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「品質工学」は何を目指しているのか品質工学って何?寄稿 品質工学会副会長 原 和彦 氏

第4回:品質工学では何をするのか

2004/08/24

4-1 技術開発を優先する理由

 品質工学を行うとなると、技術者は何から手をつけてよいのか迷うと思う。

 今までのやり方では、設計段階では問題が起こらず、市場や製造で問題が起きる場合が多かったので、問題が起きてからその原因を考えて対策することが常道であった。つまり、問題が起きなければ設計は正しかったと考えていたのである。

 第1回で「問題の原因は調べるな」と述べたように、品質工学の立場では設計が悪いからという判断をする。さらに、さかのぼって、設計の根拠になった技術が悪いのだという考え方をする。

 ロケットが落ちたのも三菱自動車が市場で問題を出したのもすべては技術の問題だと考えるのである。

 おそらく、こういう研究や設計をした技術者たちは「自分たちはしっかりやっている」「現に設計したときはうまくいっていた」というのだから始末が悪いのである。

 彼らが「うまくいった」というのは研究室のように環境が整っている場合には、温度や湿度や劣化を考える必要がないのでうまく機能しただけなのである。

 ところが、市場においては、製品はお客の使う条件や使用環境条件も変わるし、劣化も起こるのである。

 彼らは「そのために信頼性試験や寿命試験をしているのだ」というだろうが、特定な試験条件で規格に対する合否の判断では本当の品質は分からないのである。市場に出てからの問題は、規格に入っていた合格品の品質が問題なのである。なぜなら、不良品は出荷しないのだから、市場で問題が起こるのは合格品の品質に問題があるからである。

品質工学では、良品の品質をどのように評価するかを提案しているのである。そこで、品質とは何かを次のように定義している。

  • 商品品質とは、お客が望む機能やデザインや価格などの価値問題である。
  • 技術品質とは、お客が望まない故障や公害や使用コストなどの損失問題である。

 品質工学では、前者の問題は商品企画などで決められる問題で技術問題ではないので、後者の技術品質問題だけを考えるのである。

 では、品質工学ではどのような評価をするのか。研究室や設計段階でわざと悪い条件を使って、悪い条件と良い条件の差がなければ、後の製造や市場でも問題は起こさないだろうと考えるのである。品質工学では、このような悪い条件を誤差因子とかノイズというのである。ノイズは市場における使用環境条件や劣化などの自然条件やテロやコンピュータウイルスや贋金のように、人工的なものを含めて考える必要がある。これらのノイズに対する評価が技術品質の問題である。

 今までのやり方は、ノイズのことをストレスといって、ストレスを与えて試験をしていたが、ストレスが起きにくい設計条件を探すやり方ではストレス潰しはできても、ストレスに強い「ロバスト設計」にはならないのである。

 田口博士が「問題の原因を考えて設計条件を変えてはならない」と主張されているが、このことを意味しているのである。



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