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コラム:熱流体

水素生成における水蒸気メタン改質に関する
1次元熱流動解析への適用

科学ビジネス企画推進部 プロダクトサービス第2課 橋本 元信

[2023/02/28]

次世代エネルギーの1つとされる水素の “輸送” と “貯蔵” に関して昨年10月のコラムで紹介させて頂きました。そこで本稿では更に発展させ、水素 “製造” 方法の1つである水蒸気メタン改質と1次元熱流動解析を組合わすアプローチ方法を検討し、流動を含めたシステム全体でのエネルギー効率の検討への道筋をご紹介します。
水素を製造する方法は、化石燃料を燃焼させた際のガスから水素を取り出す改質と呼ばれる方法(グレー水素やブルー水素)と水を電気分解して作成する方法(グリーン水素)の主に2種類あります。またこれら以外にバイオマスや熱分解、光触媒を利用する方法もあり、コストを含めた様々な検討、研究開発が進んでいます。

今回検討した水蒸気メタン改質(SMR:Steam Methane Reforming)を含むシステム例を図1に示しました。このシステムでは水素(H2)の製造工程、二酸化炭素(CO2)の分離回収工程そして熱共有工程の3つに大別され、図1の赤の四角枠内が今回の検討範囲となります。H2の製造工程ではメタン(CH4)と水(H2O)を使用します。そしてそれぞれコンプレッサーやポンプで昇圧しH2Oは熱交換器で過熱されガス化し混合され、改質器(リフォーマー)でH2と一酸化炭素(CO)やCO2に改質されます。そして改質は次式の吸熱の熱化学反応(改質反応)と発熱のWGS(Water gas shift:水性ガスシフト)反応が主となります。

熱化学反応:CH4H2O → 3H2CO∆¯h=206 [kJ/mol](1)

WGS反応:COH2OH2CO2∆¯h=-41[kJ/mol](2)

2式をまとめると、(3)式になります。

CH4+2H2O → 4H2CO2∆¯h=165 [kJ/mol](3)

図1 MEA(monoethanolamine(CO2回収用アミン溶液))ベースのCCSシステム

図1 MEA(monoethanolamine(CO2回収用アミン溶液))ベースのCCSシステム

改質器は図2のような構造を想定しました。入口のマニフォールドから複数のチューブに分離し、内部をCH4とH2Oガスの混合物が流れます。そしてバーナーからの熱により、(1)及び(2)式の反応が起こり、出口のマニフォールドで合流します。

図2 改質器(リフォーマー)の構造例

図2 改質器(リフォーマー)の構造例

複数の分岐や合流がある場合、分岐部の圧力損失によりマニフォールド中央付近と端部では流量配分が異なる為、改質反応にも影響を与え結果として十分な性能を表現できない可能性があります。また図1に示したシステム全体でCH4やH2Oの供給流量の変動も改質反応には影響します。
このような流量の配分や流量の変動を検討するには、1次元熱流動解析を使用するのが一般的です。例えば図2の改質器をモデル化すると図3のようになりますが、通常1次元熱流動解析では熱化学反応やWGS反応のような化学反応を表現する事は困難です(図3の赤四角部)。

図3 改質器(リフォーマー)の1次元流動解析モデル化例

図3 改質器(リフォーマー)の1次元流動解析モデル化例

一方で熱化学反応(改質反応)やWGS(Water gas shift:水性ガスシフト)反応などの化学反応は、通常プロセスシミュレーターを使用して検討するのが一般的ですが、厳密な流量配分や流量変動には対応しておりません。そこで図4のように改質の応答特性を予めプロセスシミュレーターで出力させ、出力した応答特性を1次元熱流動解析に組み込みます。その結果、流動と化学反応を同時に検討できる解析モデルが構築できる事になります。

図5は、図4のプロセスシミュレーター等で得られた改質の応答特性などを組込み、Simcenrer Flomasterで表現した改質器のモデル化例となります。図5中央のComposite Componentが改質の応答特性などを組込んだ要素であり、Simcenter Flomasterの機能で構築しました。
図6に改質器モデルの検討結果例として質量流量分布と全温度分布を示しました。図6左側に改質器出入口のConcentration(モル濃度)の結果を示していますが、入口部のCH4とH2O(ガス)は、出口部ではCH4がほぼなくなり、H2O(ガス)とH2そしてCOが生成されていることが判ります。また右側の全温度結果から熱化学反応後の温度上昇を確認する事が出来ます。

図4 熱流動解析とプロセスシミュレーター

図4 熱流動解析とプロセスシミュレーター

図5 Simcenter Flomasterで表現した改質器モデル例

図5 Simcenter Flomasterで表現した改質器モデル例

図6 改質器モデルの検討結果例

図6 改質器モデルの検討結果例

上記の結果から1次元熱流動解析に化学反応を組込む事が可能であり、化学反応を含む熱流動の検討ができる事を確認しました。なお本検討では不純物を含まない単純化したメタンの特性を想定し、またモデルも分岐のみ考慮の簡略化した検討です。しかしこのような手法を図1に示すような水蒸気メタン改質全体に取り入れる事で、システム全体のエネルギー効率の検討が可能と考えます。
今回ご紹介しました1D CFDソフトウェアのSimcenter Flomasterは、様々な熱流動解析の課題に対して適用することができます。CTCではこのような機能をタイムリーにお伝えすることで、お客様の生産性向上のお役に立てるよう取り組んでまいります。

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1次元熱流動解析ソフトウェア Simcenter Flomaster
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