表面波を用いたコンクリートのひび割れ深さ非破壊探傷シミュレーション
清水建設株式会社様 ご提供
ひび割れ深さ測定の現状の課題
鉄筋コンクリー構造物はコンクリートの性質上微細なひび割れを生じやすいものです。ひび割れが発生しても耐久性(鉄筋腐食)に影響がなければ問題ありませんが、表面のひび割れ幅から鉄筋に到達しているかどうかは判断できません。現状の超音波を用いたひび割れ深さ測定法は、1本のひび割れを測定するのに数時間を要し、建物全体の調査には膨大な時間がかかります。そのため、迅速に調査できる方法が必要とされています。

目的

ひび割れが鉄筋に到達していなければすぐに補修しなくてよいため、鉄筋に到達しているひび割れを検出できれば、ひび割れ補修を合理化できます。
現状の超音波を用いたひび割れ深さ測定法は、膨大な時間がかかるため、ひび割れによる表面波の減衰率からひび割れ深さを推定し、鉄筋に到達するひび割れの有無を効率よく推定する方法を開発します。表面波は縦波に比べ減衰しにくいため、広い範囲の測定に適しています。また、動的FEM解析で表面波の伝播を可視化し、減衰のメカニズムを把握することを目的としました。
表面波(Rayleigh)によるひび割れ深さ測定の原理
減衰率と深さの関係から鉄筋に到達しているかを判断します。
下記の図のように、表面波の波長に比べ、ひび割れ深さが小さい場合、表面波の減衰も小さくなります。

一方、表面波の波長に比べ、ひび割れ深さが大きい場合は、表面波の減衰も大きくなります。

表面波の減衰の理論式
ひび割れによる表面波の減衰量は、ひび割れによって伝搬を阻害された表面波のエネルギーが減衰するとして理論化します。
上下方向の振幅を持つ表面波の深さDでの振幅uは次式で示されます。

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λ | : | 入力波動の波長 |
D | : | ひび割れ深さ | |
A | : | D= λの時u=1/4(実験値)とするとA=-1.386 | |
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ひび割れによる減衰量(dB)を次式で表します。

解析(ComeWAVE)による表面波の減衰のメカニズム
材料

- コンクリートFc45N/mm2
L×D×B=1100×505×600mm
全要素数 | : | 約4000万要素 |
メッシュサイズ | : | 2mm |
入力波形 | : | 周波数 5MHz |
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スリットによる表面波の減衰のメカニズム
表面波の一部はスリットで反射し、伝播方向のエネルギーが減少します。減衰量の大きさは表面波の波長と深さの関係で決まるため、減衰量を計算すればスリット深さが分かります。


表面波のひび割れ深さと減衰:理論式と解析の比較
測定点の深さに対する減衰率を、上記の表面波の減衰の理論式で求められた曲線と、ComWAVEによる解析結果から求めて、比較しました。ピンクの線が理論式から求めた曲線、青の線が解析結果から求めた曲線です。2つの結果を比較するとよく一致していることがわかります。
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振幅比=各深さでの表面波振幅/深さゼロでの表面波振幅 |
まとめ
本研究では、ひび割れの補修を合理化するため、表面波の特性を利用して、鉄筋に到達するひび割れの有無を効率よく推定する方法を開発しました。
ComeWAVEを用いて、ひび割れによる表面波の減衰のメカニズムを分かりやすく表現することができました。また、実験結果の減衰率ともよく一致する結果が得られました。