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コラム:マテリアルデザイン

航空宇宙産業向け金属材料開発のためのデータベース開発

材料・CAEビジネス推進部 瀬川 正仁

[2023/05/31]

高機能な材料開発を効率的に実施するために、シミュレーションによる予測が有用とされています。シミュレーションにより実験回数を削減することで、開発期間を短縮し、コストを削減可能となるほか、実験で得られないような新しい指針を得ることも期待できます。このシミュレーションによる予測や評価を高精度に実施するためには、計算モデルだけでなくパラメータや物性値が重要といえます。特に合金開発においては、CALPHAD (Calculation of Phase Diagrams)と呼ばれる手法による、合金の特性に大きく影響する安定な相や組成の情報といった熱力学特性の取得が活用されています。

CALPHADでは、実験や第一原理計算により得られる実測値を基に、合金のGibbsエネルギーを温度、圧力、組成の関数として評価し熱力学パラメータとしてデータベース化しておき、多数の元素を含む実用的な多元系合金の解析に利用しています。CALPHAD は熱力学法則に基づき熱力学特性を取得していますが、結晶構造、格子振動などの量も考慮することができるため、粘度、界面特性、弾性定数、機械的特性、電磁気特性などの他の特性にも拡張できうる手法といえます。実際に粘度や表面張力、熱伝導率、電気伝導率などの物性がデータベース化されています。

CALPHADに基づいた解析ソフトウェアを開発しているThermo-Calc Software ABは、より環境に優しく、より効率的な航空宇宙産業向けの次世代データベース開発のプロジェクトを実施しています。プロジェクトでは、航空エンジン部品に使用される軽量で高耐熱性を有する TiAl 合金開発を支援する、より高精度なCALPHAD データベースを開発しています。Ti、Alを含む三元系合金の実験が行われ、84種類の合金の360以上のサンプルについて、異なる温度の熱処理条件のもと実測値を取得することで、平衡相と組成、および相転移温度を高精度に取得しています。これら実験により、TiAl合金の高精度な熱力学パラメータが得られており、熱力学計算ソフトウェアThermo-CalcのTiおよび TiAl合金データベースの新バージョンであるTCTI5で利用されています。例えば図1に示す計算状態図では、1100℃で現れるBCC構造の相が安定な範囲や、合金の特性に影響する化合物相の安定領域を示しますが、旧バージョンより改善がなされています。

図1. Ti-Al-Mo合金の三元状態図

図1. Ti-Al-Mo合金の三元状態図

Ti合金データベースを利用した事例は以下の記事でも取り上げています。いずれも金属積層造形向けとなりますが、熱力学情報を用いたシミュレーションに活用しています。液相線温度や固相線温度など熱力学特性をもとに合金探索を実施した例や任意の組成やプロセス条件のもと組織形成過程を解析した例を取り上げています。図2では実際にTi合金データベースをもとに材料の特性を示唆する液相線・固相線温度を出力し、各元素の影響を可視化しています。

金属積層造形向け生体用チタン合金の材料設計
https://www.engineering-eye.com/rpt/column/2022/1031_material.html
金属積層造形技術の動向とCTCの研究開発事例
https://www.engineering-eye.com/rpt/column/2019/0111_material.html

図2. 添加元素量と固相線・液相線温度の関係

図2. 添加元素量と固相線・液相線温度の関係

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