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衝撃波の科学寄稿 高山 和喜 氏

第4回:衝撃波の医療応用

2006/04

28. 水中衝撃波の医療応用(その6)

 衝撃波過剰圧と衝撃波治療を受ける患者の痛みとの関係を知りたかったので、北山先生と痛みの研究で世に知られている東北大学基礎医学の教授を訪ねた。人間の痛みと刺激との相関を見出すことは不可能だったので、この教授は犬に与えた刺激と悲鳴を計測して相関性を明らかにした。雌の成犬は研究者の顔を見て痛みを我慢するので、子犬を使ってデータを取ったとか。刺激を受けた人の神経伝達を測って痛みを評価できないかなどと聞いたが、容易な計測でないとのこと。衝撃波過剰圧と痛みの関係を明らかにするのは想像以上に複雑な研究になり、「このような研究論文を書いても、医学者として出世できないよ。」との教授の助言を受けて問題追求を諦めた。ESWLの最初の臨床試験を見学して、麻酔薬の量が少なくても痛みを訴えない人や麻酔薬量を増やしても痛みを訴え続ける人があり、人には幅広い個人差があり、機械のように単純でなかった。しかし、最初の頃行った硬膜外麻酔は思い出の治療法で、今は皮膚に痛み止めの軟膏を塗布している。胆石除去装置開発の間に、フランスで腹腔鏡を使った胆嚢摘出術が提唱され、あっという間に全世界に普及して、ESWLでの胆石破砕除去術は流行遅れになった。

図28-1 衝撃波照射による兎骨癒着促進 衝撃波照射でESWLが普及して、東ヨーロッパの整形外科の分野ではESWLを骨治療に応用する研究が始まった。整形外科で、骨折部位が癒着せずに骨膜に覆われて骨膜を介して接触している偽関節の処置では、その部位を切開して機械的にあるいは電気的に骨膜を取り除き、接合しなかった骨を癒着させる手術が一般的だった。一方、体外衝撃波の収束で生体損傷を誘起する高圧を作用させれば、骨膜は破損して血腫を作り骨癒着促進ができる。そのために結石破砕では禁忌の高圧を発生させて骨治療を行うといった方法は決断を要するが、東ヨーロッパには西ヨーロッパや北アメリカと異なる医療と受け入れる背景があったのだろう、着想は実行され治療は成功した。この治療法は世界中に広まって、1997年、我々は金沢大学病院、整形外科と、微小爆発での体外衝撃波誘起骨成長術装置開発の共同研究が始まった。比較的強い衝撃波照射で兎の骨に亀裂を作り、また、骨折部位に衝撃波を収束させて癒着を促進するなど基礎実験が始まった(図28-1)。また、衝撃波照射で骨成長促進の機序の一部を解明した。しかし、衝撃波照射で骨組織や生体軟組織が同様な反応を示すか、未だ十分に解明されていない。


 一方、難治性の五十肩、テニス肘、踵の疼痛治療に、衝撃波収束を適用し、除痛効果が確認された。最初結石破砕用の装置を用いて治療されたが、後に、整形外科痛み治療用の衝撃波収束装置が市販されるようになった。衝撃波照射で除痛効果を発現できた。五十肩治療では、最初、関節などの石灰沈着が衝撃波照射で除去されるのではないかと思われたが、処置の前後で変化は認められなかった。除痛効果は、神経細胞と衝撃波照射との相互干渉の結果なのか、衝撃波は神経伝播機構に影響しているのかなど、種々の要因が議論されているが、組織学的、生化学的追求はない。このことを解明するためには、生体の特定された領域に非常に精緻に衝撃波照射して制御して高圧発生する技術を確立することが、まず必要になる。ESWLなどの成功にもかかわらず、例えば一辺0.5mmの立方体にピンポイントで与えられた過剰圧の衝撃波を照射する方法は確立されていない。



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