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「品質工学」は何を目指しているのか品質工学って何?寄稿 品質工学会副会長 原 和彦 氏

第1回:何故品質工学なのか

2004/07/12

 我々は毎日忙しい日々を送っているが、果して無駄な仕事をしていないだろうか。しかし、無駄な仕事かどうか判断できないような状態になっているとしたら個人的にも社会的にも問題ではないだろうか。

 老子の教えに「無用の用」という言葉があるが、無駄だと思っても必要なことがあることも知らなければならない。今までの仕事が「もぐら叩き」の連続だといわれても、どうやって「もぐら叩き」から脱出できるかもわかっていない人が多いのではないか。そのお手伝いをするのが品質工学である。

 品質工学は「無駄な仕事を早くやめるためには何をすればよいか」を教えてくれるのは事実で、あなたの技術力の有無を教えてくれることは確かである。

 早く技術の有無がわかれば、別の新しいシステムを考えることができるわけで、駄目なシステムにこだわることがなく無駄を省けるのではないだろうか。

 また、今年の第12回品質工学研究発表大会のテーマが「手段は自由、評価は品質工学」であったが、その意味は、技術者はシステムを創造することは自由であるが、考えたシステムの評価には自由を与えてはならない。

 すなわち、評価はお客の立場に立ってお客が欲しい機能のあるべき姿を考えて、欲しくないノイズの影響に強くなるようなシステムを考えることが大切なのである。

 今の仕事のやり方は往々にして、最初からモノの手段や規格や試験方法が決められた制約条件の中で、システムの選択を行わなければならないことが多く、その反対に、評価は自由に任されているのが現状である。

 第1図
第1図に示した今までの仕事のやり方と品質工学のやり方の違いを具体的に説明してみよう。

 開発設計段階においては、最初からモノのイメージがある場合と、モノが存在せずお客の要求である機能から開発を始める場合がある。モノが最初からあるとモノのイメージにこだわって自由な発想が出てこない場合が多い。

 従来設計では、モノが存在する場合に、モノの品質特性を考えて、その目標値にチューニングする設計を行い、何個かの試作品を作って、信頼性試験や寿命試験で規格に対する合否の判定を行い、規格に入らない場合は設計に戻って「もぐら叩き」で問題を解決するのが普通である。このやり方では、問題を潰しても、いくらでも問題が発生して際限がないのである。

 このようなもぐら叩きから脱出するために、品質工学では「品質を改善するときには、品質を測るな」を合言葉にして、設計の前に技術開発で「技術の確実性」を高めてから、その技術を使って、商品の編集設計で目標値合わせを行うという「2段階設計」の「パラメータ設計」や「許容差設計」を考えている 。

 第1図でも分かる通り、品質工学は「寿命試験などは全く無駄だ」と考えている。何故かというと、「何十年や何万回使っても大丈夫です」ということを開発段階でいうことは不可能であり、故障率やその逆数のMTBFなどは分からないのである。特定な条件で寿命を表しても市場における保証にはならないのである。品質工学では、そのような「絶対値」ではなく、他社品や従来品などの実績のあるベンチマークに比べてどの位良いかという「相対値」のSN比で品質を比較することが大切だと考えている。

 システムはいくつかのサブシステムや部品から構成されているので、どの部分も同じ程度に故障することが重要なのである。極端に寿命が短いサブシステムや部品はお客の不満を招くことになる。

 また、材料や部品や素子を購入する場合でも同じ機能のものをSN比で比較してコストも含めた優劣を評価することが大切である。

 後でも述べるが、評価はお客が要求する機能について、理想機能を描いて理想機能からのずれをSN比で評価することが大切である。

 品質工学では、「故障の原因を調べるな」「故障の原因を調べて設計を直してはいけない」ともいっている。このことは、「もぐら叩き」を戒めた言葉である。

 詳細は第2回以後に述べる。



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