HOMEテクニカルレポート地下構造物三次元FEM事始め

建設系エンジニアのための地下構造物三次元FEM事始め伊藤忠テクノソリューションズ(株) 野口 利雄

地下構造物三次元FEM設計 ストラット付き半地下擁壁

はじめに

ここでは、設計サンプルとして「ストラット付き半地下擁壁」を題材に取り上げ、二次元設計と、三次元設計の比較検討を行います。想定した構造物は、全高約18m、全幅約28m、奥行き方向10m、ストラットの奥行き方向厚さは2mです。従来の二次元設計に比べて、三次元設計ではどのようなところに違いが現われるのでしょうか。

設計緒元と設計条件

二次元設計では、ストラットと壁の接合箇所を支点とし、支点反力を荷重として框梁及びストラット部を設計します。対する三次元設計では、FEMシェル要素を用い、構造物の形状を忠実に三次元モデリングします。

図1 構造物、土質、二次元解析構造 図1 構造物、土質、二次元解析構造

図2 三次元解析構造(左;要素図 右;シェル要素の板厚表示) 図2 三次元解析構造(左;要素図 右;シェル要素の板厚表示)

構造解析結果

図3に二次元解析結果を、図4に三次元解析結果を示します。

図3 二次元解析結果 図3 二次元解析結果

図4-1 三次元解析結果 (曲げモーメント) 図4-1 三次元解析結果 (曲げモーメント)

図4-2 三次元解析結果 (軸力) 図4-2 三次元解析結果 (軸力)

配筋結果│

二次元解析結果からの配筋を図5に、三次元解析結果を加味した増減分を図6に示します。

図5 二次元解析結果からの配筋 図5 二次元解析結果からの配筋

図6 三次元解析結果を加味した材料増減 図6 三次元解析結果を加味した材料増減

  二次元設計 三次元設計
記号 説明 長さ 鉄筋 断面積 重量 鉄筋 断面積 重量
    (m)   (cm2) (本) (kN)   (cm2) (本) (kN)
F1-1 底版 10.5 29 6.424 80 42.63 29 6.424 80 42.63
F1-2 底版 8.52 29 6.424 80 34.59 29 6.424 80 34.59
F2 底版 11.2 29 6.424 160 91.11 29 6.424 160 91.11
F3 底版 9.17 19 2.865 160 33.21 19 2.865 160 33.21
F4 底版 5.4 16 1.986 160 13.56 16 1.986 160 13.56
F5 底版 4.44 16 1.986 160 11.15 16 1.986 160 11.15
F6 底版 8.53 29 6.424 160 69.26 29 6.424 160 69.26
F7 底版 3.4 35 9.566 160 41.11 35 9.566 160 41.11
F8 底版 2.57 35 9.566 160 31.07 35 9.566 160 31.07
F9 底版 7.54 29 6.424 32 12.24 29 6.424 32 12.24
W1 5.54 22 3.871 160 27.11 22 3.871 160 27.11
W2 6.5 16 1.986 80 8.16 29 6.424 40 13.19
  6.5       0.00 16 1.986 40 4.08
W3 3.16 16 1.986 80 3.97 16 1.986 80 3.97
W4 11.8 35 9.566 160 142.68 32 7.942 160 118.46
W5 6.27 35 9.566 160 75.81 32 7.942 160 62.94
B1 框梁 9.74 32 7.942 32 19.56 35 9.566 16 11.78
B2 框梁 9.74 35 9.566 32 23.55 0   0 0.00
B3 框梁 9.74 29 6.424 32 15.82 29 6.424 16 7.91
P1-1 10.8 22 3.871 32 10.57 22 3.871 32 10.57
P1-2 7.84 22 3.871 32 7.67 22 3.871 32 7.67
T1-1 ストラット 10.5 22 3.871 40 12.84 22 3.871 44 14.13
T1-2 ストラット 8.64 22 3.871 40 10.57 22 3.871 44 11.63
T1-3 ストラット 5.5 22 3.871 40 6.73 22 3.871 44 7.40
T2 ストラット 6.12 22 3.871 32 5.99 22 3.871 32 5.99
D1 配力筋 9.74 22 3.871 234 69.70 19 2.865 234 51.59
D2 配力筋 9.74 13 1.267 48 4.68 19 2.865 48 10.58
D3 配力筋 9.74 19 2.865 212 46.74 19 2.865 212 46.74
S1 スター 4.42 19 2.865 80 8.00 19 2.865 80 8.00
S2 スター 4.68 19 2.865 80 8.47 19 2.865 80 8.47
S3 スター 3.69 19 2.865 80 6.68 19 2.865 80 6.68
S4 スター 2.15 19 2.865 80 3.89 19 2.865 80 3.89
S5 スター 3.37 16 1.986 4800 253.79 16 1.986 4800 253.79
S6 スター 5.33 16 1.986 2400 200.70 16 1.986 2400 200.70
S7 スター 7.28 16 1.986 320 36.55 16 1.986 320 36.55
S8-1 スター 6.16 16 1.986 50 4.83 16 1.986 50 4.83
S8-2 スター 4.42 16 1.986 50 3.47 16 1.986 50 3.47
S9-1 スター 6.16 16 1.986 74 7.15 16 1.986 74 7.15
S9-2 スター 4.42 16 1.986 74 5.13 16 1.986 74 5.13
鉄筋   スター:スターラップ 1410.7       1334.3
減少       0.95
増加     (kN) 76.42
コンクリート (m3) 4.00

考察

二次元解析では、側方土圧を主として壁と框梁部で負担していたのに対し、三次元解析では、それらの部位の負担が低減し、ストラット部分への負担が大きくなっています。配筋としても壁、框梁部の鉄筋が減少し、ストラット部分の鉄筋とコンクリートが増加する結果となりました。 今回の設計サンプルからわかるように、三次元解析の実施により鉄筋量を減少できる箇所と並行して鉄筋およびコンクリート量を増加すべき箇所が算出されました。このことから三次元解析は経済性のみならず安全性についても有効であることを示していると言えます。鉄筋の減少率は約5%であったが、コスト縮減と安全性向上を念頭に置いたとき、当手法の適用領域は広がる可能性があると考えます。


一覧へ戻る
このページの先頭へ