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コラム:熱流体

1次元熱流動解析を用いた水素輸送と貯槽の検討について

科学ビジネス企画推進 プロダクトサービス第2課 北岡 佳貴

[2022/10/31]

地球温暖化など気候変動の要因とされる温室効果ガスの削減、あるいは中和を目指す「カーボンニュートラル」、そして温室効果ガス削減に加え産業競争力の向上を目指す「グリーントランスフォーメーション(GX)」など、社会を取り巻く変革への取り組みは、今後更に加速すると予測されます。このような様々な取り組みの中で重要な施策の1つであるエネルギー転換では、従来の化石燃料から水素やアンモニア、MCH(メチルシクロヘキサン)など新たなエネルギー媒体の活用が注目されており、実用化、商用化に向けて様々な研究開発が進んでいます。
これら新たなエネルギー媒体の製造から輸送、貯槽そして利用の観点から製造や供給ラインの気液二相流の流動や熱バランスを検討する事は効率性や安全性を検討する上で重要であり、検討には1次元熱流動解析(以下1D CFD)を活用する事が一般的です。

そこで本項では、新たなエネルギー媒体の1つである水素に着目し、気液二相流の流動や熱バランスを検討する行う上で必要不可欠な二相流タンクについて、弊社にて取り扱う1D CFDのソフトウェアであるSimcenter Flomasterを使用した例をご紹介します。

図1は今回表現する気液二相流タンクのイメージです。タンク左側から気液二相状態、あるいは液単相状態の水素が流入し、そしてタンク右側上部からは気体の水素が、右側下部からは液体の水素がそれぞれ流出します。また条件としてタンク内は均質流とし、タンクと雰囲気間の熱伝達は考慮しません。
これらの条件から、タンクに対する質量保存とエネルギー保存の式は、以下の式が成立します。

図1 気液二相タンクのイメージ

図1 気液二相タンクのイメージ

  • 質量保存の式:
    質量保存の式:
  • エネルギー保存の式:
    エネルギー保存の式:

ここで、

m1:流入質量
m2:流出質量(液体)
m3:流出質量(気体)
h1:流入比エンタルピー
h2:流出比エンタルピー(液体)
h3:流出比エンタルピー(気体)
Q1:流入クオリティ
Q2:流出クオリティ(液体=0)
Q3:流出クオリティ(気体=1)
H:タンク高さ
A:タンク断面積
P:タンク内ガス圧
L:タンク内液位

Simcenter Flomasterでは上記の定式化やタンク容積(高さやタンク断面積)そして初期値などを使用し、独自の要素を構築する機能(Script Based N-Arm Component)を有しており、比較的簡単に独自用要素の作成が可能です。図2は今回新たに作成した二相流専用の気液タンクの作成例となります。

図2 気液二相タンク作成例(イメージ)

図2 気液二相タンク作成例(イメージ)

新たに作成した気液二相流専用タンクを使用し、簡単な動作確認を実施しました。図3はそのモデル例となります。このモデルではタンク左側からクオリティ0.2で一定の混相状態の水素が流入し、タンク右側の気体、あるいは液体ラインの下流に配置された制御弁の開閉により、タンク内の液位や圧力を検討しました。

図3 水素輸送ライン及び気液二相タンクのモデル例

図3 水素輸送ライン及び気液二相タンクのモデル例

図4は気液二相流専用タンク下流部に配置された制御弁の開度を変化させた際のタンク内液位とガス圧の解析結果となります。この図から15秒迄に液体側の制御弁が全開から全閉(気体側制御弁は全閉)となり、その結果として液位は低下します。一方でこの間のガス圧ですが、通常液単相の場合は液位が下がる事で減圧されガス圧は下がりますが、上昇する事が確認できます。これは流入する水素が液単相ではなく、クオリティ0.2の混相流が流入される影響と予測します。
15秒時点で液体側及び気体側の制御弁は全閉になり、混相流が流入する事で液位、ガス圧共に上昇し、25秒からの気体側制御バルブが開く事でこれらが減少する現象を確認できます。

図4 制御弁開度変化による時刻歴毎のタンク内状態の変化

図4 制御弁開度変化による時刻歴毎のタンク内状態の変化

上記の結果より、1D CFDを使用することで水素輸送ラインにおけるタンク内の状態を検討することができました。なお、今回ご紹介しました1D CFDソフトウェアのSimcenter Flomasterは、様々な熱流動解析の課題に対して適用することができます。CTCではこのような機能をタイムリーにお伝えすることで、お客様の生産性向上のお役に立てるよう取り組んでまいります。

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1次元熱流動解析ソフトウェア Simcenter Flomaster
https://www.engineering-eye.com/FLOWMASTER/