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事例紹介:合金別事例Thermo-Calc:統合型熱力学計算システム

各計算事例の計算ファイルはお客様広場からダウンロードできます。

合金別適用事例

高エントロピー合金

高エントロピー合金(High-Entropy alloys: HEAs)とは、複数種類の金属(多くの場合5種類以上)がほぼ当モル比含まれた合金です*1。種々の合金元素が結晶格子にランダムに配置される、すなわち配置のエントロピーが高くなるという意味で、高エントロピー合金と呼ばれています。エントロピーを増大させることで、化合物相の形成が抑制され、単純な体心立方構造(BCC)や面心立方構造(FCC)を有する固溶体が形成されます。元素の組合せや材料組織によって優れた機械特性や高温特性、耐腐食性などを有することから、近年注目されています。
高エントロピー合金熱力学データベース(TCHEA)により、高エントロピー合金の代表的な結晶構造であるBCCとFCCに加え、六方最密構造(HCP)を有する合金系の熱力学計算が可能です。また、本データベースはNi基超合金データべースを基に作られた熱力学データベースであり、多くの2元系・3元系のアセスメントがなされています。高エントロピー合金向けのデータベースではありますが、多くの準安定の金属間化合物相が考慮されています。

*1 High-entropy alloys: a critical review, MH. Tsai, JW Yeh, Materials Research Letters, 2(2014), 107-123

CoCrNi合金の状態図と等温断面図

ミドルエントロピー合金CoCrNiにおける平衡状態図と1200℃における等温断面図を計算した事例です。Cr添加量を増加させた場合の固溶体相や化合物相の生成を予測します。

Thermo-Calc:高エントロピー合金 CoCrNiの状態図(縦断面図)

CoCrNiの状態図(縦断面図)

Thermo-Calc:高エントロピー合金 CoCrNiの等温断面図

CoCrNiの等温断面図

計算にはTCHEA4データベースを使用

H.L.Chen, et al., Database development and Calphad calculations for high entropy alloys: challenges, strategies, and tips. Mater. Chem. Phys. 210 (2018) 279-290

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CrFeNi合金の液相面投影図

ミドルエントロピー合金CoFeNiにおける液相面投影図を計算した事例です。合金組成がCrリッチからNiリッチに変わるにつれ、初晶がBCCからFCCにシフトします。

Thermo-Calc:高エントロピー合金 CrFeNiの液相面投影図

CrFeNiの液相面投影図

計算にはTCHEA4データベースを使用

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CoCrFeMnNi合金の状態図とScheil凝固計算

FCCベースのCoCrFeMnNiカンター合金における温度 - 相分率図と凝固過程における固相分率の変化を計算した事例です。温度 - 相分率図より850℃から1300℃の平衡温度範囲では、FCC固溶体が単相で存在しうることが分かります。また、Scheil計算より鋳放し材に関してはFCC固溶体単相となることが予測できます。

Thermo-Calc:高エントロピー合金 CoCrFeMnNiの状態図

CoCrFeMnNiの状態図

Thermo-Calc:高エントロピー合金 CoCrFeMnNiのScehil凝固計算

CoCrFeMnNiのScehil凝固計算

計算にはTCHEA4データベースを使用

B. Cantor, et al., Microstructural development in equiatomic multicomponent alloys. Mater. Sci. Eng. A. 375–377, 213–218 (2004)

F. Otto, et al., Relative effects of enthalpy and entropy on the phase stability of equiatomic high-entropy alloys. Acta Mater. 61, 2628–2638 (2013)

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CoCrFeNiAlx合金の状態図

FCC + BCCベースのCoCrFeNiAlにおける状態図を計算した事例です。鋳放し材について、CoCrFeNiはFCCベースで、Al添加量が少量の場合は、FCCのみが存在します。Al添加量が増加していくと第二相としてB2相が形成することや、B2相のみが形成されることが予測できます(状態図の上部より)。
また、均質化材について、鋳造材を1100℃で均質化した際に、FCC、BCC、FCC + BCCが形成されるそれぞれの境界を予測することが出来ます(状態図の下部より)。

