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日本工営株式会社 様シミュレーション技術を活用し、
斜面災害対策の信頼性と経済性の向上を図る

お話を伺った方

日本工営株式会社 総合技術開発部次長
(兼) 岩盤解析グループグループ長
倉岡千郎様



日本工営(株)は、1946年に設立された我が国トップの建設コンサルタントで、その高い技術力は国内のみならず海外、ODAでも定評があります。また、電力機器・設備・工事等電力エンジニアリング分野でも豊富な実績を有しています。2006年度は、国内の建設コンサルタント業務が57%、海外コンサルタント業務が22%、電力エンジニアリング業務が20%、その他が1%となっています。1954年にはビルマのバルーチャン発電計画を受注したのを手始めに、現在はアジア各国をはじめアフリカ、中東などに数多くの海外拠点を設置、世界の人々に快適かつ安全・安心な社会基盤の整備のための多彩な技術を提供しています。

創業60周年を機に、日本工営グループのコーポレートブランドを制定、「Challenging mind, Changing dynamics」のブランドスローガンのもと、“挑戦する心”“実現する力”を強くアピールしています。

日本工営(株)中央研究所の総合技術開発部・岩盤解析グループは、かねてよりCTCが業務提携をしている米国HCItasca社の2次元/3次元個別要素法(DEM)解析システム「UDEC3DECPFC3D」およびCTC開発の地盤・耐震統合解析ソフトウェア「Soil Plus」を研究・開発ツールとして活用するとともに、最近では、3次元地質解析システム「GEORAMA」を導入、さまざまな斜面解析への活用を図っています。同総合技術開発部次長(兼)岩盤解析グループグループ長の倉岡千郎氏に、地すべり、岩盤崩落、落石などの対策にCTC提供のソフトウェアをどのようにご利用いただいているかなどについて伺いました。

地すべり、岩盤崩落、落石、土石流の合理的な対策に役立つシミュレーション技術を研究

日本工営(株)の総合技術開発部では、基礎地盤の耐震、コンクリート構造の評価、斜面災害の対策などの力学系の技術を核としたグループ、水循環、河川および地下水の流れに関わる技術を中心としたグループ、事業評価や事業の優先度を評価するノウハウを有するグループが連携して研究開発を行っています。

ここで紹介する岩盤解析グループは「地すべり」「岩盤崩落」「落石」「土石流」などの対策技術の信頼性と経済性の向上を主な目的として、現場の調査・観測、実験結果を踏まえたシミュレーション技術の開発と適用を進めています。また、最近では岩盤空洞やトンネルの安定性に関するシミュレーション技術の導入と開発も行っています。

シミュレーションで地すべり対策工の信頼性と経済性の向上を目指す

地すべりは地震、台風、集中豪雨などのたびに日本各地で発生しています。地すべりの主なハード対策としては、地下水排除工、アンカー、抑止杭が挙げられます。いずれの方法も従来の技術にシミュレーション技術を併用することで、信頼性と経済性を向上できるケースがあると考えられます。次に一例を挙げます。抑止杭は、地すべり土塊を貫通して杭を安定している基盤まで打ち込むことで地すべりの滑動を抑止するものです。一般に抑止杭は、2次元簡便法の安定計算より得られた必要抑止力に基づいて設計されます。この際、地下水位上昇などによって地すべり土塊が変動して杭に加える荷重は、すべての杭について均一としています。しかし、地すべり土塊の断面形状は安定計算で用いる2次元断面のように均一ではなく、地すべり土塊の厚みが中心領域と端の領域で明瞭に異なる場合、杭に作用する荷重は不均一になると考えられます。最近は3次元の安定計算により必要抑止力を算定する方法が適用されています。しかしながら、3次元の安定計算では、杭と地盤の相互作用を解かないので各杭に作用する荷重を求めることはしないで、必要抑止力を杭に均等に分担させることになります。その結果、杭にとっては危険側の設計になる可能性もないとは言えません。そこで、地盤と杭の相互作用をモデル化することで合理的な設計に役立てることができると考え、3次元FEMを開発し適用を進めています。

解析手法はFEMに限定する必要はなく、例えばHCItasca社の「3DEC」という個別要素法の3次元ソフトを用いれば大変形も扱えます。ただ現段階では杭を表すモデルがないため、地すべり抑止杭のモデル化に使うのは難しいと考えられます。「3DEC」は、さまざまな構成則が用意されており、動的解析も可能であることから将来の改良が期待されます。

岩盤斜面の解析は崩壊機構やキーブロックの検討に重点をおく

岩盤斜面の安定性は、往々にして亀裂の頻度や連続性に支配されます。斜面によって、亀裂が無数に存在する場合や卓越した亀裂によって明瞭な岩盤ブロックが形成されている場合があります。後者の場合は亀裂を直接モデル化する方法が考えられます。ただし、亀裂の位置と連続性を調査から把握することは難しい場合が多いので、信頼性と経済性の改善を目指すことは容易ではありません。一つの活用方法として考えられるのは、シミュレーションによって崩壊機構を推定し、調査結果とシミュレーション結果を総合することで、早く変状の表れそうな領域やキーブロックを判定し、より良いモニタリングや対策方法の参考とすることです。また、情報化施工に応用することもできると考えられます。施工中にモニタリングを実施し、解析結果と観測結果を比較し、リアルタイムでモデルを修正できれば、続く施工の安全性を確認することができると考えられます。

