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衝撃波の科学寄稿 高山 和喜 氏

第4回:衝撃波の医療応用

2006/04

26. 水中衝撃波の医療応用(その4)

図26-1 体外結石破砕治療経過の時系列的なX線写真 基礎研究に続いて、八千代田工業(株)の研究支援を得て、微小爆薬を用いる体外結石破砕装置を組み立て、1983年から動物実験が始まった。同時に、回転楕円体の長短径比の最適化が終了し、爆薬の装填技術など企業の技術が中心となって実用設計が始まった。最初の頃の臨床試験では、始め手作りのアジ化鉛10 mgを一回ごとに手動で装填して電気起爆した。しかし、途中から処置後の爆薬の爆発生成物質による排水の環境汚染を考慮し、中国化薬(株)の協力を得て、アジ化鉛をアジ化銀に代え、臨床試験が始まった。

 図26-1は臨床試験患者さんの治療経過の時系列的なX線写真である。処置前には複数の腎臓結石が確認される(図26-1A)。これらに対して200回衝撃波照射後、結石は砂粒大に破砕されて尿管に沿って矢印のような列(Stein Strasse)を作って膀胱へ移動し(図26-1B)、排泄された(図26-1C)。


図26-2 1990年代に市販されたESWL装置のスケッチ 最初の患者さんは男性で以前に手術で腎臓を切開して結石を摘出した経験者だった。日本で初めての日本の体外衝撃波結石破砕術の詳しい内容の説明を受けて、被験者になることに同意していた。関係者全員が立ち会い、麻酔科の医師も同席した。誰かが「失敗したらどうしますか。」と聞いた。動物実験では全て成功している。即座に、桑原先生は「私が責任を取りますよ。」と言い、その時は私も同時に辞表を出すと覚悟した。硬膜外麻酔を施したので、被験者は意識があった。次の日、無事石が流れ始めたと聞いて安堵し、また、喜んだ。患者さんの予後は順調だった。以前の手術の経験とは異なり、手術後はベッドに横になって時間をもてあまし、これを見た奥さんは憮然として、桑原先生に挨拶すらしなくなった。桑原先生はその態度を咎めたら、「以前に入院したときは集中治療室で、医師も看護婦を慎重に対応したのに、今回はあまりに簡単な患者を無視するような対応なので腹立たしい。」とのことだった。よく説明したら納得して、感謝して退院したとのことだった。この話を聞いて実験室の関係者は喜び笑い、衝撃波が人助けの研究に結びついたことを感謝した。

 当初、尿管結石の症例の限られた数だけがこの治療法の適用になると想像し、外科手術はなお必要と信じていた。泌尿器科の教授が実験を見て、「ESWLが普及して一般的な治療法になると、外科医の手術の腕が鈍る。」と言った。現在、ESWLは種々改良されて世界中で20を超える機種が市販され、尿管結石症の90%以上を治療できる装置に普及している。1990年代に市販されたESWL装置のスケッチを図26-2に示す。



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