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関連ソフトウェアLS-DYNA:非線形・動的・流体構造連成シミュレーションツール

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谷村・三村の構成モデル(T-M2009モデル)のご紹介

1.はじめに

自動車等の衝突解析や部材の成型・加工等の数値シミュレーションを高精度で行うためには,広いひずみ速度域で,かつ広いひずみ域での材料の動特性が的確に表現される構成モデルを使用することが重要となります.また,常用材料のみならず新規に開発される個々の材料にも適用できる利便性の高い実用モデルが要求されます.谷村・三村モデル(T-M2009モデル)はこのような要求に応える新しいタイプの実用構成モデルです.

2.従来の構成モデルとその問題点

材料強度のひずみ速度依存性を考慮した代表的なモデルとして下記のモデルが良く知られています.

  • Cowper-Symondsモデル
  • Johnson-Cookモデル
  • Zerilli-Armstrongモデル

これらのモデルを,実際にシミュレーションに適用する場合,次に示す幾つかの問題点が指摘されています.

  • これらのモデルを使用する際には,対象とする個々の材料の材料パラメータ値を知る必要があり,文献調査や,場合によっては対象材料の動的材料試験を行ってパラメータ値を求めなければならない.
  • これらのモデルは,もともと,真破断ひずみに至るような広ひずみ域を対象とはしていない.
  • これらのモデルでは,鉄系金属材料の場合のように,強度のひずみ速度感受性がひずみの増大とともの低下するような材料特性のモデル化はできない.
  • Cowper-Symondsモデルでは,広いひずみ速度域での動特性のモデル化には適していない.

3.谷村・三村 モデル(T-M2009モデル)の特徴と利点

谷村・三村の構成モデルの2009年モデル(T-M2009モデルと表記します)は,谷村眞治 大阪府立大学名誉教授・愛知工科大学名誉教授らの長年の研究により開発されたもので,金属材料強度のひずみ速度依存性を高精度で表現する構成モデルです.

ここで,この T-M2009モデルの特徴と利点を下記に示します.

  1. 検力ブロック式高速材料試験機により,新たに,多くの材料について,広範囲なひずみ速度域での動的引張試験を実施し,また真破断ひずみに至る動的変形過程試験も実施して,再計測された多くのデータを基にしてこのモデルが構築されていて,モデルの信頼性が高い.
    また,このモデルは,上記の,従来の構成モデルの問題点をすべてクリアしている.
  2. 2.このモデルは,ひずみの範囲として均質変形域のみならず,真破断ひずみに至る広いひずみ域を対象とし,また,10-2 s-1~104 s-1の広いひずみ速度域での挙動を対象としているので,適用範囲が広く,かつ高精度でのモデル化ができる.
  3. 谷村らの長年の研究により,鉄系,アルミニウム系,銅系といった材料グループ毎にひずみ速度感受性がまとめられ,グループ毎に材料パラメータ値の組合せが求められている.したがって,たとえば対象材料が鉄系のグループに属するものであれば,その材料の準静的応力-ひずみ関係のみを用意すれば,与えられている鉄系の材料パラメータ値の組合せを用いることによって,広ひずみ速度域で,かつ広ひずみ域での動的挙動を対象として,材料強度のひずみ速度効果を考慮した解析が簡単に行える.

4.谷村・三村モデル(T-M2009モデル)の概要

T-M2009モデルは次式で表現されます.

T-M2009モデルの式:非線形・動的・流体構造連成シミュレーションツール LS-DYNA
σ     流動応力
εp     相当塑性ひずみ
εp     相当塑性ひずみ速度
εsp     準静時の相当塑性ひずみ速度(10-2 s-1)
εu     単位ひずみ速度(=1 s-1)
σCR     単軸負荷における材料の限界強度
α,β,m1,m2     各材料グループ固有の材料パラメータ
    流動応力に付加される粘性項の係数(各材料グループ固有の関数)

次に,図1および図2に,鉄系金属であるSPCCとアルミニウム系金属であるA6061-T6に,それぞれが属するグループの共通パラメータを用いたT-M2009モデルを適用したとの各ひずみ速度における真応力-真ひずみ関係を示します.

SPCCにT-M2009モデルを適用したときの真応力-真ひずみ関係グラフ:非線形・動的・流体構造連成シミュレーションツール LS-DYNA

図1 SPCCにT-M2009モデルを適用したときの真応力-真ひずみ関係

A6061P-T6にT-M2009モデルを適用したときの真応力-真ひずみ関係グラフ:非線形・動的・流体構造連成シミュレーションツール LS-DYNA

図2 A6061P-T6にT-M2009モデルを適用したときの真応力-真ひずみ関係

図1および図2から,均質変形域から破断をともなう高ひずみ域までの広いひずみ域において,ひずみ速度の影響を精度良く近似できていることがわかります.

また,図1からは,ひずみの増大と伴にひずみ速度の依存性が低くなるという鉄系金属の特徴についても良く表現できていることがわかります.更に,図2からは,アルミニウム材の速度依存性が,鉄系金属のそれとは異なり,ひずみの増大とともに,若干,大きくなるという特徴をよく表わしていることがわかります.

