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コラム:超音波・電磁技術

ComWAVE X リリース!:
ComWAVEが商品・ライセンス体系を一新

科学システム開発部 システム開発第3課 入谷 佳一

[2023/06/29]

ComWAVE X2023

0. 概要

超音波解析ソフトウェアComWAVEは、超音波の伝搬の解析に特化することで、他の解析ソフトウェアの追随できない大規模・高速なシミュレーションを実施可能なソフトウェアであり、発売以来20年近く非破壊検査や超音波洗浄を始め様々な分野での問題解決に役立たせていただきました。

近年、クラウドコンピューティングをはじめとした計算環境の多様化、ディープラーニングをはじめとした機械学習の急速な進展などシミュレーションを取り巻く環境は大きく変化しています。こうした新しい環境のなかでComWAVEを更に有効に活用していただくことができるよう、この度ComWAVEの商品・ライセンス体系を一新して新たな商品として提供していくこととなりました。本稿では、ComWAVEの機能と新しい商品体系の紹介を致します。

1. ComWAVEの紹介

最初に改めてComWAVEの簡単な紹介を行います。
ComWAVEは、空気、水、樹脂、金属等すべての媒質を弾性体として扱い、弾性体の変形の時間変化を解析することにより超音波の伝搬を計算します。そのため、構造の振動、音響等を区別することなく、シームレスに計算します。超音波の伝搬では、反射や屈折の際、縦波が横波に変化するなど振動モードの変換が生じます。ComWAVEは、弾性方程式を厳密に解くことで、こうしたモード変換や変換時のエネルギー比率などが正しく計算されます。図1に実験との比較画像を示します。また、表面波やガイド波など実際に生じる様々な超音波の伝搬形式が再現可能です。

実験結果

実験結果

ComWAVEシミュレーション結果

ComWAVEシミュレーション結果

(古村、古川:第14回超音波による非破壊評価シンポジウム講演論文集)

図1 超音波伝搬の実験とComWAVEの比較

ComWAVEの次の特徴は、大規模かつ高速なシミュレーションが可能であることです。ComWAVEは解法として有限要素法を採用していますが、超音波伝搬に特化した設計により汎用の有限要素法ソフトに比べて数百倍の計算速度を実現するとともに、100億要素に至る大規模計算が可能となっています。クラスタ計算機への対応、GPGPU計算、外挿計算機能強化等リリースと共にこれらの特徴を強化しています。

2. シミュレーションを取り巻く環境

2.1 AI・機械学習の発展

ディープラーニングの登場以降、様々な分野でAIの活用が盛んになっています。工業分野においても、欠陥の自動判定による検査期間・費用の圧縮、疲労・破断予測の高精度化けによる安全性向上、シミュレーションそのものを学習したサロゲートモデルによる計算時間の短縮など様々な応用が検討されています。

しかしながら、特に超音波分野では、学習に必要な数の試験データを揃えることは非常に困難です。データを取るために試験片を個別に制作していては費用や時間が非常にかかるためです。そこで、現実的な方法として、シミュレーション結果による教師データ作成が行われています。

ここでは、ComWAVEを用いた機械学習の例として徳島大学西野先生による事例を紹介します。この例では、配管内側の減肉状態をガイド波のエコーから推定するAIを作成するために約300個のComWAVEシミュレーション結果を学習しました。学習の結果は誤差1mm以内の正答率が94%まで向上しました。詳細は以下のインタビュー記事をご覧ください。

紹介記事:https://www.engineering-eye.com/interview/uni/labo18/index.html

図2 配管減肉推定AI (徳島大学西野先生 CTC講演資料より抜粋)

図2 配管減肉推定AI
(徳島大学西野先生 CTC講演資料より抜粋)

2.2 計算機環境の多様化

(1) 多コア化

ComWAVE発売当時の計算機のCPUは、ようやく計算コアの複数コア搭載が一般的になったものの高速計算のためには、複数台の計算機を接続したクラスタ計算機による並列計算が必要でした。現在では一般的なデスクトップPCでも8コア程度搭載し、多いものでは64コア以上もの計算コアが1つのCPUに搭載されています。こうした現状に合わせてComWAVEの販売ライセンスは当初、最低1コア、標準4コアだったものが、2022年から最低8コアに変更されています。また、計算機能についても、多コア化に合わせたチューニングを進め、これからのPCでのパフォーマンスアップを図って行きます。

