超音波ワイヤーボンディング解析
株式会社 東芝 セミコンダクター&ストレージ社ディスクリート半導体事業部 様 ご提供
1.ワイヤーボンディングとは
半導体チップの電極部(ボンディングパット)と、リードフレーム及び基板上の導体などとの間を金、アルミニウムなどの細いワイヤーで接続する方法です。
- a) US[Ultra Sonic(超音波)]方式
- ワイヤをツールで押しつけて数十KHz程度の超音波(ultra sonic)振動でこすりつけ、その時発生する摩擦熱で接合。
- b) 熱圧着方式
- 接合に必要な熱を直接加熱で与えて接合。
加熱・振動・固定などの各パラメータのふるまいがミックスされた状況で結果が出てくるため、環境や使用しているツール(金線、キャピラリ)で全く異なったパラメータになってしまいます。そのため、要素別にわけて考えるのは非常に難しくなっています。 現状では、経験をもとに、何度も実験を繰り返して条件を決定しています。
2. 構造解析例
フレームの振動モードについて、構造解析ソフトウェアANSYSにより解析を行った結果を下記に示します。

3. 超音波解析
有限要素法解析ソフトウェアComWAVE(伊藤忠テクノソリューションズ)を用い、超音波解析を行いました。
3-1. 超音波周波数と固定
部分モデルによるキャピラリとチップ、フレームの接触を考慮した振動解析を行いました。 高周波と低周波、またそれぞれフィルム下面を固定した場合としない場合について解析し、違いを比較しました。
解析モデル

解析条件

メッシュサイズ: 10μm
フレーム固定位置:
右図の位置を固定。フィルム面は固定する場合としない場合について解析します。
入力振動:高周波、または低周波
解析結果
変位の絶対値
各条件での変位を下記に示します。比較すると、高周波の方が変位が大きいことがわかりました。
特に、フレーム端を固定した場合の変位が大きくなっています。
単位:(mm) | 高周波 | 低周波 |
---|---|---|
フレーム端 固定 |
![]() ![]() ※変位が大きい |
![]() ![]() |
フィルム面 固定 |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
チップ周りの変形図(チップ周りの振動 5000倍拡大図)
チップ周りの変位を5000倍に拡大し、点でプロットしたものを下記に示します。
チップ周りの変位も同様に、高周波の方が大きいことがわかりました。
特に、フレーム端を固定した場合の変位は下方向(z負方向)に大きく変位しており、チップが押し付けられていることが解ります。
高周波 | 低周波 | |
---|---|---|
フレーム端 固定 |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
フィルム面 固定 |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
最大応力図(フィルム面固定)
チップ中央断面での最大応力図を示します。解析時間30μsまでの最大のミーゼス応力と、その応力を記録した時刻の応力図です。
高周波ではボール接触面の右側一部で応力が大きくなっており、主なチップとの接触が右側一部に限られていることを示しています。それに対し、低周波では、ボール接触面全体で応力が大きく、主なチップとの接触が面全体に及んでいると考えられます。
また、フレーム端固定の場合も同様の傾向を示しました。
高周波 | 低周波 |
---|---|
![]() 時刻:3μs後 |
![]() 時刻:16μs後 |
Auワイヤーとチップの変位(赤:金線、青:チップ)
金線とチップのZ方向の変位をそれぞれプロットしたグラフを下記に示します。赤と青の線が重なっている時間で、金線とチップが接触していると考えられます。
フレーム端のみを固定した場合、フィルム面を固定した場合と比較すると、チップが下方向(z負方向)へ押されてしまい、初期の時刻でのみ接触が起こっています。また、どちらの場合も高周波よりも低周波の方がチップと金線の接触時間が長いことが解ります。
単位:(mm) | 高周波 | 低周波 |
---|---|---|
フレーム端 固定 |
![]() |
![]() |
フィルム面 固定 |
![]() |
![]() |
3-2. チップ高さの影響
さらに、チップの高さの影響を調べるため、同様にキャピラリとチップの接触を考慮した振動解析を行いました。今回は、フレームはモデル化せず、銀ペーストの下部を直接固定しました。チップの高さは150μm、250μmの2種類で、違いを比較しました。
解析モデル

解析条件

メッシュサイズ:10μm
フレーム固定位置:図の銀ペースト下部を固定。
入力振動:低周波
解析結果
チップ周りの変形図(チップ周りの振動500倍拡大図)
チップ周りの変位を500倍に拡大し、点でプロットしたものを下記に示します。
チップが厚い方が、チップ上部での変位が大きいことがわかります。
チップ厚 150μm | チップ厚 250μm |
---|---|
![]() ![]() |
![]() ![]() |
最大応力図(フィルム面固定)
チップ中央断面と、チップ下部での最大応力図を示します。解析時間30μsまでの最大のミーゼス応力と、その応力を記録した時刻の応力図です。
下記の結果を見ると、チップ周りの最大応力は、どちらもチップ全体にかかっており、最大値はほとんど同じでした。最大応力は、チップ厚150μm、 250μmでそれぞれ14.75μs、9μsでありチップの薄い方が遅く、チップ下面ではそれぞれ18μs、29.5μsでありチップの厚い方が遅いという結果になりました。
このことから、チップ厚によるボンディング性は大きな差がなく、またチップ下面の剥離の原因となるような高い応力の発生は見られませんでした。
チップ厚 150μm | チップ厚 250μm |
---|---|
![]() 最大値:5.34×108[Pa] 時刻:14.75μs後 |
![]() 最大値:最大値:5.24×108[Pa] 時刻:9μs後 |
![]() 最大値:1.00×108[Pa] 時刻:18μs後 |
![]() 最大値:1.30×108[Pa] 時刻:29.5μs後 |
Auワイヤーとチップの変位(赤:金線、青:チップ)
金線とチップのZ方向の変位をそれぞれプロットしたグラフを下記に示します。チップが厚い方がチップと金線の接触時間が短く、チップのz方向振動が大きくなっていくことが解りました。
チップ厚 150μm | チップ厚 250μm |
---|---|
![]() |
![]() |
4.まとめ
超音波周波数と固定
- 高周波超音波より低周波超音波の方がワイヤーとチップの接触時間が長くなり、応力が全体に伝わりやすい。
- 高周波超音波は、固定領域を大きくしないとフレーム振動の抑制が難しい。
- 高周波超音波の場合は一部分に応力集中が発生している。
- 低周波超音波の方が固定領域が狭い場合でも振動が伝わり難く、ワイヤーとチップの接触時間が長いため接合に有利である。
チップ高さの影響
- チップ厚150μmよりも250μmの方がチップと金線の接触時間が短い結果であった。
- チップ厚250μmの方がチップのz方向振動が大きくなっていくことがわかった。
- チップ周りの最大応力は、いずれもチップ全体にかかっており、最大値はほとんど同じである。
- 最大応力は、チップ厚150μm、 250μmでそれぞれ14.75μs、9μsでありチップの薄い方が遅い。 チップ下面ではそれぞれ18μs、29.5μsでありチップの厚い方が遅い。チップ厚によるボンディング性は大きな差がなく、またチップ下面の剥離の原因となるような高い応力の発生は見られなかった。