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「品質工学」は何を目指しているのか品質工学って何?寄稿 品質工学会副会長 原 和彦 氏

第2回:品質工学の発展の歴史

2004/07/23

 品質工学を学ぶ上で重要なことは、明治以後日本が辿ってきた学問の進め方や企業の生産活動と大いに関係があるので、品質工学の発展の過程を述べてみたい。

 明治以後の日本の教育の進め方の大半は、先生の教えることを忠実に理解して、答えは一つしかないと考えられてきた。したがって、大学の受験問題でも正解は一つしかないのが普通である。このことは、デカルトが科学的な演繹的考え方で現象解明の大切さを論じてから、科学的に証明されないことは信用できないという風潮が蔓延したことも原因の一つである。

 これに対して、問題が起こっていないときに、問題を予測することは科学の世界ではなく技術の世界の問題で、科学的には証明できないのである。

 地震などの自然現象を解明するのは科学であるが、地震を予測するのは技術なのである。科学と技術はまったく別物だという認識が大切である。

 また、戦後、統計的な品質管理がアメリカから導入されて、結果の出来ばえ管理が重視されたため、モノ造りの方向が製造主体になって「品質を製造工程で作りこめ」ということが主張されるようになった。

 第2図
 はじめにも述べたように、三菱などのクレーム問題は、製造の品質管理を徹底しても解決する問題ではないのである。市場クレームの94%は設計責任であり、僅か6%が製造責任なのである。企業においてクレームが絶えないのは設計品質が悪いからである。そこで、「設計で品質を作りこむ」ことを主張しているのが品質工学である。ここで、品質工学の役割を示すと第2図のようになる 。

 また、品質管理の重要技術である「実験計画法」は、1920年頃に、英国ロンドン郊外の農事試験場に勤務していたR.A.フィッシャー(1890~1962)による実験研究の手法であるが、「実験の場で誤差が伴うときには、調べたい因子の効果を統計的に、少数のサンプルで因果関係を評価する」ことが目的で行われた。

 第3図
 品質工学でも実験計画法は使っているが、フィッシャーの古典的実験計画法とは目的が全く異なるものである。両者の比較を第3図で説明する。

 日本においては、フィッシャー流の実験計画法が使われたのは1935年に北海道大学農学部で農業生産に活用したのがはじめであるが、1939年になると、東大の増山元三郎氏が医学に応用してペニシリンの生産の歩留まり向上の実験を行った。その後、工業生産の場で古典的実験計画法がたくさん使われていたが、品質問題発生後の原因分析や収率改善などに使われることがほとんどであった。

 田口玄一氏は国際的には実験計画法の権威者であるが、原因分析の因果関係よりも、設計面に活用することが重要だと考えて、第3図のように設計の最適化に活用するように改造したのが品質工学における実験計画法である。

 田口実験計画法では、統計的な誤差ではなく、市場におけるノイズ(使用環境条件や劣化)を誤差と考えて、ノイズに強い設計条件を求めることを目的と考えている。



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