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衝撃波の科学寄稿 高山 和喜 氏

第5回:衝撃波と地球惑星物理とのつながり

2006/10

42. 巨大小惑星衝突(その1)

図42-1 銀河系想像図(Courtesy of NASA)  太陽系は銀河系の中心を周回し、その軌道は銀河系の中心から程よく離れたところにあり、非常に強い放射線帯にさらされることなく、また、地球は太陽から近すぎず、遠からず水惑星の条件を満たしているので、地球上の生物の進化が許された。想像図(図42-1)のように銀河系の中心からは渦状星雲が伸びていて、太陽系は周期的に過剰星雲を横切る。一方、渦状星雲は太陽系に相当するさまざまの規模の惑星系や大小の惑星で構成されているので、太陽の引力に引き寄せられ、これらの惑星が太陽系に迷い込み、その軌道が地球軌道に交差して地球大気圏に突入する偶発事件が起る。
 1999年、山口大学の三浦保範教授の誘いで、巨大小惑星衝突と生物種の大量絶滅に関するシンポジウム(Planetary Impact Events and their Consequences on Earth)に参加し、講演と議論を通して、地球には平均2660万年ごとに、巨大小惑星が突入して天変地異が起こり、地球の地質年代が不連続的に変化する原因となることを学んだ(図42-2)。これは地球進化史が宇宙の活動と密接に関連し、我々が教養として知っている地球進化史は閉じた悠久の時間をゆっくりと変化する系ではなくて、銀河系や深部宇宙の活動と結びついて、刹那の変化と悠久の回復過程の繰り返しであることを物語っている。
図42-2 地球の地質年代における生物種量  JAXA宇宙科学研究本部の第25号科学衛星(ASTRO-G)打ち上げ計画では、銀河系の中心にあるブラックホールのシルエット撮像などを目指している。地球進化史は、大陸漂移や造山活動などに見るように、百万年を一秒におきかえた齣落し映画を見ているかのように説明されているが、巨大小惑星衝突を通して、銀河系の動的な活動に結びついている。

図42-3 AUTODYNによる小惑星垂直衝突の解析結果(動画)  巨大小惑星衝突では、想像を絶する規模の衝撃波現象を伴い、多分数秒の時間尺度の出来事で、その後、短時間、例えば、数日ないし数週間で、回復活動が始まり、やがて数百万年、数千万年経過して新しい平衡状態が達成される。地質年代区分の不連続は、激変と回復の繰り返しを示している。したがって、現在の平衡状態から激変の一瞬を再現するためには、地球物理の規模で衝撃波現象を見直すことが重要である。刹那の変動に続く悠久の回復過程は、人の成長過程とよく類似している。人は誕生の後、順調に成長すると共に、大小さまざまの病気や事故、また、親しい人の死や仕事の失敗など種々の精神的衝撃を経験し、その衝撃から時間を掛けて回復し、あるいはトラウマとなって記録に残り、それを乗り越えて一生を終える。起承転結、地球進化史と基本的に変わることがない。
 約6,500万年前、直径13 kmの巨大小惑星が地球大気圏に西から東に約30°の角度で突入して、ユカタン半島付近に衝突した。衝突速度は30km/sと推定されている。ユカタン半島付近の海底地形調査から、地殻変動の影響を補正して、直径約130kmの東西に延びる衝突孔の痕が発見されている。図42-3は、巨大隕石の垂直衝突を数値模擬した結果である。地殻を伝播する衝撃波の発生と伝播、巨大な衝突孔の形成と衝突で微細化された巨大小惑星の微粒子(ejecta)が、衝突の逆方向に飛散する様子が再現されている。
 飛散微粒子は地球大気圏上層にまで達し、相当期間停滞して太陽光を遮って核の冬で想定される日照不足が続き、動植物を始め地球上の生物種の約70%が絶滅した。中生代と新生代の境界、白亜紀と第三紀の境界(K-T 境界、図42-4)を示す地層から特異的にイリジュームを密に含む薄い層が検出されている。この元素は隕石など地球外物質に顕著に含まれているので、K-T境界は巨大小惑星衝突でできたejectaが降り積もって、地球上を覆ってできたと推定され、巨大小惑星衝突の証拠と見なされている。このことは、当初、単なる仮説でSF小説的な話題と思われたが、現在、事実と認知されている。
図42-2 地球の地質年代における生物種量  一方、約25,000万年前、古生代と中生代の境界、ペルム紀と三畳紀の境界(P-T 境界)からも、微量であるが硫黄とストロンチュームの同位元素を特異的に含む薄い層が発見されている。これは約6,500万年前の巨大小惑星衝突の運動エネルギーを遙かに上回る激変である。この巨大小惑星は、地殻を突き破りマントルに達する衝突を起こし、マントルに含まれるこれらの同位元素が衝突噴出物として 地球大気圏に滞留し、後に地上に沈積したと考えられている。これは地球進化史上最大級の衝突で、生物種の約90%が絶滅したと言われている。
 この巨大小惑星は漂移中のオーストラリア亜大陸に衝突し、最近、衝突孔とおもわれる痕も見つかっている。このとき地殻中を伝播した衝撃波あるいは減衰した応力波は衝突の対称点近傍で収束して、西シベリアの地下に巨大なスポーリング空洞を形成したと想定され、この地下空洞は後に陥没して、現在の西シベリア低地が形成されたと推定されている。



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