(2) GPGPU

90年代より、PCは3Dゲームや3D-CADでの利用のために、高速な画像処理を必要としていました。そのためにCPUとは別にGPU(Graphics Processing Units)が発達しました。GPU内には、画素毎のシェーディング処理を行うコアが多数搭載されているのですが、これらを画像処理でなく、一般の計算処理に活用する手法がGPGPU(General-Purpose computing on Graphics Processing Units)です。00年代にはNVIDIAがGPU を計算に使用するためのプラットホームCUDAを提供、10年代からは計算専用GPUボードが提供され、ビッグデータの処理、マイニング、シミュレーションに活用されてきました。当初数百コアだったCUDAコアは、最新のボードでは2万弱まで増え、急速に高速化されています。

ComWAVEは、00年代当初よりCUDAに対応し、当時のCPU計算の40倍程度の高速化を実現していました。その後も、複数GPUボードでの並列計算への対応、GPU上メモリを超えた規模の大規模計算をGPUで実現など、大規模・高速なシミュレーションをGPGPUで実現しています。更に、GPUの世代ごとにチューニングを進めており、常に最新のGPU環境でパフォーマンスを発揮できる製品を提供しています。

(3) クラウドコンピューティング

現在では、マイクロソフトのazure、アマゾンのAWS、GoogleのGCPなど、いくつものクラウドコンピューティングサービスが提供されています。シミュレーションを行う環境としてクラウドを利用するメリットとしては、まず、計算機を柔軟に準備できることがあげられます。例えば、製品開発サイクルを考えると、初期設計段階では多くのパラメータ検討のためにたくさんの計算を実施する必要があります。しかし、設計が終わると、問題検討等のみで計算回数はぐっと減ってしまいます。また、オンプレPCだけでは、決められた設計期間に実施できる計算回数は限られてしまいます。これに対し、クラウドを利用すれば、設計期間のみ、且つ必要な台数の計算機を増やすことができ、計算機費用の低減、設計品質の向上が図れます。また、AI・機械学習にシミュレーションを利用する際も、学習セットを作成する際には、多くの計算を実施する必要がありますが、学習が終われば、高頻度の計算は必要なくなります。AIの精度向上には、学習データを増やすことが有効ですので、クラウドの利用が適しているといえます。上で紹介した配管減肉予測AIの例では150から200のパターンを計算するのに半年かかったとのことでしたが、クラウドで複数環境を構築すれば期間を大幅に短縮可能です。

また、上であげたGPUは毎世代価格が上がり現在最新のボードでは1枚約475万円となっており、導入の敷居が上がっていますが、クラウド上であれば、利用の敷居がぐっと下がります。

ただ、実際のクラウド利用においては、ユーザー様各社ごとに利用条件が異なります。ComWAVEは現在でもrescaleというHPCに特化したクラウドサービスにおいて、従量制ライセンスによりSaaSサービスを提供していますが、「プライベートクラウドである必要がある」、「会社で契約しているクラウドでないと使えない」、「あらかじめ予算化が必要な為、従量制は使いづらい」等諸事情によりご利用いただけないユーザー様が多数いらっしゃるのが現状です。

2.3 計測装置との連携サービスを用いたAE(Acoustic Emission)計測の高精度化への展開

弊社が提供する「計測・CAE連携サービス」は、科学システム本部のソリューション、および協力会社である島津テクノリサーチ(以下STR)、サーモフィッシャーサイエンティフィック(以下TMO)、SETLaの実験計測ソリューション、また、他社では実現困難な、CTC独自の大規模高精度CAEを組み合わせ、試験・CAE・AIによる分析・評価までをワンストップで提供するものです。

