株式会社フジタ 様長年の数値解析で培ったノウハウを活かし
技術提案型設計を推進
お話を伺った方
土木本部 土木技術統括部 設計部
設計課長 渡邉 哲也 様(写真右)
設計課長 池内 正明 様(写真左)
設計課 田淵 徹 様
(株)フジタは、1910年に創業、日本初のハイウェー「名神高速道路」をはじめ「青函トンネル本州側入口」など日本の代表的な構造物を手がけるとともに、PC工法の実用化や建設の無人化をめざしたマイクロエレクトロニクス技術など、先端技術開発にも積極的に取り組んできた。2002年に旧株式会社フジタから社名と建設事業部門を継承した株式会社フジタ(新規会社)を設立、建設工事、地域開発、都市開発等の請負、企画、設計、監理、コンサルティングを行っている。2010年に創業100周年を迎えるフジタは、100周年に向けて新中期経営計画「フジタ STEP-UP 計画」を策定、都市再生事業ノウハウ、各事業の強みを結集した総合力とスピード感の企画力・提案力という同社の強みを活かし、“超ゼネコン「建設機能を機軸とする都市再生企業」”を目指し、新たなスタートを切った。
地震国日本では、構造物の設計に大地震を考慮することが不可欠です。同時に、8月にアメリカのミネアポリスで起きた供用中の高速道路の崩壊に見られるように、わが国でも道路や鉄道などの既存構造物の補強が大きなテーマとなっています。公共投資が縮減される中で、効率的な設計で低コスト、かつ安全・安心な構造物をつくることが求められているのです。
今回のインタビューでは、大型コンピュータ時代から長年にわたり培ってきた数値解析技術を活かし、技術提案型設計を進めている株式会社フジタ 土木本部 土木技術統括部 設計部の渡邉哲也設計課長、池内正明設計課長、田淵徹氏に、土木分野における数値解析の現状やCTCのソフトウェアの活用法などについて伺いました。
求められる設計コンサルと同様の高度な設計
フジタの土木本部土木技術統括部設計部は、橋梁、道路、鉄道、トンネル、港湾、上下水道など土木全般の設計を行っています。設計部の人間は、これらのすべてに携わっています。
一般に土木工事は、設計コンサルタントが概略設計と詳細設計を行い、施工するゼネコンが施工サイドから詳細設計を照査、修正するというステップを踏んできました。コンサルが行った設計について、施工する上で妥当性があるかどうかを照査する義務が施工側にあるためです。設計変更があった場合には、その変更についてどうアレンジしたらよりよい施工ができるかという検討も行います。このように、コンサルと施工には明確な役割分担がありました。
しかし、最近は発注形態が変わり技術提案型、デザインビルドの発注が増えてきました。デザインビルドの場合は、ゼネコンが施工方法を考慮しながら設計も含めた提案をするため、最初からコンサルと同レベルの設計、積算、施工計画まで行う必要があります。
特に橋梁の分野では、施工側で最初から詳細設計を行うことが増えています。その理由は、橋梁工事は施工方法によって設計が変わってくるからです。例えば、長い橋の場合まず橋脚を構築し、その橋脚の上の左右にヤジロベーのように橋桁を伸ばしていくという工法があります。こうした施工方法はその場所の条件などを考慮して施工者サイドが決めるため、その施工条件に基づいて設計をやり直さなければならないのです。
「性能設計」時代を迎えた土木設計
近年、土木分野で多くなったのが「性能設計」です。かつては発注側があらかじめ仕様を決めた「仕様設計」がメインで、設計にそれほど自由度がなかったのですが、性能設計では、発注側は構造物の強度や耐用年数を示すだけで、設計や施工法は受注側が提案します。例えば、大地震の規模によってどう壊れていくのかを明示し、その地震に耐える性能を保証するということです。しかし、地震でどの程度の断層規模(ずれる面積)が構造物のどの位置で発生したら、その構造物がどのような状態になるかは、ある程度の予測は可能になりましたが、技術論が先行気味で、性能設計にまでは落としこめていないのが現状です。
今後は、こうした技術を含めた性能設計に移行していく方向にあり、また、発注側の要求する品質を保証するための条件が非常に高度化しているために、数値解析は必須のものとなっています。
もう1つ今日求められていることは、50年、100年という耐用年数の中で、「ライフサイクルコスト」を考慮した設計です。設計のハード、ソフトという面から言えば、ソフト面が重視されるようになってきたのです。このため施工時の効率化のみならず、その後のメンテナンスが容易な設計が求められるようになってきました。
CTCの技術力≒フジタの技術力と言えるくらい活用しているCTCのソフトウェア