Thermo-Calc:高エントロピー合金 CoCrFeNiAlx の状態図(x:0~2.0)

CoCrFeNiAlx の状態図
(x:0~2.0)

計算にはTCHEA4データベースを使用

H.L.Chen, et al., Database development and Calphad calculations for high entropy alloys: challenges, strategies, and tips. Mater. Chem. Phys. 210 (2018) 279-290

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IrMoRhRuW合金の温度 - 相分率図

HCPべースのIrMoRhRuWにおける温度 - 相分率図を計算した事例です。1000℃~2200℃ではHCP固溶体相が単相で存在することが予測できます。

Thermo-Calc:高エントロピー合金 IrMoRhRuWの温度 - 相分率図(温度:600~2400)

IrMoRhRuWの温度 - 相分率図
(温度:600~2400)

計算にはTCHEA3データベースを使用

A. Takeuchi, et al., High-Entropy Alloys with Hexagonal Close-Packed structure in Ir26Mo20Rh22.5Ru20W11.5 and Ir25.5Mo20Rh20Ru25W9.5 alloys designed by sandwich strategy for the valence electron concentration of constituent elements in the periodic chart. Materials transactions 60 (2019) 1666-1673.

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CrNbTiVZr合金における密度の温度依存性

BCCベースのCrNbTiVZrにおける密度の温度依存性を計算した事例です。ハイエントロピー合金用データベースには、全相のモル体積情報が収録されているため、体積や熱膨張、密度、格子ミスマッチなども出力でき、それらの組成依存性や温度依存性を予測することができます。

Thermo-Calc:高エントロピー合金 CrNbTiVZrの温度 vs 密度

CrNbTiVZrの温度 vs 密度

計算にはTCHEA4データベースを使用

O.N. Senkov, et al., Mechanical properties of low-density, refractory multi-principal element alloys of the Cr-Nb-Ti-V-Zr system, Mater. Sci. & Eng. A 565 (2013) 51–62.

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CoCrFeNiZr0.4合金の凝固計算

CoCrFeNiZr0.4の凝固過程における各相の割合を計算した事例です。平衡計算とScheil凝固計算で比較しており、平衡計算結果は平衡状態で生成する相の割合を表します。Scheil凝固計算結果の方は、冷却過程で生成する相の割合を表しています。

Thermo-Calc:高エントロピー合金 CoCrFeNiZr0.4の温度 vs 相分率

CoCrFeNiZr0.4の温度 vs 相分率

計算にはTCHEA4データベースを使用

H. Mao, et al., TCHEA1: a thermodynamic database not limited for “high entropy” alloys. J. Phase Equil. Diff. 38 (2017) 353-368.

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CoCrCuFeMnNi合金の凝固計算

FCCベースのCoCrCuFeMnNiの凝固過程における固相分率、BCC相中の元素の割合を計算した事例です。左図からはFCC相からBCC相の順で、凝固組織が形成されていくことが分かります。また、右図からはBCC相が70%程度凝固した1000℃付近より形成され、その構成はCrリッチな相であることが予測できます。

Thermo-Calc:高エントロピー合金 CoCrCuFeMnNiのScheil凝固計算

CoCrCuFeMnNiのScheil凝固計算

Thermo-Calc:高エントロピー合金 CoCrCuFeMnNiのBCC相中の各元素のモル分率

CoCrCuFeMnNiのBCC相中の
各元素のモル分率

計算にはTCHEA4データベースを使用

B. Cantor, et al., Microstructural development in equiatomic multicomponent alloys. Mater. Sci. Eng. A. 375–377, 213–218 (2004)