ソフトとしては個別要素法と分類できる2次元の「UDEC」、3次元の場合は「3DEC」を用いています。FEMでも亀裂はモデル化できますが、これらのソフトは、特定の亀裂を走向傾斜で設定できるし、亀裂をランダムに設定することもできる点で効率的と考えています。また、一般に個別要素法は、変形しない剛体ブロックの集合を扱うものとイメージされていますが、これらのソフトは亀裂で形成されたブロック内部を差分法で離散化することでブロック内の応力やひずみを求めることができる点が特徴です。

図1:個別要素法による亀裂性岩盤斜面の2次元解析 図1:個別要素法による亀裂性岩盤斜面の2次元解析

図2:個別要素法による岩盤斜面や落石の3次元解析 図2:個別要素法による岩盤斜面や落石の3次元解析

その他、落石についても「UDEC」を使って解析するようになりました。落石シミュレーションは、落石の跳躍、速度、到達距離を推定することで、ロックシェッドや防護壁など防護工の検討に役立てるためのものです。落石の跳躍、回転、すべりを計算する上で斜面および落石の形状の影響は大きいと考えています。「UDEC」を用いる理由は、落石形状を表すことができるからです。もちろん、斜面や落石形状を厳密に2次元でモデル化することは困難ですが、形状をパラメータとした感度解析を実施することで、さまざまな落下形態を推定し、合理的な対策方法の計画立案に役立てようとするものです。3次元の「3DEC」によるシミュレーションも試みていますが、落石が斜面に衝突した時点の反発挙動が過大に表れるので原因の解明と改良が必要です。

図3:個別要素法による構造物に作用する衝撃力の推定(衝撃荷重推定のイメージ) 図3:個別要素法による構造物に作用する衝撃力の推定(衝撃荷重推定のイメージ)

図4:個別要素法による構造物に作用する衝撃力の推定(崩壊土砂の衝撃力の解析) 図4:個別要素法による構造物に作用する衝撃力の推定(崩壊土砂の衝撃力の解析)

私は、数値解析は有益な技術と考えていますが、自然斜面の問題を扱っていると前述のように亀裂の長さや位置、地盤・岩盤の強度特性などを調査から把握することが困難であり、確定論的な結果を求めるには限界があります。そのような場合でも、観測と数値解析を併用することで数値解析を生かす可能性については前述したとおりです。最後にもう一つの見方について述べます。それは、数値解析を一種の実験と考え、観測や地質調査結果からだけでは、わかりにくいメカニズムを検討するための数値実験と考えるものです。どのような崩壊形態が発生しそうか、人間が想定した形態の妥当性について、シミュレーションすることで自分の考えを確認し、さらに当初は想定していなかったメカニズムが見つかる場合もあります。

図5:個別要素法によるトンネル施行時の緩み域や崩壊機構の解析 図5:個別要素法によるトンネル施行時の緩み域や崩壊機構の解析

図6:個別要素法による土被り厚の違いによるトンネル周辺の崩壊域の比較解析 図6:個別要素法による土被り厚の違いによるトンネル周辺の崩壊域の比較解析
図7:個別要素法による亀裂を考慮した岩盤空洞解析 図7:個別要素法による亀裂を考慮した岩盤空洞解析

土石流対策における透過型ダムの補足効果のシミュレーションに「PFC3D」を活用

土石流のハード対策方法として透過型ダムが挙げられます。透過型ダムの土砂捕捉効果の検討にあたり、実験に加えて3次元粒状体解析ソフト「PFC3D」を使っています。「PFC3D」も個別要素法に基づくソフトであり球形の要素で礫や砂などの粒子集合の挙動をシミュレートするものです。

ただ、「PFC3D」に限らず個別要素法で流体と固体が複雑に混合・堆積しながら流れる機構をモデル化することは困難です。一方、粘性流体などのモデルで土砂や岩塊がダムに衝突し、閉塞する機構を表すこともできないのが現状です。このような限界もあり現在は、実験と現場調査から捕捉効果を検討するのが主流のようです。しかし、私は先に申し上げたようにシミュレーションを有益な数値実験と考え、実験結果や調査結果から考えられる機構を補足する目的で「PFC3D」を用いています。シミュレーションは粒子の分級、河床での堆積や巻き込みをモデル化するものではなく、ダム部分における粒子とダム構造の力学的な閉塞機構の表現を目的としています。そこで、ダム部分における土砂の停止と閉塞は流体に押される粒子群の力学的な安定性に支配されるものと考え、流体の流れは実験などの別の方法で推定し、流れによる推進力を粒子に与えています。流体と固体の混合した土石流のモデル化は容易ではありませんが、より適切なモデリング技術の構築が必要と考えています。


