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コラム:マテリアルデザイン

シミュレーション高速化のためのニューラルネットワーク活用例

アプリケーションサービス部 材料技術課 若目田 寛

[2019/06/21]

ニューラルネットワークは任意の関数を近似できることが一般的に知られていますが、さらに応用上重要なことに小規模なニューラルネットワークであれば入力から出力の計算が非常に速いというメリットがあります。本コラムでは機械学習を用いて数値シミュレーションを高速化した事例として熱力学データベース連携のマルチフェーズフィールド法にニューラルネットワークを適用したものを紹介します。

マルチフェーズフィールド法はミクロ組織を予測するための手法として広く使われている手法です※1。特にCALPHADに基づく熱力学データベースと組み合わせることで実用合金である多元系合金の凝固計算を行うことができ、材料の特性を知るのに非常に有効な手法の1つとなっています。
一方で、熱力学データベース連携でのマルチフェーズフィールド法は計算のステップごとに計算領域の各点において熱力学計算をして温度・組成からギブスエネルギー・化学ポテンシャルを求める必要があり、それが計算時間のボトルネックになるという問題がありました。
そこで熱力学計算をニューラルネットワークに置き換えることで計算の高速化を図りました。ここで、ニューラルネットワークを学習させるためには教師データ、すなわち温度・組成-ギブスエネルギー・化学ポテンシャルの関係を大量に作成する必要があります。今回はThermo-Calc のプログラミングインターフェースであるTQ-Interfaceによって教師データの作成をしました。

相とC濃度分布

計算結果として上図にマルチフェーズフィールド法計算におけるギブスエネルギー・化学ポテンシャルの算出にニューラルネットワークの予測を用いた場合と、従来の手法であるCALPHADデータベースによる熱力学計算を用いた場合の計算結果の比較を示します。このようにニューラルネットワークに置き換えて従来の手法の計算結果とほぼ変わらないことが確認できます。また計算速度の向上として従来の熱力計算と比べた場合おおよそ5倍ほどの高速化が実現することも確認しました。

このように機械学習を利用することで数値シミュレーションを高速化できる他にも、数値シミュレーションの結果を教師データとして機械学習に利用するという取り組みも弊社では行っています。今後も数値シミュレーションと機械学習のシナジー効果を活かすための取り組みを続けていきます。

※1 過去のコラムでもマルチフェーズフィールド法を応用した事例を紹介しています。
http://www.engineering-eye.com/rpt/column/2019/0111_material.html