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コラム:製造・構造

LS-DYNA スケーラビリティ ベンチマークの勧め

材料・工学技術部 応用技術第1課 早川 尊行

[2021/06/24]

LS-DYNAは、一言でいうと ちょっと変わった解析用のソフトです。
今回は、その変わった部分と、ライセンス数やその費用にまつわるお話をしたいと思います。

まず、LS-DYNAは、「ワン・コード・ストラテジー」というやや珍しい(変わった)方針・哲学を持っています。それは「1つのコード(プログラム)で全機能が使える」というものです。LS-DYNAは構造ソルバー(陽解法)が中核をなしていますが、伝熱ソルバー、陰解法のソルバー各種(構造、振動・音響など)、流体ソルバー(ALE、ICFD、CESEなど)、電磁場ソルバーもくっついています。さらには、SPH、DEM、EFG、SPG、XFEM、ペリダイナミックス、燃焼等を扱うChemistryソルバー等々、様々な解析手法・要素定式も利用することが可能です。材料パラメータは自分で用意する必要があるとはいえ、200を優に超える材料構成則が最初から組み込まれていることも大きなアドバンテージです。(なお、Ansys LS-DYNAと呼ばれるWorkbenchからキックできるLS-DYNAは、陽解法の構造解析をメインとした機能限定版です。これと区別して、フルバージョンのLS-DYNAをLST LS-DYNA、もしくはLSTC LS-DYNAと呼ぶことがあります。ここで紹介しているのは、フルバージョンのLS-DYNA(LST LS-DYNA)になります。)

周辺ソフトウェアやモデルが無償で公開されているというのも、ほとんど他では聞かない特徴です。LS-PrePost(LSPP)、LS-OPT、LS-TaSC、ダミーモデル、バリアモデル、タイヤモデルが開発元から提供されています。

ライセンス形態も「同時に何コア分の計算を流せるか」で決まるタイプとなっており、単純明快です。1コアのライセンスを持っているだけで、機能的には全てを利用できます。この観点でも、ワン・コード・ストラテジーが維持されていることになります。「計算速度をUPさせたい」とか、「同時に多数の計算を流したい」という場合にライセンスを増設することになります。開発元がAnsys傘下になったことで変更された部分もありますが、こういった製品の使い方そのものは、今のところ大きくは変わっていません。

全ての機能を1コアのライセンスでも使えるのはよいのですが、生産性という意味で、課題を抱えている場合が多々あります。例えば、1つの計算に2~3日かかっている場合、1つの仕様・形状変更の良し悪しを週に1,2回しか判断できないことになります。もし、これが半日(一晩)で終わるようになれば、週末をはさんで一週間で5,6回、良し悪しの判断をすることができるようになります。3~5倍程度サイクルが速くなります。

この時に必要なライセンス数(コア数)はどのくらいになるでしょうか?
例えば、72時間かかっている計算を12時間(一晩)に短縮するには、最低でも6倍(6コア)は必要になります。さすがに理想的には速度がスケールしないこと、1コアの時はCPUのクロック周波数が高くなる(ターボブーストなど)ことも考え合わせると、概ね8コアくらいはかけたくなります。元が36時間程度なら、4コアでもよさそうだという話になります。一方で、うまくスケールしない計算の場合は、12~16コアくらい必要になるケースがあるかもしれません。

図1はスケーラビリティを確認した例の1つです。スケーラビリティは計算機の性能やチューニングの有無、問題の種類、LS-DYNAのバージョンによっても変動します。この問題は3台の自動車の衝突問題だが80万要素程度で、この類の問題としては小規模な部類です。同種の問題では、コア数が増えた時に、スケーラビリティが少し伸びにくい部類に入ります。(通常、大規模なものほど並列化効率は上がりやすい)また、領域分割のチューニング等は行っていません。問題に適したチューニングをすることで、最大10%程度速度が向上するケースがあります。なお、ideal(理想形)の直線は参考程度のものと考えてください。

図1 スケーラビリティの例(3Cars 衝突問題)

図1 スケーラビリティの例(3Cars 衝突問題)