CTCとは、「DINAS」を導入した1989年以来、19年のお付き合いになります。現在は地盤・浸透・耐震統合FEM解析ソフトウェア「SoilPlus」のフルバージョン、3次元構造解析トータルシステムMIDAS/Civilのフルモジュールに加え、1次元波動伝播解析システム「D-PROP」、地震動作成/波型処理システム「D-WAVE」という地震動に関するソフトウェアも導入するなど、土木設計、解析に必要なあらゆる分野に適用できる全機能を導入しています。特に「SoilPlus」は、「Mr.Soil」という名前だったバージョン1から利用させていただいており、フジタの技術力はCTCのソフトウェアを存分に活かしていると言っても過言ではないくらいです。
MIDAS/Civilは、2003年に開かれた第1回「MIDAS/Civilセミナー」で品質維持の観点から、いかにしたら橋の損傷を少なくでき、コンクリートのひび割れを防ぐかという発表をしたことがあります。CTCがリリースする前から我々がテスト的に使っていたことからそのような発表ができたのですが、どのソフトウェアもリリース初期には問題点があり、MIDAS/Civilも我々が実際に使うことで問題点を発見し、改善できたのではないかと内心思っており、MIDAS/Civilにはそういう意味で貢献できたかなと思っています(笑)。
かつて手計算で設計していた時代に比べ、今はコンピュータを使って何でもできるようになりましたが、その分、構造解析が非常に複雑になりました。どうしてもソフトウェアに頼らざるを得ないのが実情であり、CTCのソフトウェアとサポートはフジタの土木設計部門にとって必要不可欠なものとなっています。
橋梁、トンネル、耐震など幅広い分野で適用
CTCのソフトウェアを使った最近の例では、秋田県の「森吉山橋梁」があります。橋長約350m、橋脚60mという橋ですが、高さ60mの橋脚をまず作り、そこから西側に橋桁を伸ばすという工法を採用した連続桁ラーメン橋で、「DYNA2E」を使いました。
また、埼玉県の江戸川の支流に建設した洪水防止のための「外郭放水路」では、トンネル解析で「SoilPlus」を用いて耐震検討をしました。トンネルをモデル化し、地震応答解析を行い、地震発生時に壊れるか壊れないかという検討です。この放水路は地中80mに巨大なトンネルを掘り、増水時には一時そこに水を貯め、川の水位がさがったら貯まった水を川に戻すという地下貯水池です。
現在は、三重県四日市付近の東名阪道路の拡幅工事の際の解析をMIDAS/Civilで行っています。東名阪道路は供用中の道路の拡幅ということから、既存の構造と新しい構造の融合が必要である上、既存の構造物に負荷をかけない構造が求められるなど、新規に橋をつくるのとは異なる技術が求められますが、MIDAS/Civilを使うことで効果的な設計ができたと思っています。
地震に強いフジタを目指し耐震設計にも力を注ぐ
最近、橋の設計に関しては必ず耐震診断が入るようになりましたが、トンネルの耐震診断に対しても、進歩が著しい数値解析技術を適用するようになっています。トンネルの設計は橋梁のような設計手順を踏まず、崩壊過程などは経験に頼る面が多いものの、最近の数値解析の発展により工法や施工の仕方、崩壊予測や近隣の構造物への影響などを解析によりシミュレーションできるようになり、効果的な施工が可能となりました。
最近の構造物の設計では、地下何千メートルという深部の地層構造から表層までを考慮する方法も適用されつつあり、フジタでは断層モデル、統計的グリーン関数法を使用してマグニチュード6.5程度の地震が構造物の直下10km以内で発生した場合での地震動を計算して解析しています。ここまで詳細な設計を行っているゼネコンは少なく、フジタの技術力のアピールになると思っています。今後は、土木に限らずこの技術を建築にも適用して“フジタの建物は地震に強い”というキャッチフレーズが広まると嬉しいですね。
ひと口に耐震と言っても、道路橋、鉄道橋、トンネルなどそれぞれ耐震基準が異なります。フジタの土木本部設計部員はこれらすべての構造物に関わっていることから多用なノウハウを蓄積でき、技術提案をする際に役立っています。
フジタ独自の高耐力マイクロパイル技術で補強工事をコスト削減
フジタは10年ほど前から構造物の地下基礎補強技術の開発を進めてきました。「高耐力マイクロパイル」(HMP)と呼んでいる技術です。基礎構造物を補強するのに、非常に小さな杭で大きな耐久力を保持できるという優れた工法です。
日本の道路橋や鉄道橋にも施工してからかなりの年月を経ているものが数多くあり、それらの橋脚の補強はかなり進んでいます。しかし、阪神・淡路大震災で高架橋が基礎ごと倒壊した例に見られるように橋脚の補強だけでは不十分で、基礎の補強をすることが極めて重要です。基礎補強は通常、基礎構造物の周囲を掘り、杭を周囲に打ち込み、それを繋ぐというマイクロパイル工法が採用されています。これは多数の杭が必要なばかりでなく継ぎ足さなければいけないのに対し、HMPは小さな杭で高耐久力を確保できるため、低コストで容易に施工が可能な工法と言えます。東海地震や東南海地震の発生が危惧され既存構造物の補強が重要なテーマになっている今、フジタが開発したHMPは今後大いに採用されていくものと期待しています。
