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三井住友建設株式会社 様城郭石垣の健全性調査・解析技術を確立
-個別要素法(DEM)コード「PFC2D」を石垣の挙動に応用-

お話を伺った方

  【土木事業本部】
土木設計第一部
課長:水元雅夫様

三井建設と住友建設の合併により、2003年4月、新たにスタートした三井住友建設株式会社。三井建設は1887(明治20)年、和歌山での創業。住友建設は元禄時代に開坑された四国の別子銅山の土木部門までルーツを遡ることができるという。三井住友建設はそれぞれの得意分野を結集し、超高層建築や免制震、プレストレストコンクリートや地下空間構築などの技術を土台として広範な分野で事業を推進している。

近年、城を復元したり、城跡を公園として整備する事業が各地で計画されています。そうした事業では安全のため古い石垣を修築することがあり、その際は文化財的価値を損なわないよう調査や解体を行い、築造当時の伝統工法で修復する必要があります。
三井住友建設株式会社は、城郭石垣を壊すことなく調査し、石垣の背面を含む全体構造の安定性を解析・検討する手法を確立しました。
石垣の安定性解析には、CRCが米国ITASCA社と業務提携して提供している個別要素法(DEM)による粒状体挙動解析コード「PFC2D」が使用されています。城郭石垣の調査・解析技術を確立された同社土木設計第一部課長の水本雅夫氏にお話を伺いました。

石垣修築工事を通じて石垣の力学的挙動に注目。

当社はこれまでに5件の石垣修築工事を行っています。 はじめて手がけたのは静岡の「駿府城」(昭和62年)です。続いて金沢城、ほぼ同時期に山形城、和歌山城も手がけました。こうした修築では、文化財保護の観点から現代の技術による補強は一切認められていません。可能な限り元の石を使用して、元と同じ姿に復元します。施工もコンクリートなどを使わない伝統的な「空積み」という方法で行います。
一方で、石垣は建築物の基礎として十分な安定性と耐久性が求められます。当社が請け負った3件の事例は、事前の調査で安全のため修復が必要と判断されたものでした。
今後、全国各地にある城跡や石垣を整備するときに、修復するべきかどうかの判断をくだすためには、伝統工法で積まれた石垣構造の力学的挙動を解明し、設計・施工の指針を確立しておく必要があるのではという認識が高まりました。

駿府城巽櫓復元工事および石垣修復工事 駿府城巽櫓復元工事および石垣修復工事

石垣の特性を反映できない概往の設計・解析法。 

ちょうど金沢城での石垣修築の施工が始まった頃に、金沢城の設計に携わっておられた建築文化研究所の八木清勝先生からも、「代々親方から受け継がれてきた石の積み方が、本当によいという科学的な裏付けが必要」とご指導いただきました。例えば、裏込めの栗石。今でも擁壁の裏込めには水はけのため必ず砕石を入れますが、これが壁の安定性の向上にも影響しているのではないかと昔から言われています。そうした石垣に関するいろいろな伝統的技法を証明する必要があるというお話でした。 八木先生は金沢城のほかに駿府城、白石城、山形城や小田原城などの木造による復元設計も手がけておられ、石垣の修復にも大変お詳しい伝統建築物修復・復元設計の第一人者でいらっしゃいます。それではということで、先生に共同研究をお願いしました。 しかし、実物大の実験となると莫大な費用がかかります。では既往の設計・解析手法はというと、「もたれ壁式擁壁」「円弧すべり法」「有限要素法(FEM)」などではいずれも石垣石(表面の大きな石)、栗石の特性・挙動を反映できず、崩壊や大変形に至る解析ができないのです。 ちょうどそのころ、CRCがITASCA社の個別要素法(DEM)のコードのプレゼンテーションに来社されました。そのときに「粒状体挙動解析コード「PFC:Particle Flow Code」の説明を受けて、”これは石垣の解析に応用できるのでは?!”とひらめきました。

