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「品質工学」は何を目指しているのか品質工学って何?寄稿 品質工学会副会長 原 和彦 氏

第3回:品質工学でどんな成果が出たのか

2004/08/03

 1953年に、愛知県の伊奈製陶(株)(現在の(株)INAX)というタイルメーカーである先駆的な実験が行われた。当時は、欧州から高価なトンネル釜を購入してタイルを焼いていたが、トンネル釜の内部の位置による温度ばらつきが大きく、焼成後のタイルの寸法、艶、反りがばらついて悩んでいた。具体的な実験の内容については、「実験計画法 丸善出版 357P」に紹介されているが、当時は日本の技術者の注目を浴びた例である。品質管理で行われる対策は、ばらつき原因であるトンネル釜内部の温度をなくすことであるが、伊奈製陶は温度ばらつきには手を打たず、タイルの配合設計を改良することでこの難問を解決した。

 私が最初に経験した事例は、寿命試験を1億回もやった商品が市場に出てから200回足らずで故障してしまったことがある。この場合でも、特定な条件で自分勝手の評価をしていたことが原因であることが分かり、市場の使用条件をノイズと考えた実験に切り替えてわずか24時間以内で解決することに成功した。

 また、プリンタの駆動ソレノイドのバウンド量の安定化問題で、シミュレーションを使ったパラメータ設計を行い、温度が変化してもバウンド量が変わらないソレノイドを開発することに成功した。この場合も、マックスウェルの微分方程式を解析して、入力電力に対するプランジャーの変位を求めて、因果関係から設計の最適条件を求めるのではなく、設計条件(制御因子)の誤差をノイズにとってノイズと制御因子との交互作用で設計の最適化を行うことで問題を解決できた。

 数年前に、ニコンと日立マクセルが共同開発した、次世代光磁気ディスクでは、多層の磁性膜の製造工程のパラメータ設計で、データの書き込み速度が従来のMOの約1/2と速くなり、コストも約1/2に低減でき、開発期間が従来の半分で完了した技術開発は有名である。

 品質工学が発足以来、過去12年の成果は「品質工学研究発表大会」や「品質工学誌(会員のみに年6回配布)」に記載してあるので、品質工学会のホームページ をご覧いただければ成果が確認できる。

 最近の開発事例は、試作レス・試験レスを考えて、コンピュータシミュレーションと品質工学の融合の事例が半分以上を占めるようになったことが特徴である。このことについては、第4回以後に解説する。

 成果の内容は、工学関係だけでなく、医学、薬学、生物学や企業の利益予測など幅広い活用が行われている。

 尚、品質工学研究発表大会では、年間の優秀論文と大会の優秀発表に、金賞1件、銀賞3件、大会実行委員長賞1件の表彰を行い大会の成果を盛り上げている。第12回品質工学研究発表大会の受賞テーマについて紹介しよう。

金賞
「シミュレーションによる晶析反応システムの設計」
   コニカミノルタフォトイメージング 松坂昌司、中根博紀

 化学的反応シミュレーションに試作を行わずに、晶析反応によって結晶を取り出すことに成功した事例である。シミュレーションでSN比は17デシベル改善した。結果的には研究期間は従来の1/4に短縮でき、ビーカー実験で確認したところ、収率は30%から85%に改善し、生産性は8.5倍に改善された。銀賞3件のテーマ名だけ記述する。

銀賞
「MTシステムによる溶接ロボットケーブル負荷診断システムの開発」
   日産自動車 栗原憲二、浜田和孝、馬釗、久保秀幸

「MTシステムによる不動産価格の予測」
   吉野不動産鑑定事務所 吉野荘平、ツムラ 矢野耕也ほか

「世界初ROM・RAM同期記録再生可能な光ディスク媒体の実験」
   山形富士通 細川哲夫

大会実行委員長賞
TQMで熟成化された半導体や研磨工程などに品質工学を活用して、一工程あたり数億円の成果を出したセイコーエプソンオンライン品質工学研究会に授与した。

論文賞金賞
「MT法による醤油醸造技術の開発」
   (有)中六 森清康雄

 論文銀賞3テーマは省略する。



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