ユーザーにとってありがたい強力なサポート体制
我々ユーザーが一番欲しているのは困ったときのサポートです。その点CTCはサポート体制がしっかりしており、しかも親身になってくださるという点で業界ナンバーワンと言えるサポート体制と感じており、非常に助かっています。
また、「SoilPlus」は、CTCが開発した「Mr.Soil」「CatsFlow」「DINAS」を統合したソフトウェアであることから、我々が必要とする機能はこれ1つですべて揃っています。特に、降雨時に地震が発生したらどういう現象が起こるかという解析は「SoilPlus」しかできません。さらに、同じユーザーインタフェースで使用できる点が我々にとっては使いやすいソフトウェアです。反面、機能が多いため、どういうときに、どの機能を使えばいいのかを知らないと使いづらいという面もあるので、今後、ヘルプ機能をさらに充実し、さらに使い勝手のいいソフトウェアになることを期待しています。
理想は構造解析から設計までを一貫してできるソフトウェア
ITの進化に伴い土木の分野も3次元モデル化の方向にあり、それに対応して大規模解析が増加しています。こうした中で、例えば橋の計算も500mしかできなかったものが、何kmも一度に計算できるようになってくるでしょう。そうなったとき、これまで10kmのトンネルを作るとき5工区に分割して発注していたものが、効率化の点からも10km1工区で1社に発注ということになるでしょう。それを受注するには今まで以上に技術力がポイントになるものと思われます。そうした時代に対応すべく技術力の高度化を図り、一層の磨きをかけたいと思っています。
公共投資が縮小し、超大橋のような大型プロジェクトが一段落した日本では、今後は既存構造物のリニューアルのための耐震診断が増えていきますが、これには古い技術の理解がベースに必要です。既存のソフトウェアは新しい構造物を作ることを前提としていますが、古い技術も取り入れた解析ができ、しかも設計まで一気に計算できるソフトウェアの出現がのぞまれます。これは我々のような土木に携わる人間にとって永遠のテーマとも言えますが、そのようなソフトウェアをぜひCTCに開発いただくことを期待しています。
インタビューを終えて │ 後 記 │Editor's notes
フジタ様は長年にわたり、当社の各種ソフトウェアをいろいろなプロジェクトにおいてご利用いただいている重要なお客様です。ソフトウェアに対して建設的なコメントをいただくことも多く、その改良には非常に役立っております。今後増えることが予想される数値解析技術においては、ますます複雑な解析・高度な解析・大規模な解析を要求されるため、当社はソフトウェアのバージョンアップや新規開発を進めています。フジタ様には今後もさらなるご利用を図っていただくよう願っております。
長時間のインタビューをありがとうございました。(聞き手:CTC亀岡)
名称 | 株式会社フジタ (Fujita Corporation) http://www.fujita.co.jp/ |
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本社所在地 | 東京都渋谷区千駄ヶ谷4丁目25番2号 |
代表者 | 代表取締役社長 網本 勝彌 |
創 業 | 1910年12月 |
設立 | 2002年10月 |
資本金 | 140億円 (2005年9月29日現在) |
年商 | 3,513億円(連結) |
社員数 | 2,176人 (2007年3月31日現在) |
事業内容 | (1)建設工事の請負、企画、設計、監理およびコンサルティング業務 (2)宇宙開発、海洋開発、地域開発、都市開発、資源開発および環境整備等に関する調査、企画、設計、監理およびコンサルティング業務 (3)不動産の売買、交換、賃貸、管理およびこれらの代理もしくは仲介に関す る業務ならびに不動産の鑑定評価 (4)宅地の造成および分譲ならびに住宅の建設および分譲に関する業務 (5)土壌汚染の状況調査および除去等に関する業務 (6)建物、構築物およびその設備の保守および管理に関する事業 (7)宿泊施設、スポーツ施設、レクリエーション施設、健康・医療施設、教育施設、飲食店等の保有、経営およびコンサルティング業務ならびに旅行代理店業 (8)工業所有権、著作権等の無体財産権、ノウハウその他ソフトウエアの企画開発、取得、賃貸および販売ならびに情報処理サービス業 (9)コンピュータ機器、エレクトロニクス機器等の開発、販売および賃貸ならびに保守および管理に関する事業 (10)情報通信システムに係る企画開発および販売等に関する事業 (11)マルチメディアの研究開発に関する事業 (12)建設用資材、機器および機械装置の製造、加工、販売および賃貸 (13)労働者派遣事業 (14)前各号に付随する一切の事業 |