HOME科学システム本部メールマガジン「CTCサイエンス通信」web版滅多に発生することはない水素爆発、でももし発生したら?その被害規模は?

コラム:衝撃・安全

滅多に発生することはない水素爆発、
でももし発生したら?その被害規模は?

原子力・エンジニアリング第1部 阿部 淳

[2021/07/27]

先日、都内をドライブしていると何やら新しいガソリンスタンドを発見。でもなんか普通のガソリンスタンドと違って、広くてすっきりしているなあ、と思っていたら、水素ステーションとの看板がありました。まだ数は多くありませんが、たまに見かけるようになりましたね。まだ自家用車は地球を少し汚しながら走っていますが、将来は近所の水素ステーションにお世話になることになるかもしれません。

さて、「水素」と聞いて思い浮かぶのが小学校か中学校の時に理科でやった水素爆発実験です。もう何十年も前なのでうろ覚えですが、逆さに持った試験管に微量の水素を入れて、恐る恐る火を近づけると、ポンッと着火して、容器の内側に微量の水滴が付着する、という内容だったと思います。子供たちは大興奮、先生は得意満面。やっぱり実験をすると、記憶に残りますよね。水素をどんな方法で生成したかは完全に忘れちゃいましたけど。

ただし、実際には水素が爆発することはめったにありません。まず日常生活で私たちの身の回りに水素自体がありません(もちろん、水素分子単体という意味です。水素原子という意味であれば水(H2O)は大量に存在しますからね)。近年世の中がクリーンエネルギーとして水素を活用していこう!という流れになってからは、注意深く探せば見つけられるようになってきました。一番近いところではご近所の家の裏庭に置かれている家庭用燃料電池の白いボックスですね。都市ガスなどから発生する水素と酸素を反応させて発電するエコな機器です。また、ブルーな色合いの路線バスをちょくちょく見かけますが、あれは水素タンクを搭載した燃料電池車ですね。そして冒頭でお話しした水素ステーションが挙げられます。これらに設置されている水素を貯蔵する容器はとても頑丈で簡単には壊れません。交通事故などの衝撃にも耐えるように設計されており、水素が漏洩することはないようです。

もし万が一水素が容器外部に漏洩したとしても、水素ガスは最も軽い気体であることから、大気中に滞ることなく短時間のうちに上昇・拡散してしまいます(実験で試験管を逆さに持つのはこのためですね)。大気開放空間では着火に必要な水素濃度に達するのが困難で、とても爆発には至らないと考えられます。一方、建物内部や地下室に水素が漏洩した場合、天井付近にある程度の水素が滞留することになり非常に危険な状態になりそうですが、水素漏洩検知装置や高速換気装置などの安全システムが必ず義務付けられていますので、そのような非常事態になる可能性は極めて小さいと考えられます。

しかし、「絶対に起こりえない」ということはなく、ごくまれに水素が原因と思われる爆発事故が生じていることも事実です。そして、もし爆発事故が発生した場合、周囲に甚大な被害が生じることが予想されます。たとえ確率的に微小だとしても、事故の規模や被害状況を事前に把握しておくことは重要です。ここでは、水素爆発に対する解析事例として、鉄筋コンクリート構造物内での水素爆発が生じた場合の爆風波伝播状況および構造物の変形・破壊状況を数値シミュレーションで解析しました。構造物内の水素-空気混合ガスが定容燃焼した状況を想定しています(※水素爆発時の条件設定については以下のコラムをご参照ください:衝撃・安全コラム:水素漏洩による爆発評価|【engineering-eye】伊藤忠テクノソリューションズの科学・工学系情報サイト)。

図1 圧力コンター図

図1 圧力コンター図

図2 構造物の破壊状況(赤:破壊状態)

図2 構造物の破壊状況(赤:破壊状態

圧力コンター図から、構造物の窓ガラスが割れて、爆風が屋外に拡がる様子がわかります。構造物は外側に膨らみ、無数の亀裂が生じることが予測できます。このような水素爆発に対する数値シミュレーション予測に基づいて、さらなる安全対策を講じることができればうれしいですね。水素爆発野外試験を数値シミュレーションで再現した検証結果も合わせてご覧ください。

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