地震時の斜面解析

2004年の新潟県中越地震により滑動履歴のある地すべりも含め、膨大な数の斜面が崩壊しました。中越地震は地震時の斜面崩壊の危険性を再認識させたものであり、東海・南海地震など将来予想されている地震時における斜面の対策技術がさらに重要になってきています。しかしながら、自然斜面の有する地質構造、地下水、物性値を把握することは容易ではなく、安定性を評価し適切な対策を施すためには、さまざまな技術開発のニーズがあります。多くの技術者や研究者が、崩壊機構を地形・地質構造や地震波の点から整理し、さらに遠心模型実験や数値解析により機構をモデル化する研究開発を実施しています。弊社もこれらの研究開発に参加しており、数値解析では、「UDEC」およびFEMソフト「Soil Plus」を用いて斜面や盛土の動的解析を実施し、地震波、地形形状および地盤の剛性に応じた振動特性の把握を試みています。

地震時の数値解析の活用方法の一例として、次のような取り組みが考えられます。一般に滑動履歴がある日本の地すべりは、地すべり土塊が大きいケースがあり、そのような地すべりのハード対策を検討するにあたり、簡便法に震度係数を設定して安定計算を行うと、必要抑止力が膨大なる場合があります。しかし、地震時に地すべりは、ある瞬間は大きな力がかかりますが、一定の荷重が継続して作用するわけではありませんので、ある瞬間に安全率が1.0を下回ったからといって、大きな崩壊が発生するとは限りません。そこで、対策としては、地震時の斜面の動きを完全に止めるのではなく、変位が一定の範囲を超えないように抑制・抑止する方法も考えられると思います。FEMやDEMを用いて地震時に地すべり土塊に発生する変位を推定し、変位を抑制・抑止するような対策技術について検討できると考えています。

優れたソフトウェアだからこそ望むプリ・ポスト処理の充実

当然のことながら私どもの仕事では、わかりやすい結果を見せて理解してもらうことが求められています。そのため、ポスト処理技術はソフトに求められる重要な要素です。その点で、「UDEC」や「3DEC」については、いくつかの将来的な改善が期待されます。例えば「UDEC」や「3DEC」から得られる応力コンターは、FEMのポスト処理ソフトのコンターに比べて、コンターの内挿方法が異なるためか、モザイク的なコンターになってしまいます。また、「3DEC」では応力や変位の断面を得ようとすると、見た目だけでなくコンターが表現されるのに何分もかかってしまい使いにくい面があります。色の区分やスムージングなどについても改善の余地があると思います。

先頃、3次元地質解析システム「GEORAMA」も導入しました。「GEORAMA」を使うことにより、より簡単にFEMの三次元メッシュを作れることを期待したものです。「GEORAMA」は、成層地盤の立体的な可視化に使われていますが、「Soil Plus」と併用することで地すべりのように、すべり面によってお椀型の形をした地すべり土塊の地層構造のメッシュを作成しようとするものです。まだ地すべり土塊の内部の地層構造やすべり面をモデル化する上では課題があり、地層が不連続に薄く存在したり、内部に塊状の地層構造などが複雑に存在したりすると、メッシュがなかなか作成できない場合があります。昨年もある地すべりをモデル化するのに地層内部のメッシュ発生がどうしても作成できませんでした。そこでCTCの方に来社いただき、まる1日がかりでお手伝いいただいたことがありました。ソフト上の課題はありますが、CTCさんのサポートにより何とかメッシュは作成できました。

メッシュ作成にかかる時間を短縮することは重要であり、メッシュ作成ソフトの実績が豊富なCTCさんや当社などの民間企業の協業によって、より簡単に地すべりや岩盤斜面のメッシュを作成できるソフトウェアの開発が重要と考えています。

インタビューを終えて │ 後 記 │Editor's notes
安心・安全な社会を築く上で防災事業は重要な役割を持っています。その中の一つである斜面災害対策においては、最近では数値解析技術を適用した方法が検討されており、日本工営(株)中央研究所の総合技術開発部・岩盤解析グループでの優れた解析技術をお聞きし、有限要素法のみならず個別要素法も3次元的に適用されていることに感服いたしました。個別要素法システムにもまだ課題があることも事実であり、システムを提供している当社として、防災関連技術への適用性を拡大する上でも継続的に改良を加えていきたいと考えています。
長時間のインタビューをありがとうございました。(聞き手:CTC亀岡)

名称 日本工営株式会社
http://www.n-koei.co.jp
本社所在地 東京都千代田区麹町5丁目4番地
社長 高橋 修
設立 1946年(昭和21年)
資本金 73億9333万8939円(2007年3月現在)
年商 670億円
社員数 1,337名
株式 東京証券取引所市場第一部上場
主な事業概要 開発および建設技術コンサルティング業務ならびに技術評価業務、電力設備、各種工事の設計・施工、電力関連機器、電子機器・装置などの製作・販売