CTCでは,谷村先生の全面的なご協力により,このT-M2009モデルをLS-DYNAにユーザサブルーチンを用いて組込みを行い,ユーザの皆様への配布(有償)を開始しました.(無償での評価利用も可能です.)

現在,このモデルは,鉄系(Bcc系金属)とアルミニウム系(Fcc系金属)材料について,ソリッド要素とシェル要素に適用することが出来ます.銅系(Fcc系金属)材料については準備中です.また,樹脂材料については計画中です.

5.谷村・三村モデル(T-M2009モデル)の応用例と有効性の検証例

関心のある方は次の文献を参照してください.

 
(1) 津田,阿部,片山,榊原,谷村,"谷村・三村構成式のLS-DYNAへの組込みとその検証解 析",日本材料学会第59期学術講演会講演論文集,PP.449-450,(2010)
 
(2) 津田,阿部,谷村,"広ひずみ速度域・大変形域を対象とした谷村・三村の構成モデルの LS-DYNAへの組込みとその検証解析”,日本機械学会2010年度年次大会講演論文集, Vol.1,No.10-1,PP.227-228,(2010.9)
 
(3) T.Tsuda,S.Tanimura,A.Abe,M.Katayama,T.Sakakibara,"Implementation of the Tanimura -Mimura's strain rate dependent constitutive model in LS-DYNA using user defined material model", 11th International LS-DYNA users conference, (2010)
 

論文は「LS-DYNAに関連する弊社技術者による論文」よりダウンロードできます。

6. 参考文献

  • 従来の構成モデルの特徴,問題点について関心のある方は,文献(6)をご覧ください.
  • 谷村・三村モデル(T-M2009モデル)の基になっているデータの取得法,モデルの構成過程,モデルの特徴,このモデルを用いたシミュレーションの例について関心のある方は,文献(9)をご覧ください.
  • 谷村・三村モデル(T-M2009モデル)の 基になっているデータの取得法,実測例等について関心のある方は,文献(4),(5)を,さらにその他のことにも関心のある方は,文献(2),(3)をご覧ください.
  • 真破断ひずみ,真破断応力の計測法,また真破断ひずみに至る動的変形過程試験による真破断ひずみに至るまでの応力―ひずみ関係の計測法について関心のある方は,文献(7)を,さらにその他のことにも関心のある方は,文献(3),(8),(9)をご覧ください.
  • このT-M2009モデルの前のモデル(T-M1995モデル)に関心のある方は,文献(1)をご覧くだ さい.
(1) 谷村 眞治,三村 耕司,楳田 努, 広ひずみ速度域を対象とした各種材料グループに適用し得る実用構成式,材料,Vol. 50, No.3, pp. 210-216 (2001.3)
[Tanimura, S., Mimura, K., and Umeda, T., A Practical Constitutive Model Covering A Wide Range of Strain Rates, J. Soc. Mat. Sci., Japan, Vol. 50, No. 3 (2001), pp. 210-216.]
(2)   Tanimura, S., Mimura, K., and Umeda, T., New Testing Techniques to Obtain Tensile Stress-Strain Curves for a Wide Range of Strain Rates, J. Phys. IV France, Vol. 110 (2003), pp. 385-390.
(3)   Tanimura, S., Uemura, M., Kojima, N., and Yamamoto, T., Recently Developed Testing Techniques and Dynamic Tensile Properties of Steel Sheets for Automobile, Materials Science Technology 2004 Conference Proceedings, Vol. I (2004-9) (AIST Proceedings), pp. 481-490.
(4)   谷村眞治,動的応力計測技術(1)-今後のものづくりのための基盤整備-,機械の研究,第58巻,第9号(2006),pp. 913~921.
(5)   谷村眞治,動的応力計測技術(2)-今後のものづくりのための基盤整備-,機械の研究,第58巻,第10号(2006),pp. 1058~1062.
(6)   林 寛幸,野中 登,黄 新民,山本照美,汎用動的有限要素コードに用いられる構成モデルの特徴について,自動車技術論文集,Vol. 37, No. 5, September 2006, pp. 155~160.
(7)   Tanimura, S., Hayashi, H., and Yamamoto, T., A practical constitutive model covering a wide range of strain rates and a large region of strain, J. Phys. IV France, Vol. 134 (2006), pp. 55-61.
(8)   Kojima, N., Hayashi, H., Yamamoto, T., Mimura, K., and Tanimura, S., Dynamic Tensile Properties of Iron and Steels for a Wide Range of Strain Rates and Strain, Int. J. of Modern Physics B, Vol. 22, Nos. 9, 10 &11 (2008), pp. 1255-1262.
(9)   Tanimura Shinji, Hayashi Hiroyuki, Yamamoto Terumi and Mimura Koji, Dynamic Tensile Properties of Steels and Aluminum Alloys for a Wide Range of Strain Rates and Strain, Journal of Solid Mechanics and Materials Engineering, Vol.3, No.12, 2009, pp.1263-1273.