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コラム:超音波・電磁技術

長距離伝搬計算に有効なComWAVE外挿計算機能と
Rescale最新情報について

科学システム開発部 システム開発第3課 猿橋 正之

[2023/11/30]

空中超音波センサは、空気中を伝わる縦波超音波を固体の試験体に照射・透過させて、試験体による反射波、または試験体に含まれる欠陥部での反射波を再び空気中で受信することで、試験体に非接触で非破壊検査可能なことからバッテリの内部欠陥やCFRPのような複合材の内部剥離などの検出のほか、車両駐車時の周辺障害物の検知など幅広く利用されています。

この「センサ~空中伝搬領域~障害物」を含めた全体モデルをFEMで丸ごと計算しようとした場合(フルFEMモデル)、空中の音速は固体中よりも遅いことから同じ距離伝搬させようとすると空中の方が長距離伝搬となり、またFEMメッシュも空中の波長に合わせて小さくする必要があるため大規模な計算となります。また、長距離伝搬の計算では必要メモリが増えるほか、長距離伝搬に伴う数値誤差の影響も無視できません。

そこで有効なのが、空中の伝搬領域の計算に外挿計算(キルヒホフ法)[1]を用いる方法で、外挿計算ではFEMメッシュを作らずに伝搬計算が可能なため、フルFEMモデルに比べて少ないメモリ、短い時間で計算可能です。また超音波伝搬による数値分散の影響を原理的に受けないため、伝搬するにつれて波形がくずれる問題もなく、伝搬距離に依存しない大空間の超音波伝搬解析を高精度に計算可能です。

外挿計算を使用した全体の解析ステップを以下に示します(図1 FEM-外挿法ハイブリッド解析[2])。

Step1:送信解析(FEM計算)

センサを含む領域をモデル化して超音波伝搬解析を行い、センサ周辺の変位uについて計算します。このとき、送信される超音波を捕捉するための仮想的な面(積分面)をセンサ周囲に設置し、面上の複数の観測点における変位時間波形を記録します。

Step2:空中伝搬計算(外挿計算)

Step1で記録した波形が伝搬するものとし、ホイヘンスの原理に従って、積分面上の各点からの寄与分を足し合わせ、任意の遠方領域の変位場を求める外挿計算を行います。

図1 FEM-外挿法ハイブリッド解析

図1 FEM-外挿法ハイブリッド解析

空中伝搬計算後、さらに障害物による反射を計算させたい場合は、障害物を含む領域をモデル化してStep2で求めた波形を引き継ぐ超音波伝搬解析(Step3:反射解析(FEM計算、リスタート解析))を行い、帰りの空中伝搬計算を再び外挿計算により行う(Step4:空中伝搬計算(復路:外挿計算))ことで可能です。FEM-外挿法ハイブリッド解析事例として、超音波解析ソフトウェアComWAVEで計算した自動車ソナーの解析例を図2、3に示します。

図2 自動車ソナー解析例(Step1、2)

図2 自動車ソナー解析例(Step1、2)

図3 自動車ソナー解析例(Step3、4)

図3 自動車ソナー解析例(Step3、4)

この外挿計算機能はComWAVE Ver.6.1での機能追加以降バージョンとともに機能拡張が行われており、現在次のような機能があります。

波形ファイル出力

指定した観測点での観測波形を計算し出力します。
(例.複数観測点の圧力波形、距離減衰グラフ)

指向性ファイル出力

振動子から一定の距離離れた観測点での観測波形を計算し、その結果を元に指向性ファイルを出力します。
(例.空中超音波センサの指向性グラフ)

波形重ね合わせ出力(振動子、受信子)

振動子、受信子に含まれる各観測点での観測波形を計算し、振動分布の重みを考慮して重ね合わせた波形を出力します。
(例.自動車ソナーの受信波形)

音圧分布出力

指定した観測面、観測領域に含まれる各観測点での音圧を計算しコンター図を出力します。
(例.音圧分布コンター図、伝搬アニメーション)

図4 音圧分布コンター図

図4 音圧分布コンター図

領域引継ぎリスタートファイル出力

指定した時刻、領域に含まれる各観測点での変位、速度を計算し、リスタート計算の元となるリスタートファイル(仮想波源データ)を出力します。
(例.FEM-外挿法ハイブリッド解析)

境界引継ぎリスタートファイル出力

観測面(リスタート面)に含まれる各観測点での観測波形を計算し、リスタート計算の元となるリスタートファイル(仮想波源データ)を出力します。
(例.FEM-外挿法ハイブリッド解析)

また、外挿計算の計算量は外挿元と外挿先のデータ数の積で決まりますが、対象とするモデルや計算の種類によっては外挿元と外挿先のデータ数がアンバランスになる場合があります。その場合、データ数の多い方を分割してできるだけ少ないメモリで同時並行処理できるように、ComWAVEでは外挿元または外挿先データ数に応じた並列計算に対応しています。

また、外挿計算はGPU計算にも対応しており、CPU計算に比べてさらに高速な計算が可能です。GPUは年を追うごとに、計算速度の向上、搭載メモリの増加がなされ、今ではCPUメインメモリと遜色ないサイズの80GBのメモリを搭載したGPUも登場しています。例えば、クラウドとしてRescaleを利用したサービスを現在提供していますが、これまでのGPUタイプ「NVIDIA Tesla V100(GPUメモリ16GB)」(以下、V100)に加えて、V100の後継GPUである「NVIDIA Tesla A100(GPUメモリ80GB)」(以下、A100)が利用できるようになりました。サブスクリプション契約のお客様は、ライセンスがトークン制に移行する2024年リリース予定のComWAVE X2023a(仮)にてクラウドに対してライセンスの持ち込み(BYOL)が可能となり手軽にGPU計算が可能になります[3]。

図5 Rescaleハードウェア設定画面(A100選択画面)

図5 Rescaleハードウェア設定画面(A100選択画面)

オンプレミス環境を用意するまでの時間・コストを削減したい、スポット的に利用したいといった場合や、オンプレ環境では計算がなかなか難しい大規模解析[4]、AI学習の教師用データとしてシミュレーションデータを数多く用意したい場合などに、実行環境を柔軟に用意できるクラウド環境は有効です。A100を利用した計算をご検討、ご希望の方はご相談ください。

参考文献

[1] 雨宮和久、今村太郎、榎本俊治、山本一臣、航空機騒音解析に向けたキルヒホッフ法による遠方音場予測コードの精度検証、宇宙航空研究開発機構研究開発報告(2008) JAXA-RR-07-019

[2] 池上泰史、猿橋正之、超音波探傷試験のためのFEM大規模・高速シミュレータの開発、超音波テクノ、pp.33-43、2018年9-10月号

[3] ComWAVE X リリース!:ComWAVEが商品・ライセンス体系を一新
https://www.engineering-eye.com/rpt/column/2023/0629_ultrasonic-electromagnetic.html

[4] 車室内防犯センサ解析(100億要素解析事例)とクラウド利用について
https://www.engineering-eye.com/rpt/column/2018/0615_ultrasonic-electromagnetic.html

関連製品についてはこちら

超音波解析ソフトウェア ComWAVE
https://www.engineering-eye.com/ComWAVE/