H.L.Chen, et al., Database development and Calphad calculations for high entropy alloys: challenges, strategies, and tips. Mater. Chem. Phys. 210 (2018) 279-290

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CoCrFeMnNi拡散対の計算

CoCrFeMnNi拡散対における溶質拡散を評価した事例です。初期条件としてそれぞれの合金組成を考慮した濃度分布を与えます。計算領域は200μm、左の100umをCoリッチ相、右の100umをNiリッチ相で、熱処理条件としては、1000℃、100時間として計算を実施します。高エントロピー合金の熱処理過程における溶質拡散を評価することができます。

Thermo-Calc:高エントロピー合金 CoCrFeMnNiの初期濃度分布

CoCrFeMnNiの初期濃度分布

Thermo-Calc:高エントロピー合金 CoCrFeMnNiの100時間後の濃度分布

CoCrFeMnNiの100時間後の濃度分布

計算にはTCHEA4、MOBHEA2データベースを使用

V. Verma, et al., On Interdiffusion in FeNiCoCrMn High Entropy Alloy. J. Phase Equilib. Diffus. 38 (2017) 445-456

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CoCrCuFeNi合金におけるCu含有量の影響

CoCrFeNi(Cuは含まれない)合金における温度対相分率を示すプロパティ図では、高温ではFCC相の安定性が予測されており、実験的にも高温熱処理後の組織観察からFCC相の安定性が確認されます。
CoCrCuFeNi合金のプロパティ図では、Cuを含まない結果とは異なり、FCC_L12#1および#2でラベル付けされた2相に分離することが予測されます(#1、#2はThermo-Calc上で相分離を意味します)。それぞれの相の組成を図中に示しますが、FCC_L12#1はほぼCo-Cr-Fe-Niであり、Cuはほとんど存在しません。一方でFCC_L12#2はCuが支配的であることから、Cuの添加によって相分離が生じることが示唆されます。
CoCrCuxFeNi5元系の平衡状態図(Cuのみを0-1 molで変化)では、わずかなCu添加によりFCC_L12#2相への相分離が生じることが分かります。

Thermo-Calc:高エントロピー合金 CoCrFeNi合金の温度対相分率

CoCrFeNi合金の温度対相分率

Thermo-Calc:高エントロピー合金 CoCrCuFeNi合金の温度対相分率

CoCrCuFeNi合金の温度対相分率

Thermo-Calc:高エントロピー合金 CoCrCuxFeNi合金の状態図(x:0~1 mol)

CoCrCuxFeNi合金の状態図(x:0~1 mol)

計算にはTCHEA3データベースを使用

TCHEA1: A Thermodynamic Database Not Limited for “High Entropy” Alloys, H. Mao, HL. Chen, Q. Chen, Journal of Phase Equilibria and Diffusion, 38(2017), 353-368

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AlNbTaTiV合金におけるAl含有量の影響

NbTaTiV合金における温度対相分率図では、BCC不規則相は、液相温度から434℃までの間で晶出する唯一の固相であり、凝固プロセスが平衡凝固から大きく外れていても、鋳造まま材は単一のBCC相となることを示唆しています。

AlxNbTaTiV合金の状態図では、AlはFCC構造安定の元素ですが、Alを添加した場合でも、BCC不規則相は凝固を経て形成される唯一の固相として存在しうることを示しています。これはAlxNbTaTiVの鋳造まま材における実験観察結果と一致します*1。留意されるべき点として、Al添加はσ相を著しく安定化させ、Al添加量を多くした場合には、非平衡の凝固プロセスでσ相が形成される可能性が有ります。

Thermo-Calc:高エントロピー合金 NbTaTiV合金の温度対相分率

NbTaTiV合金の温度対相分率

Thermo-Calc:高エントロピー合金 AlxNbTaTiV合金の状態図(x:0~1 mol)

AlxNbTaTiV合金の状態図(x:0~1 mol)

