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地震予知新時代 電波の繊細な信号を見落とすな寄稿 福島 毅 氏

2003/09/08

理論的な裏付け

地震に先行する電波と地震との関連については諸説があり、現在のところ決定的なものはない。震源近傍で地震準備段階からきわめて強い電流・あるいは電波(電界)が発生していることは室内岩石実験等からも検証されている。しかし、震源から観測点に向けてどのように伝搬し、我々が果たして何を観測しているのか、またそのエネルギー量がどの程度なのかがまだ未解明な状況である。

根本の考えとしては、地殻応力歪による電波の発生である。地震学から、地震は大規模な地殻の破壊現象であることがわかっている。この地殻の大部分を構成しているのがカコウ岩であり、カコウ岩は圧縮すると電流が生じ、電波がまわりに発生することが岩石実験からわかっている。さらに、兵庫県南部地震の野島断層付近では岩石の異常磁化が検知されている。この報告では、断層付近で電流放電が起こったことを裏付けている(榎本1996)。
また、地震前に動物が異常行動をおこす(例えばナマズが暴れる等)原因や、電子機器の誤動作などは、地震前に電界異常が生じている証拠だとして、大阪大学等で検証実験が行われ、多くの動物の異常行動や物理現象が再現されている(池谷1998)。

ここでは、現在考えられている電流・電波発生のモデルを紹介する(上田2001他)。いずれのモデルも地殻内での断層運動モデルと電磁場の発生が方程式系で結ばれていない。したがって、地震学の立場から地震の断層モデルが提示されたとしても、そこから発展して実測された様々な波長の電波強度をシミュレーションできるレベルには至っていない。

(1)圧力誘起電流モデル
ギリシャの地電流研究グループが提唱しているモデルで、岩石に含まれる結晶の格子欠陥の挙動と地殻の破壊前の電気シグナルを関連づけたものである。結晶の格子欠陥はしばしば電荷を持っており、応力や変形により、不純物イオンと空孔がミクロな電気双極子を形成する。それらは破壊前のある段階で外部電場の方向に一斉に向きをそろえて、その時に電流を生ずるというモデルである。
(2)圧電補償電荷モデル
ライターの火花などでよく知られているように、水晶は圧力を加えると電気が発生する、いわゆる圧電効果のある物質である。岩石に含まれる石英(水晶)は典型的な圧電結晶であるから、圧力に応じて分極電荷を発生する。地震の本震前の微小破壊で圧力が解放されると、結晶の分極電荷は瞬間的に消滅するが、それを補償する電荷は拡散によって時間をかけて消滅する。この段階で電気シグナルが発生するというモデルである。
(3)流動電位モデル
一般に固体と液体が接している界面では、液体中のイオンが固体面に付着し、それに引き寄せられたプラスイオンからなる電気的二重層ができる。この場合、液体が流動すると、下流部にプラス、上流部にマイナスという電位分布が発生する。実際には岩石の中の割れ目を満たす液体(地下水等)は高圧部から低圧部に流れるので、そこから電気シグナルが発生するというものである。地震前に震源域で微小破壊の発生により圧力が下がったり、観測地点の近くで地下水流動が起こることから、電流が生じるというモデルである。

これらのモデルのどれが正しいのか、どれもが間違っているのか、見出されていない全く新しいモデルがあるのか、研究が日夜行われているところである。


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