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「品質工学」は何を目指しているのか品質工学って何?寄稿 品質工学会副会長 原 和彦 氏

第5回:21世紀は予測技術の時代

2004/09/07

 我々が知人の顔を特定することができるのも、犬が飼い主を認識できるのも「パターン認識」の問題であるが、コンピュータが行うことはかなり困難である。このパターン認識をいかにして数値化するかが大きな課題である。

第10図

 第10図で示すように、21世紀は予測の時代であるといわれている。

 商品(ハード)の場合には、技術開発や設計で市場のクレームを予測することが大切で、その大きさを評価する尺度がSN比や損失関数である。

 情報(ソフト)の場合には、さまざまな情報の関係でパターン認識を表すことが大切で、その尺度が「マハラノビスの距離(MD)」である。

 マハラノビスの距離はインドの統計学者マハラノビス博士が動物の骨から同じ動物かどうかを識別するために作られた統計的な尺度である。品質工学では、これに技術的な意味を込めて利用したのがM T (マハラノビス・タグチ)システムである。第10図のソフトの場合の応用例であるが、いずれも正常状態をMDで定義して、異常状態を予測することになる。

 多変量解析などの統計的手法では、良品や不良品の分布を考えて(MD)を求めてどちらに属するかを調べることが目的であるが、品質工学の場合は、基準空間をMDで定義して、異常状態は分布を考えるのでなく、群ではなく個々の異常値でMDを求めて診断や予測を行う。

 第3回目でも紹介したが、設備の故障診断や醤油醸造の最適化だけでなく、不動産の価格の予測や企業の利益予測などソフトの世界でも活用されている。

 品質の予測は消費者に品質が悪いということが分かってからでは後の祭りで、科学や技術の存在理由がないことを意味している。

 マスプロや市場に出てからのトラブルを研究室で、シミュレーション計算やテストピースで予測精度の高い評価をすることが品質工学である。

 地震予測の場合、精度が悪い予測は占い(予想)と同じであるから、何日にどれくらいの震度の地震がどこに起こるかを地震がないときのデータで予測することが21世紀の課題である。これはあらゆる災害問題に応用できることである。また、自動車の衝突問題や人間の病気の問題などへの応用はすでに活用されていて注目される技術である。

 今までの地震予測は実際の地震に対する回帰式による予測方法で、それはいろいろな変数x1,x2,x3・・・xnの関数として地震の大きさ(震度)y
    y=f(x1,x2,x3...xn)
を予測する当てはめであるから精度が悪いのである。

 ハードの機能は研究室で市場の「機能のよさ」をSN比で予測したように、品質工学は市場の条件でその品質を研究室のシミュレーションで予測したいのである。そのためには予測精度を高めることが大切である。



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