計算にはTCHEA3データベースを使用

TCHEA1: A Thermodynamic Database Not Limited for “High Entropy” Alloys, H. Mao, HL. Chen, Q. Chen, Journal of Phase Equilibria and Diffusion, 38(2017), 353-368

*1 X. Yang, Y. Zhang, and P.K. Liaw, “Microstructure and Compressive Properties of NbTiVTaAlx High Entropy Alloys”, Procedia. Eng., 36(2012), 292-298

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AlCoCrCuFeNiにおけるAl含有量、V含有量の影響

AlxCoCrCuFeNi合金の状態図では、Al添加によりBCC相およびB2型規則相の形成が促進されることを示唆します。この傾向は、Al-CrやAl-Feといった2元系状態図に基づいて予測することも可能ですが、Al含有量の増加に伴うFCCからBCCへの相変態を完全に理解するためには、多成分系の直接計算は必須となります。Al含有量が多い場合のFCC相分率は、若干過小評価されているものの、計算結果は実験結果とよく一致します*2

AlCoCrCuFeNiV合金の温度対相分率では、凝固プロセスにおけるBCC・FCC相の晶出を予測します。1230℃(原著論文では1500℃と表記されているが誤り)付近における主要な相は、Cu欠乏のBCC不規則相(図中ではBCC_B2#1と表示)であり、実験観察結果と一致します*3。Cuが支配的なデンドライト間領域は、FCC不規則相(FCC_L12と表示される)に起因するものである。また、LiらもTEM明視野像から観察しているように、デンドライト領域内にナノサイズ粒子が認められており、これらの粒子は、急速冷却中に析出する規則BCC相(図中のBCC_B2#2と表示されている)であると考えられます。

Thermo-Calc:高エントロピー合金 AlxCoCrCuFeNi合金の状態図(x:0~3 mol)

AlxCoCrCuFeNi合金の状態図(x:0~3 mol)

Thermo-Calc:高エントロピー合金 AlCoCrCuFeNiV合金の温度対相分率

AlCoCrCuFeNiV合金の温度対相分率

計算にはTCHEA3データベースを使用

TCHEA1: A Thermodynamic Database Not Limited for “High Entropy” Alloys, H. Mao, HL. Chen, Q. Chen, Journal of Phase Equilibria and Diffusion, 38(2017), 353-368

*2 CJ. Tong, YL. Chen, SK. Chen, JW. Yeh, TT. Shun, CH.Tsau, SJ. Lin, and SY. Chang, Microstructure Characterization of AlxCoCrCuFeNi High-Entropy Alloy System with Multiprincipal Elements, Metall. Mater. Trans. A, 36(2005), 882-893

*3 BS. Li, YP. Wang, MX. Ren, C. Yang, and HZ. Fu, Effects of Mn, Ti and V on the Microstructure and Properties of AlCrFeCoNiCu High Entropy Alloy, Mater. Sci. Eng., A, 48(2008), 482-486

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AlxCoCrFeNi高エントロピー合金における熱伝導率および電気抵抗率

AlxCoCrFeNi系の高エントロピー合金における熱伝導率と電気抵抗率を計算した事例です。この例では各温度に対する熱伝導率および電気抵抗率を計算し、Chouらの実験値と比較しています。

Thermo-Calc:高エントロピー合金 AlxCoCrFeNiにおける熱伝導率の温度依存性

AlxCoCrFeNiにおける
熱伝導率の温度依存性

Thermo-Calc:高エントロピー合金 AlxCoCrFeNiにおけるの電気抵抗率の温度依存性

AlxCoCrFeNiにおけるの
電気抵抗率の温度依存性

計算にはTCHEA5データベースを使用

Chou, Hsuan-Ping, et al. "Microstructure, thermophysical and electrical properties in AlxCoCrFeNi (0≤ x≤ 2) high-entropy alloys." Materials Science and Engineering: B 163.3 (2009): 184-189.

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