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日本技術開発株式会社 様ITをフルに活用し、
コストパフォーマンスに優れた既存構造物の補強を提案

お話を伺った方

リサーチ・エンジニアリング事業部リサーチ・エンジニアリング事業部
西日本室耐震・保全グループ プロジェクトマネージャー
藤田亮一様(写真中)

防災・保全グループ プロジェクトマネージャー 
濱野雅裕様(写真右)

地下・地盤グループ プロジェクトマネージャー 
佐伯宗大様(写真左)

日本技術開発株式会社は、1954年に設立、59年からコンサルティング業務を開始した総合建設コンサルタントの会社である。
道路・トンネル・橋梁設計など道路交通分野、廃棄物処理分野、さらに都市計画、地質調査、上水道・下水道・河川治水、環境アセスメントから海外ODA関連まで幅広く手がけ、企画・構想から調査・解析・設計、施工管理まで一貫した理念と方法で社会のニーズの高度化、多様化に対応している。
最近ではアセットマネージメントも行い、国や地方自治体から委託を受けて代行している。

そう遠くない将来、日本の周辺で東海・東南海地震などの海洋型巨大地震や、阪神・淡路大震災級の直下型地震が発生する確率が非常に高いと言われている今、道路やライフラインの安全性の確保は極めて重要です。一方、高度成長期に整備された多くの道路や橋、ダムなどの老巧化が進み、その適切な維持整備が求められています。

日本技術開発㈱様は、総合建設コンサルタントとして50年にわたる実績を有し、本州四国連絡橋をはじめとする国家的プロジェクトを数々手がけてきたわが国を代表する総合建設コンサルタントです。同社リサーチ・エンジニアリング事業部は、新規プロジェクトのみならず、既存構造物が巨大地震にも耐えられ、かつコストパフォーマンスに優れた設計・補修を提案することで、国や自治体から高い評価を得ています。

今回のインタビューは、さまざまな事業を展開するリサーチ・エンジニアリング事業部の中で、既設構造物の補修・補強の現状や対策などに同社の技術がどう活かされているか、CTCのソフトウェアがリサーチ・エンジニアリング事業部でどう活用されているかなどについて伺いました。

高度な専門技術と分野を横断する共通技術を融合

耐震性という意識が一般に浸透し、国などの施設の管理者の意識も高くなっています。リサーチ・エンジニアリング事業部は、「地盤・地質」「耐震・保全」「環境」「水防災」の4グループから構成されています。“保全”をキーワードに、それぞれのグループが有する専門ノウハウや技術の深耕を図りつつ、地盤や耐震などの共通技術とメンテナンスなどの共通項を融合し、時にはグループが一体となって時代にマッチした技術開発と提案に努めています。そしてここで生まれた技術は、各事業部や全国の支社に技術協力という形でフィードバックし、当社の各部門でのコンサルティングに活かしています。

例えば、耐震・保全グループの中には地震動を専門にしているグループがあります。構造物や地盤などのハード面の評価をするグループや、都市計画と絡めて多面的な防災計画をするグループもあります。これらの専門技術者が分野横断的に連携して一貫した高度なサービスを提供しています。

今後ニーズの拡大が期待される水防災分野

阪神・淡路大震災後、道路や橋の設計基準が変わり、この10年間で既存施設の補修・補強はかなり進展、主要道路の地上部分については一段落といった状況です。それに対して水道施設は、橋梁等から少し遅れて新しい設計基準が決まり、現在、新しい基準での補修・補強が進められています。特に、耐震の分野では数年前から水道関係の補修・補強が始まり、現在は水管橋や配水池の補修・補強が活発化しています。

また、河川内の構造物は最近設計基準が大きく変わり、いわゆるレベル2地震動に対する照査が追加されました。堤防やダム、堰、樋門(水門の一種)などの耐震性のチェックや補強など、今後、既存のダム等の設計の見直しなどが増えると期待されています。

図1 ダム・堰構造物の動的解析例図1 ダム・堰構造物の動的解析例

多くの制約がある既存構造物の補強

公共事業が減少する中で、既存構造物を新しい設計基準で見直し、補強するケースが増えています。新しくつくるものは新しいルールに基づいて設計すればいいので自由度がありますが、既存のものはすでにあるものに新しいルールを当てはめなければならないため制約が多く、新規の構造物の建造にはない特殊な施工が必要なことも多々あります。特に、現在供用中の構造物は、使用している状態を保ったまま補強しなければならないケースが多いので、単に新しい設計基準を満たした補強設計をすればいいというわけにはいきません。

