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コラム:熱流体

油圧モータによる掘削に対するFMIを用いた
連成シミュレーション

科学ビジネス企画推進部 プロダクトサービス第2課 小山 敦久

[2023/05/31]

技術の進展によりものづくりで考慮すべき要素が拡大、複雑化し、一つの物理現象だけでなく、複数の物理現象が相互作用するシステムのシミュレーションが求められるようになってきました。そこで必要となるのが異なる物理現象のシミュレーションを結合した連成解析です。このコラムでは、異なるシミュレーションツールを接続するための規格であるFunctional Mock-up Interface(FMI)を用いた連成解析の基礎知識とFMIの利用例として油圧モータとドリルによる掘削についてご紹介します。

連成解析・連成シミュレーションとFMI

異なるツールで作成されているシミュレーションを結合する場合、従来はシミュレーションツールごとに専用の接続インターフェースがあり、接続できるツールが決まっていることが連成解析の障害となっていました。しかし異なるシミュレーションツールやプログラムを接続するための規格であるFMIが多くのツールでサポートされるようになり、連成解析のハードルは下がってきています。
FMIにおいて、接続の方法はModel ExchangeとCo-Simulationの2つがあります。データの交換や連成解析はFMU(Functional Mock-up Unit)というファイルを通して行われ、使用イメージは図1のようになります。
図1左のFMUはModel Exchangeの使用イメージであり、あるツールからモデル(数式や応答曲面などソルバーを含まないデータ)をFMUとして出力し、それを別のツールで読み込んで使用します。このようにModel Exchangeではデータを一方的に受け渡すことになります。
図1中央のFMUはCo-Simulationの使用イメージであり、あるツールからモデルとソルバー(シミュレーションそのもの)をFMUとして出力します。Co-SimulationではModel Exchangeと違い2つ以上のツール(もしくはツールから出力されたFMU)がそれぞれシミュレーションを実行し、設定された間隔ごとにシミュレーション結果を交換することで、相互作用を考慮したシミュレーションが実行されます。
図1右のFMUもCo-Simulationの使用イメージですが、この方法では2つのツールがそれぞれシミュレーションを実行し、その結果を交換する機能だけがFMUに含まれます。
どの方法が利用できるかはツールによって決まっています。

図1 FMIの使用イメージ

図1 FMIの使用イメージ

油圧モータとドリルによる掘削

油圧モータによる掘削は図2のようなイメージとなります。油圧回路で油圧モータ(羽根車)に圧力をかけると油圧モータとその先に接続されたドリルにトルクがかかり回転する仕組みです。ドリルには掘削対象から受ける、回転とは逆方向のトルクがかかりますが、掘削対象が均一でないとすると、そのトルクが変化し、回転速度が変化することになります。仮に回転速度が低下すると油圧回路では油圧モータの羽根車の回転が遅くなることでオイルが詰まり油圧が上昇、回転速度を上げようとする力が働きます。このように油圧回路とドリルには相互作用があり、回転数や油圧の変動により生じる振動などへの対策が必要となる場合があります。

図2 油圧モータによる掘削の仕組み

図2 油圧モータによる掘削の仕組み

油圧モータによる掘削のシミュレーション

油圧回路のシミュレーションは流体解析、特に回路全体の挙動を低い計算コストで計算できる1D流体解析の領域となります。一方でドリルの掘削のシミュレーションは構造解析の領域となりますので、1D流体と構造の連成解析が必要となります。ここでは油圧回路を1D流動解析ソフトウェアのSimcenter Flomasterで、ドリルと掘削対象をLS-DYNAでモデル化し、それらをFMIのCo-Simulationで連成した事例をご紹介します。シミュレーションモデルは図3に示したもので、油圧回路側で計算されるドリルにかかるトルクとドリル・掘削対象側で計算されるドリルの回転速度(回転数)を設定された間隔ごとに交換して解析します。図4は基礎検討として油圧モータの容量と容積効率を変更した2ケースにおける油圧モータ回転数のシミュレーション結果となり、入力パラメータの違いにより回転数変動に差が生じることが確認できます。

図3 油圧モータとドリルのシミュレーションモデル

図3 油圧モータとドリルのシミュレーションモデル

図4 油圧モータ回転数のシミュレーション結果(横軸:時間、縦軸:回転数)

図4 油圧モータ回転数のシミュレーション結果(横軸:時間、縦軸:回転数)

まとめ

このコラムでは、異なるシミュレーションツールやプログラムを接続するための規格であるFMIについて解説しました。またFMIの利用例として油圧モータとドリルによる掘削のシミュレーションをご紹介しました。このシミュレーションは掘削システムの振動対策などの挙動検討に使用することが可能です。
CTCではこのような複数のシミュレーションツールを組み合わせたソリューションもご提供しております。

関連製品についてはこちら

1次元熱流動解析ソフトウェア Simcenter Flomaster
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非線形・動的・流体構造連成シミュレーションツール LS-DYNA
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