました。
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上記の解析対象を1/4対称でモデル化し、以下の条件(3ケース)のモデルを用意しました。ケースRPの補剛版及び、ケースRAの剛域の剛性は、(部材の値)×1000としました。
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図2曲げ方向へ補剛版を設置 ケース名 ; RP |
図3二次元から拡張した要素の剛域 ケース名 ; RA |
図4剛域を考慮しない ケース名 ; NR |
解析結果
図5~7に各ケースの曲げモーメント図を示します。 (着目部材の上下スラブ及び側壁で結果を見やすくするために、ケースRPについては補剛版を除いてポスト処理しています。)
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図5 ケースRPの曲げモーメント分布 | 図6 ケースRAの曲げモーメント分布 | 図7 ケースNRの曲げモーメント分布 |
図8~10に各ケースの軸力図を示します。 (ケースRPについては見易くするために、補剛版を除いてポスト処理しています。)
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図8 ケースRPの軸力分布 | 図9 ケースRAの軸力分布 | 図10 ケースNRの軸力分布 |
ケースRPでは、補剛版が曲げに抵抗して部材隅角部分の曲げモーメントが小さくなっています。それに対してケースRAでは、高い剛性を与えた部材に大きな曲げモーメントが発生しています。ケースNRは補剛版部分以外はケースRPの結果に類似しています。 解析結果のまとめとして、図11に上下スラブ及び側壁の曲げモーメント分布グラフを、図12に軸力の分布グラフを示します。


考察

解析結果より以下の事柄が言えます。曲げモーメントは部材中央部の値を正曲げと考えます。
- 曲げモーメント分布では各ケースとも類似した傾向を示しますが、3ケース内の最大値は、最小値に対し26~56%大きく算出されています。剛域のないケースNRの曲げモーメント分布は、隅角部での値が小さい分だけ正曲げの方向に平行移動的にずれています。
- 軸力の分布に着目すると、ケースRAはケースRP及びNRと比較して値が1/3~1/4程度と大幅に小さくなっています。 これは、要素の剛性上昇が曲げ着目断面の曲げのみでなく、右図に示すように曲げ面外方向の軸力をも負担している結果と考えられます。
- ケースRP、NRを比較した場合、軸力ではすべてケースRPが絶対値の大きい値、すなわち安全側を算出していますが、正曲げはケースNRが、負曲げはケースRPが大きな値を示しています。
今回の検討ケースのみでは設計への導入に対する結論には至りませんが、剛域部分以外の軸力を過小評価する、二次元から拡張した要素の剛域を考えたケース(ケースRA)の使用には注意が必要です。
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