図3 計測・CAE連携サービス

図3 計測・CAE連携サービス

近年、自動車や航空機などの製品において、品質や信頼性の向上が求められるようになりました。そのためには、製品の構造や材料の評価が不可欠ですが、特に重要なのがAE計測です。

AE計測とは、製品に発生する微小な音や振動を計測し、異常や欠陥を検出する技術のことです。

しかし、AE計測は、計測対象の複雑さや計測環境の影響などにより、高精度な計測が難しいという課題があります。

そこで、計測・CAE連携サービスとして、AEと損傷評価・超音波解析を組み合わせ、複合材や構造物の高精度なAE評価を行うサービスを提供しています。

具体的には、AE計測波形と損傷種類、損傷大きさ等を、CAEにより関連づけ、AI等データ分析を組み合わせ、高精度なヘルスモニタリング手法を提供するものです。

詳しくは、弊社のTrans-Simulationサイトのブログをご覧ください。

計測・CAE連携サービスを用いたAE計測の高精度化 | Trans Simulation (x-simulation.jp)

AE研究を支援するシミュレーション | Trans Simulation (x-simulation.jp)

3. ComWAVEの新しい商品・ライセンス体系

ComWAVEは発売以来、Perpetualライセンスを中心に販売し、USBドングルでライセンスを管理する仕組みとしていました。ここまで見てきました通り、ComWAVE発売以来より20年近くの間に大きく環境が変わりユーザー様のご要望、利用形態も変わってまいりました。そこで、この度、現在の環境の中でできるだけユーザー様の利便性が向上できるよう、ライセンス体系を変えた新しい商品ComWAVE Xを販売致します。これに伴って、現行のComWAVEは2023年5月のアップデートが最終アップデートとなります。

ComWAVE Xは、商品上大きく2つの変更があります。一つは、ライセンスがトークン制となること。もう一つは、サブスクリプション制(「定期購読、継続購入」)となることです。

ライセンスについては、従来のUSBドングルの代わりにネットワーク上で提供するライセンスサーバーにアクセスする形態となります。ライセンスサーバーで購入したライセンストークンが管理されます。解析実行時には、ライセンスサーバーから計算に必要な数のトークンを取りだします。計算が終わるとトークンを返却します。ライセンスサーバーに残っているトークンが無いと計算が実行できません。図4に1コア1トークンとして利用イメージを示します。図に示す通り、これまでのライセンスと異なり、トークンが取得できる限り、計算実行の計算機は、複数あってかまいません。また、クラウドに対してライセンスの持ち込み(BYOL)が可能となりますので、ユーザー様各社ごとにご利用できるクラウド環境にライセンスを持ち込んで計算することが可能です。サブスクリプションの中にGPUオプションも含まれていますので、各クラウドで提供されている高価なGPUもご利用いただけます。更に、トークンについては、短期の追加トークンも購入でき、解析繁忙期にクラウド上で多数の解析を実施に対応いたします。

図4 トークン利用イメージ

図4 トークン利用イメージ

さて、商品ComWAVE X提供のスケジュールについてお知らせします。まず、2023年7月よりサブスクリプション制としては暫定版となるComWAVE X2003がリリースされます。暫定版では、ライセンスはUSBドングルでの管理にとどまり従来通り、ComWAVEはPC1台での利用となります。上に説明したトークン制に移行したComWAVEは2024年1月ComWAVE X2023aとしてリリースされる予定となっています。

次に計算機能面の紹介です。まず、ComWAVE X2023ではGPU高速化、複合材レーザ励起超音波解析機能のCFRP対応が提供されます。GPU高速化ではチューニングが進んだ結果、条件によっては、GPUでの計算速度について数倍の高速化が可能となりました。1月リリースのComWAVE X2023aではハイブリッド法のメモリ効率化による大規模・高速化対応、各種信号処理機能の追加等を予定しています。

製品が大きく切り替わるComWAVEですが、保守ユーザー様につきましては、保守更新の際に随時弊社よりご案内いたします。

新しい製品となるComWAVE Xを今後ともよろしくお願いいたします。

関連製品についてはこちら

超音波解析ソフトウェア ComWAVE
https://www.engineering-eye.com/ComWAVE/