この時、気になるのはライセンス費用です。これらのコア数を使うためには、ライセンス費用はどのくらい必要なのでしょうか?
あまり具体的な数字はこの場には出せませんので、おおよそをグラフにしてみました。(図2参照)横軸がコア数で、縦軸がその時の年間保守費用です。よく「Log関数みたいな増え方なんです」と説明させていただいていますが、あまり大げさではないとおわかりいただけるかと思います。

図2 コア数(横)と価格(縦)の関係

図2 コア数(横)と価格(縦)の関係

投資効率、費用対効果については、「判断の回数ベース」で考えるか、単純に「計算速度ベース」で考えるかで少々差がありますが、8コア辺りで考えると、少なくとも投資した金額と同等以上の価値があるといえそうです。

厳密には人件費や計算機の設備費用なども考えなければなりませんので、ここまで単純な話にはなりません。しかし、通常であれば実際に「最も高額なのは人件費」ですので、解析者のアウトプットが数倍にスケールすると考えると、投資効率はさらに良好なものとなります。16コア(や後述の35コア)の保守費用ですら、一人の解析技術者の人件費の方が高額と考えられます。ライセンス増設によって部署全体で、従来の「解析技術者一人分の仕事量」を新たにこなせるようになれば、十分に投資の効果があったと考えることができるでしょう。

35コア以上になると、サイトライセンスというものに切り替えることが可能となります。うまくLS-DYNAを活用できる体制を構築できてさえいれば、年間の保守費用に対してのリターンはどんどん割合が上がっていくことになります。

一方で、実際には少し面倒な問題も横たわっています。

それは、「自分たちの課題で期待通りに計算速度がスケールするのか?」ということです。ごくごく一般的な衝突解析などであれば、上記の議論で十分な場合がほとんどです。しかし、それなりに難しい課題に取り組んでおられる現場がほとんどであることから、「試してみないとわからない」というのが実態です。なら、「実際に試してみましょう」というのが今回のお話です。

CTCではデモライセンス or ベンチマークテストのサービスを提供しています。すでに社内で解析技術はそれなりに成熟しているから自分たちで試したい、あるいは機密性が高い課題ばかりなので自分たちで試す必要がある、という場合はデモライセンスを提供いたしますので、お客様の手でスケーラビリティをご確認いただけます。一方、解析技術の改善も含めてCTC側で確認してほしい、という場合もあるかもしれません。そのような場合は、弊社がベンチマークテストを実施し、結果をフィードバックいたします。どの程度のコア数にすることが価値的なのか、といったことを個々の状況にあわせ検討し、提案をさせていただく流れとなります。

また、ライセンス数が増えてくると、計算速度をUPさせる他に、「多くの計算を流す」ことも選択肢になってきます。多くの解析技術者を抱えている場合はもちろんのこと、「最適化に取り組んでみたい」という場合に流せる本数が大事になってきます。

最適化の計算では、設計変数を振った同じような計算をいくつも流すことになります。人力でトライアンドエラーを繰り返し、パラメータスタディをしたりというのは、貴重な解析技術者のリソースを無駄に浪費してしまうことになりかねません。最適化ソフトであるLS-OPTは、適切な設定さえできれば、見落としも発生しにくい形でシステマティックに最適解を導いてくれます。その計算中、解析技術者は他の課題に取り組んでいても構いません。このように、費用をつぎ込んででもライセンス数を増やすことで、実は経営的観点でプラスに働くことが多々あるのです。もちろん、LS-OPTの使い方がわからない、といった場合は弊社のサポートチームが保守サポートの一環で立ち上げをご支援いたします。

1コアのライセンスでも色んなことができるLS-DYNA。
だけど、使えるコア数が増えると、新たな地平が見えて来ます。自動車などの馬力と同じなのかもしれません。
人間はせいぜい1馬力。私が学生時代愛用していた50ccのスーパーカブは4馬力。これらでも頑張れば遠くまで行けますが、100馬力以上の自動車なら、苦も無く遥か遠くまで、しかも短時間で安全に行くことができます。レースカーの領域である300や500馬力などになるとドライバーに高度なテクニックが要求される辺りも、どこかLS-DYNAでの解析と似ていますね。

あなたもCTCと共に新たな地平を目指してみませんか?
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