既存の構造物については、今の状態でどうなるかを確認する作業を行い、どこをどう補強しなければいけないのかをまず判断します。図面での確認に加え、現地で実際に使われている鉄筋の量などの実地調査も行います。

既存構造物の補強をする際の制約は、例えば、川の中に架かる橋の場合、補強の際、川幅を狭くするなど水の流れを変えるような工事はできません。また、発注サイドの希望や構造物のある場所の条件に合わせて工夫することが求められます。そうすると補強できる箇所や手法が限られてきます。そういったもろもろの制約の中でやらなければならないのが既存構造物の補強で、新規構造物の設計と大きく異なる点です。

実験と解析でより良い補強法を考案

近年設計の中で、解析的アプローチが増えてきています。既設構造の補強設計の場合には従来の設計による構造計算を新しい設計基準で見直しアウトかセーフかを判定、アウトであればその橋脚の補修・補強をしなければなりません。橋脚や梁の上には道路が載っていて付属物もたくさんついています。単純に補強材で巻けば手っ取り早いのですが、実態に合わせてどういう補強をしたらベストかを模索するために実験と解析を組み合わせて検討することもあります。

こうした解析には、CTCの「FINAL」等のソフトウェアを活用しています。実験をしてシミュレーション結果と付き合わせ、それを実物の構造物に適用していきます。そうすると全部補強しなければいけなかったものが2割くらいになる場合もあります。実態をできるだけ把握するために、実験をして解析をしてキャリブレーションする。それを実際の評価にもっていくという作業です。ただし、当社は実験施設をもっていないので我々が計画を立て、大学で実験していただいたものを我々が解析をするという産学協同でやることもあります。

模型実験   模型実験
     
弾塑性FEM解析の例   弾塑性FEM解析の例
写真1・図2 弾塑性FEM解析例
出典:睦好、牧、山田、小西、藤田:
RCラーメン橋脚における梁部耐震補強に関る研究、
土木学会論文集No.746/V-61、2003年

モデル化し、シミュレーションすることでコスト低減を図る

現在、補強対象となっている公共構造物の多くは、高度成長期の昭和40、50年代につくられたもので、当時のコンピュータ技術のレベルからモデルの構築までされていないケースの方が多いのが実情です。そうした場合は基本的にはゼロからモデルを構築し、シミュレーションします。

例えば、堰の場合、モデルをつくってゆすってみてどんなふうになるか。コンクリートの固まりを計算して、どこにどのくらいの力がかかってどこにひび割れが出そうか。そうしたことまでチェックします。水が関係する場合は、地震の際の水の挙動も計算に入れます。

従来から我々がこだわってきたことは、地盤は地震動の影響を受けるため、簡単なモデルでは実際の構造物の動きと異なってしまうということです。簡単なモデルだと計算は楽なものの、評価が厳しくなってしまいがちです。評価が厳しいとそれだけ補強規模が大きくなり、コストもアップします。逆に、モデルをしっかりつくりこんで地盤の減衰効果なども考慮して評価すると、「設計では厳しくなっていますが実際は大丈夫ですよ」と言える場合もあります。補強が必要な場合でも詳細なモデルをつくることで、補強の程度を軽減できる可能性がかなりあります。

このように詳細なモデル化をすることで、結果的にコストが削減できる可能性が高いのです。

ITの進展で進むモデルの大規模化

ITの進展により10年前に1週間かかっていたものが3時間でできるようになり、その結果、モデルの大規模化が進んでいます。

例えば、橋梁では従来、地上部分だけをモデル化することが多かったのですが、最近は地下も含めてモデルをつくるケースが増えてきています。その結果、地上と地下をまとめて計算、設計が出来上がった時にコンピュータ上で揺れ具合や安全性の確認をするケースが増えつつあり、ユーザーの理解も得られやすいという面もあります。

しかし、スペックがきちんと決まっていないため、基準が確立されていないものを対象に独自でモデル化する場合もあります。
水道の耐震基準が改訂された直後に高架水槽の耐震補強設定をおこなったことがあります。新しい基準が出ても、実際あるものに適用する方法はどこにも書かれておらず、社内で議論し、文献を調べながら「こういうモデル化をしよう」「こういう考え方をしよう」と検討しながらやりました。ルールが確立されているものであれば機械的にできますが、確立されていないものは非常に難しい反面、我々技術者にとってはおもしろいという面もあります。

CTCとは本四連絡橋からのお付き合い

CTCとのお付き合いは、本州四国連絡高速道路の耐震設計からになります。当社は、本四架橋の3本のすべてに関わっていますが、本四高速から提供されたCTCの解析結果をもとに設計をしていました。