伝統の技をPFCの解析が証明。

CRCとは以前から「KASETSU-5X」「Mr.SOIL3D」を利用させて頂くなど付き合いがあり、また自社開発のシステムに関しても、例えば現場で集積したデータを工事に反映させるための「山留め設計トータルシステム」「軟弱地盤上の盛土施工最適化システム」や「大口径深礎施工管理システム」などいくつものシステム開発に協力していただいていました。
これまでの石垣修築工事を通じて、昔の石垣についていくつかの情報を得ており、それらを利用してPFCを用いた石垣の解析手法の研究を行うことになりました。
PFCのよいところは、形状がそのまま表現でき、時間を追った挙動が視覚的にわかるところです。本研究の解析でも、栗石や石垣石は1個の石を実際に近い形状、大きさの要素にモデル化しました。ところが逆に背面の土は表現が難しいのです。今回は、土粒子の集まりを10cm径の円形要素にモデル化しました。理想を言えば、なるべく小さくしたいところですが、本研究の解析モデルでも要素数は6180個となり、計算にかなりの時間がかかるので、いまはこれが限界でしょう。(注)
本研究では、基本ケースのほか、「栗石粒径小」「栗石粒径均等」「背面土緩勾配」「石垣前面曲線」「裏込め厚小」「表面栗石大」「表面栗石小」の7ケースを解析しました。その結果、昔から行われてきた「石垣の前面が曲線になっている」「栗石を厚くいれる」「石垣の表面に近いほど大きく、奥になるほど小さい栗石を配する」などの伝統的方法がより安定度が高いことが確かめられたのです。

(注)現在、ハード及びソフトのパフォーマンスは向上されており、当時は1日程度の計算時間が、現在では数時間程度の計算時間に短縮されております。((株)CRCソリューションズ)

Case1 基本ケース   Case2 栗石粒径小   Case3 栗石粒径均等
 
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Case4 背面土緩勾配   Case5 石垣前面曲線   Case6 裏込め厚小
     
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Case7 表面栗石大   Case8 表面栗石小    
 
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石垣の力学的挙動解析 検討ケース


石垣の調査・解析技術の確立。 

いま日本には国の史跡指定を受けた城跡だけでも170カ所、一説には400カ所もの城跡があるそうです。歴史遺産の継承や憩いの場を創るために、今後石垣や城跡の整備は増えると思われます。そのときに古い石垣が安全かどうか、文化財である石垣を壊すことなく事前に調べて、問題があれば修復しなければなりません。 そこで、私たちは「レーザー計測」「レイリー波探査」「レーダー探査」の3手法を石垣に応用し調査を行い、PFCによる解析とあわせて、石垣の健全性を総合的に診断する技術を体系化しました。レーザー計測では石垣の表面の形状を、レイリー波探査では背面地盤の性状を、レーダー探査では背面の構造を入手することができます。

三井住友建設(株)の城郭石垣調査・解析フロー 三井住友建設(株)の城郭石垣調査・解析フロー

当社では、石垣修復の施工だけでなく、調査・解析からメンテナンスまでの一連の技術を提案していきたいと考えています。
そのために、これまでの研究成果を基礎として、今後より精度の高い解析を目指して、さらに研究を重ねていこうと考えています。また、PFCは従来のソフトでは表現できないものをビジュアルに見せることができるので、石垣だけでなくもっといろいろなことに応用できるのではと期待しています。そのためには、当社とCRCの双方の知識が必要になってくると思います。今後ともサポートはぜひよろしくお願いします。

インタビューを終えて │ 後 記 │Editor's notes
CRCでは去る2003年5月に「ITASCAワークショップ2003」を開催し、水本様にもこの石垣の解析事例を発表していただきました。ITASCA社の開発者・カンドール博士も城郭の解析には非常に興味を示していました。文化財を大切にすることは日本のみならず世界に共通する観点であると思います。需要も今後増えるものと予想できますので、本手法のさらなる発展を期待しております。

最後に、水本様には貴重なお時間を頂戴いたし誠にありがとうございました。(聞き手:CRC亀岡)

名称 三井住友建設株式会社
 
http://www.smcon.co.jp/
本社所在地 東京都新宿区荒木町13-4
設立 1941(昭和16)年10月14日
会長 滝澤 英一
社長 友保 宏
資本金 26,573百万円(平成15年4月現在)
主な事業概要 建設事業…土木・建築・プレストレストコンクリート工事の設計、施工及びこれらに関する事業
開発事業…不動産の売買、賃貸及び管理に関する事業