CTCのソフトウェアを導入したのは、東京外郭環状道路の大規模なジャンクションの設計のときです。「DYNA2E」と「DINAS」を導入、「DYNA2E」を使いパソコンで1週間かけて計算しました。その後、モデルの作り方などをCTCの方に教えていただきながらいろいろ工夫して、1日くらいで流れるようにしました。

そのころから徐々に社内で計算していこうという機運が高まり、CTC開発のソフトウェア導入が進み、今では「SoilPlus/Dynamic,Static,Flow」「DYNA2E」、MIDAS/Civilを利用しています。

CTCのソフトウェアを導入した理由は、それまでの業務で関係が深かったこともありますが、CTCの自社開発ソフトウェアということが非常に魅力的でした。海外からの輸入ソフトウェアに比べて歯がゆい面もなくはありませんが、デメリットを仰ぎ見て余りあるメリットがあると思います。

外国で開発されたソフトウェアを販売、サポートしている会社はかなりありますが、自社開発ならばソフトウェアの中身が完全にわかっているので、問題があった時にもレスポンスが速く、適切に対処いただけます。それとCTCでも計算し照合しているという安心感もあります。

あるモデルをつくりたかった際、「DYNA2E」に我々が希望する機能が入っていませんでした。「何とか入れて欲しい」とお願いして無理矢理スペシャルなものをつくっていただいた結果、非常にクオリティの高いものをつくることができました。

これは摩擦支承の滑りによる地震の低減効果を考慮した設計をしたいというユーザーの要望に応えるために、面圧依存と速度依存の両方を考えたモデルで、論文発表もしています。面圧が上がると摩擦係数が低くなり、速度が上がると摩擦係数が高くなるということは良く知られた現象ですが、当時はどちらかしか入れられず、面圧依存と速度依存の両方を考慮した設計はあまり行われていませんでした。当時としては画期的なことであり、CTCにはタイトな工期の中で無理を言ってスペシャルバージョンをつくってもらいましたが、今もこの機能は「DYNA2E」に入っています。そういう類いのものがかなりあるのも、CTCの自社開発ソフトウェアの賜物と言えると思います。

すべり支承とゴム支承を組み合せた機能分離型免震支承の適用例図3:すべり支承とゴム支承を組み合せた機能分離型免震支承の適用例
出典:藤田、森、金治、伊津野:
すべり免震支承システムのパラメータが橋梁応答に及ぼす影響、
土木学会地震工学論文集、2003年

今後もCTCのエキセントリックなソフトウェアに期待

CTCは耐震の専門的な知識や技術力が非常に高く、専門者的なセンスでソフトウェアを開発しているという他社にない特徴があります。学協会でもいろいろ活動されていて、多くの情報をお持ちだと思います。私自身も土木学会などで発表する場合、「DYNA2E」を使うことが多く、そういうレベルに耐え得るソフトウェアだと思っています。これからもソフトもサポートもバーションアップを続け、中味で他社に一歩も二歩も抜きん出たエキセントリックなソフトウェアであって欲しいと思います。

また、CTCと当社で人材交流を深めお互いが弱い部分を補うことで、お互いが共に成長していきたいと思っています。

インタビューを終えて │ 後 記 │Editor's notes
本州四国連絡橋の耐震設計をお手伝いしてから、各種構造物の耐震解析に微力ながら協力してきました。日本技術開発の皆様の技術水準の高さ、業務を遂行する能力の高さ、そしてプロジェクトに対し真摯に向かう姿、それらが若いスタッフの方々に引き継がれていることに非常に感銘を受けております。非常に優れた技術を保有されている方々に弊社の耐震関連ソフトウェアを使用していただくことに感謝するとともに、大きな責任も感じております。今後も新しい知見や技術の導入、解析対象の大規模化、そして操作性の向上をさらに図っていきたいと思っています。
長い時間のインタビューをありがとうございました。(聞き手:亀岡)

名称 日本技術開発株式会社
(JAPAN ENGINEERING CONSULTANTS CO.LTD.)
本社所在地 東京都中野区本町5丁目33番11号
代表者 代表取締役社長、社長執行役員 佐伯 光昭
設 立 1954年7月
資本金 15億5,460万円
社員数 369名(2007年5月31日現在)
事業内容 建設コンサルタント
●河川、砂防及び海岸・海洋●港湾及び空港●道路●鉄道●上水道及び工業用水道●下水道●農業土木●廃棄物●造園●都市計画及び地方計画●地質●土質及び基礎●鋼構造及びコンクリート●トンネル●施工計画、施工設備及び積算●建設環境
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